2022年12月25日日曜日

香天集12月25日 中嶋飛鳥、安部礼子、木村博昭ほか

香天集12月25日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
大根を煮ており膝を曲げ伸ばし
冬木の芽老眼鏡の備えあり
鬼瓦四温の鼻を膨らます
冬日差し胸に移れる高野かな

安部礼子
生涯の入れ替わりゆく冬銀河
異なりを怖れて落ちてゆく木の葉
体毛を棄てた淋しさ虎落笛
雪の山絵本の巨人跨ぎけり

木村博昭
上京す銀杏黄葉と会うために
公園に昨日のボール霜の朝
河豚を糶る袋の中の熱き指
剪り矯めし枝の拳を冬天へ

楽沙千子(11月)
捨てきれぬ句帖の厚み焚火跡
悉く残せる句集爽やかに
秋晴の三角点を探しけり
瞑想の形くずさず枯葉鳴る

楽沙千子(12月)
甘い香の厨湯気立つ小豆かな
恒例の出来の違いし味噌作り
雑談の刻を忘れる小豆粥
網上がるふるさとの浜冬ぬくし

小島守
先に消え郵便局の冬灯
開戦日テレビニュースを分析す
年つまるイルミネーションイミテーション
隣り合い二重マスクの思い人
*岬町小島にて。

2022年12月18日日曜日

香天集12月18日 玉記玉、石井冴、三好広一郎、久堀博美ほか

香天集12月18日 岡田耕治 選

玉記玉
さしあたり遺品の鞠をついている
一日を翻訳すれば太鼓焼
梟や相打てば即発火する
凍蝶は金平糖の突起から

石井冴
在宅を示す自転車六林男の忌
実を結ぶこれはやっぱりさねかずら
うす味に馴染み湯豆腐の不透明
冬あかね寂しきものにボタン穴

三好広一郎 
冬の虹いちばん好きな色がない
おはようのちいさな声や牡丹雪
中年やどのセータにも香辛料
近い過去芋蔓式に十二月

久堀博美
兄弟のような三個の藷もらう
海を見て暮らす嫗の大根漬
枯野のみひかりが残り暮れゆけり
よく動く輪飾を編む今日の五指

砂山恵子
三代の理系の家系寒昴
もくもくと来てもくもくとおでん食む
山茶花は集まるために咲いてゐる
訳も無く海を見に行く年の暮

宮下揺子
あかのまま見知らぬ人に会釈され
天高し黙食終えて鬼ごっこ
連れ合いと逸れし冬の動物園
有刺線に兵士十二月八日

小崎ひろ子
冬の日もさくらと呼ばれ無人駅
寒椿白き空より白くして
電線を伝う暖にもある格差
冬鴉われらの知らぬ声交わし

岡田ヨシ子
百枚の賀状書きたる日の遠し
冬至粥我にもわかる声のする
着ぶくれのメモせず消えし一句かな
歌合戦今も昔の演歌歌手
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2022年12月11日日曜日

香天集12月11日 柴田亨、三好つや子、夏礼子、加地弘子ほか

香天集12月11日 岡田耕治 選

柴田亨
彼と我の棺の重さ冬に入る
位牌のみ手元に残り冬日向
シベリアとつながる冬の蒼穹へ
十二月老いの平穏猫の不在

三好つや子
悪童のえくぼに似たり柿の傷
左手に鋏なじませ冬に入る
冬日和遺品に椅子の設計図
十二月空と交信する巨石

夏 礼子
病む人の手のひらに置く榠樝かな
大壺に指あとのあり秋日影
ねこじゃらし風のかたちを遊びたる
黒猫のぬうっと釣瓶落しかな

加地弘子
冬の蝶陰の重さを日溜りへ
小振りながら月下美人の返り花
枯菊にせわしなく来るもののあり
大嚔しばらく犬の吠える闇

春田真理子
月光に吸い込まれゆく土の笛
つまだてて釜を開けり月夜の児
恍惚とあり三日月の低さにて
十六夜の柱に届くリコーダー

古澤かおる
チョコ味のサクマドロップ冬日向
石庭の力強さよ霜の朝
冬の日が差す病棟の父の窓
一日を割烹着にておでん煮る

大西英雄
除夜の鐘月にも届く静かさよ
二人して安らかに聞く除夜の鐘
子や孫と寿いでおり初日の出
観音の姿に立てり寒牡丹

玉置裕俊
癌告知年寄の日に受けており
たよりなき足に一枚落葉来る
冬木立先を抜き越す救急車
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2022年12月4日日曜日

香天集12月4日 玉記玉、谷川すみれ、渡邉美保、久堀博美ほか

香天集12月4日 岡田耕治 選

玉記玉
ウエハースのよう梟鳴く夜は
飛石がもひとつ欲しい冬の蝶
人間に人参部分あり愛す
歩いても歩いても道枯木立

谷川すみれ
歳晩の澱みに点ける煙草の火
毛糸玉置く空白の請求書
盛塩を過ぎ行くものの十二月
小春日の影が大きく笑いおり

渡邉美保
胸の中にも凩の通り道
沼杉の樹影ふくらむ神の留守
覗かせてもらふ石焼藷の甕
豆腐屋の白い前掛冬に入る

久堀博美
水飲んで気ままに歩く天高し
仮の世に鬼の子としてぶらさがる
方角を失っており茸山
人の死に立ち会っている海鼠かな

加地弘子
秋気澄む盲導犬の眼差しに
若き頬とがらせながら柿を噛む
枯菊を紐で括れば黄蝶舞う
枯葎生き生きと雨生き生きと

辻井こうめ
黄と赤の月の往還澄みゆけり
コスモスのスタンプを押し右廻り
満天の星のもっとも聖樹かな
素通りの常設展示枇杷咲けり

佐藤俊
大法螺の混じりて時に返り花
冬の川記憶の隙間に流れ込む
木菟鳴く人の世の穴深くして
ふるさとに記憶を残し木の実落つ

神谷曜子
初時雨猫に弱音を聞かれおり
わがままな女を入れて日向ぼこ
凩の夜の底から本探す
ピカソ風大落書に冬夕焼

河野宗子
子らの部屋ペン立てしまま秋の声
黒留袖これが最後と秋の朝
うるわしき人の集まり冬隣
落葉掃き会いたい人がすぐそこに

垣内孝雄
かつ丼のたまごふつくら冬休み
買ひ忘る二つ三つとよ神の留守
糠床に昆布をほどこす文化の日
甘えるも媚びるも苦手ぼたん鍋

牧内登志雄
鮟鱇の最後に残る顎の骨
気嵐や鉄橋渡る貨車の列
ストーブやそろりのろりと猫の居て
霜柱光る朝採れ直売所

藪内静枝
点眼が上手に出来て小春かな
初時雨庭師の鍔の雫かな
珈琲を少し熱めに今朝の冬
冬麗窓辺に朝のパンを置く

田中仁美
お祝いのピースをつくる秋日和
秋日和フラワーシャワー浴びており
冬の月写真に撮って待つことに
石蕗の花愛しき人の浮かびけり

吉丸房江
肩の荷を二つおろして忘年会
こおろぎさん夜通し鳴いていたんだね
鳶の描く線丸くなる秋の空
神神の足跡拾い淡路島
*南海多奈川線にて。