2024年12月29日日曜日

香天集12月29日 辻井こうめ、夏礼子、中嶋飛鳥、谷川すみれ他

香天集12月29日 岡田耕治 選

辻井こうめ
片寄りし弁当箱の小春かな
白味噌の雑煮に馴染み漆塗
剥く蜜柑そのままにして聞き役に
青葱の飛び出してありエコバッグ

夏礼子
琴の音の戻って居たり石蕗の花
抱擁の耳を澄ませよ龍田姫
青空を降ろして来たり吊し柿
枇杷の花傘を傾けすれ違う

中嶋飛鳥
冬の虹いつも死角に父と母
少しずつ泣き貌見せる雪だるま
狐火や火種となりて燃えのこり
枯葉うち連れ銀行の自動ドア

谷川すみれ
ポインセチア最後のドアの見えてくる
十二月音なく終わる砂時計
冬日向仲間と眠る零歳児
間がもたぬ体操服の落葉掻

柏原玄
あっち向いてホイ現世の日向ぼこ
而して勤労感謝の日の遊山
折折に六林男の言葉冬北斗
二度死んでみたくなったと返り花

砂山恵子
マフラーし次の言葉を探りをり
冬うらら窓から窓へ糸電話
交通課待合室の聖樹かな
言ひ出せぬまま風呂吹の湯気消えて

前藤宏子
捨案山子守るものなき空を見る
吊革の揺れ揃いたり小六月
散る枯葉見届けている風のあり
今日始む羽毛蒲団を蹴り上げて

宮下揺子
川音の一段高し赤のまま
秋の夜アマゾンで買う誕生花
花八手乗り越えられぬこと多し
湯冷ましに湯を満たしおり忍冬忌

神谷曜子
好天や噂の好きな烏瓜
山眠る準備の音のせりせりと
十二月八日鳥打帽の父
明日へと続く紫星居てる

楽沙千子
着ぶくれて暗算遅くなりにけり
寒灯下筆先のはね定まらず
耳と目に充たせり冬のコンサート
なじみたる紀州茶粥や冬至の日

宮崎義雄
トンネルの錆の匂いや藪柑子
猫の毛の残る毛布を干しにけり
捨てられぬ冬靴下の褪せしもの
寸劇を終えて聖菓の列にいる

河野宗子
寒鰤や水の瀬音のよみがえる
まず外の空気に当たり冬の空
甘鯛や有馬離宮のお献立
ジャズを聴くナイトステージ寒椿

金重こねみ
儘ならぬ帯皺一つ秋袷
凩が喉の奥にもありてヒュー
極月や買物プラン総崩れ
ちゃんちゃんこ着れば落ち着く針仕事

安部いろん
憂うため比べたりして着膨れる
生の記憶乱反射する霧氷林
少年の殺意久しく冬薔薇
奥能登のたま風通年のカオス

田中仁美
右手をグー舐める赤子の冬帽子
ベビーカーにひとひら落ちて冬紅葉
冬の霧有馬の宿に深くなり
冬の月見知らぬ人と有馬の湯

木南明子
大盛の海鮮丼の鰤厚し
鳥たちのために渋柿残しけり
供えたる干柿今日の甘さかな
冬の百舌鳥知らぬ間に逝く友のこと

俎 石山
破れ蓮疲れた足に水の音
今日もまた背を向け君の懐手
隣から夕べおでんの香りかな
定年を迎える属吏おでん酒

松田和子
吉野山吐く息白く夢の後
ポインセチアめぐり合せの車中席
柊の花なごやかに母の香よ
湯上りは八十路祝のちゃんちゃんこ

森本知美
何気ない振りしていたる小春かな
湯の柚子に爪立てて香を強くする
さりげなく栞に拾う紅葉かな
さざんかの実や思い出を捨てきれず

松並美根子
井戸水に温もりのある寒さかな
ひとりごと冬満月に気づかされ
今さらに十色の想い冬空へ
石蕗咲いて変わらぬ庭をひとりじめ

丸岡裕子
返り花ふうてんの子に笑いたり
秋の空うき雲自由奔放に
晩秋や君は他国へ帰りゆく
隣家より形見の菊の香り来る

目美規子
ドッグランにじゃれあう子犬冬うらら
冬紅葉馬の嘶くレストラン
訃報来る五年御無沙汰枯尾花
酒粕を炙る火鉢よ母在りし

石橋清子
冬の虹トンネルを抜け見上げたる
天を突く皇帝ダリア自慢かな
穭田の小雨に濡れしこうのとり
山上の紅葉かつ散る竹田城

中原マスヨ
おでん鍋家族にひとつ卵かな
縁側の明るくなりぬ吊し柿
丸四角こたつの中に積木かな
寒風や寝落ちしている露天風呂

〈選後随想〉 耕治
 十二月二十六日の「折々の言葉(朝日新聞)」に、鷲田清一さんが画家の瑛九さんの次の言葉を取り上げている。「油絵は油絵を描くことによってしか進歩しない」、この言葉は即ち俳句にも当てはまるだろう。「俳句は俳句を書くことによってしか進歩しない」と。香天の作品をはじめ、様々な分野の本を多く読んで、俳句を書いていく以外に、進歩の道はなさそうだ。
白味噌の雑煮に馴染み漆塗 辻井こうめ
 雑煮を白味噌にするか清ましにするか、男性と女性とで言うと、大体女性が勝つそうなので、女性の方が白味噌の関西圏で、男性の方が清ましの関東圏であったのかも知れない。白味噌の雑煮を毎年食べてきて、年月を経てきた。目の前にあるのは漆塗りの椀。白味噌に馴染んできた時間の流れと、目の前にある漆塗りとの取り合わせがいい。漆塗りというのは、能登の輪島塗が注目されているが、黒かったり赤かったり。そういう色と白味噌の白の対比が鮮やかな、書くことによって進歩してきたこうめさんの一句だ。
*大阪天満宮にて。

2024年12月22日日曜日

香天集12月22日 湯屋ゆうや、前塚かいち、木村博昭、嶋田静ほか

香天集12月22日 岡田耕治 選

湯屋ゆうや
妹の編みし毛糸を疑へる
身の内の広きところに冬木かな
雑炊やもうわすれてもよからうて
歩き来てわたしの手へと冬帽子

前塚かいち
見通しの立たず落葉を掃きにけり
様様な色の現れ掃く落葉
合唱の息継ぎ早し十二月
荊棘なる世にある光クリスマス

木村博昭
歩行器が小春日和を行きたがる
ポケットに両手突っ込み憂国忌
ストーブの火と語り合う一期かな
大蛇(おろち)舞う人が足りない村の冬

嶋田 静
地に近き冬たんぽぽのいびつかな
葉牡丹に渦巻いてありひとり言
煤逃や娘時代の母の写真
寒昴彼女の星はどの辺り

古澤かおる
花園の中へと視野の狭まりぬ
顔小さく手足長き子日記買う
大福に機嫌を直すマントの子
チョキだけで勝ち上がりたるクリスマス

半田澄夫
訪ね行く友の家知る飛蝗かな
老いるとは巡り合うこと栗御飯
耳鳴りがざわめき出す星月夜
干竿の法被が揺れる秋の暮

中島孝子
茸飯満つる香にお焦げ載せ
桜もみじ白き廃墟を包み込み
自然薯掘る父が自慢の道具にて
じゃんけんぽん影绘遊びの秋日かな

橋本喜美子
ダリア園昭和の色の盛りなり
鳴きながら飛び出てゆく鵙の声
いちどきに葉裏返せり初嵐
水底の気のくっきりと秋の川

北橋世喜子
初成を輪切りにしたりレモネード
コスモスや飛行機雲の一直線
もう少し待って欲しいと藤袴
釣瓶落し家族の時を取り込みぬ

上原晃子
黒くなる痰切り豆を眼とす
秋深むメタセコイアの琥珀色
陰凉寺銀木犀の香が包む
夕映を輝く芒急ぎけり

石田敦子
立冬が初冠雪に富士の山
ドアノブに吊り下げてあり富有柿
間引菜を摘む指白くなりゆけり
すれ違ふ子等全員の赤い羽根

長谷川洋子
冬に入るオールドローズ咲ききって
時雨傘外す山鳩鳴く方へ
氷突き天を仰げるもののあり
白菟信じてほしいこの話

東 淑子
紅葉狩みんなで笑うはらはらと
野分来るベッドの上の窓ガラス
さつまいも掘ればすぱっと切れる鍬
朝焼けに消えてゆくなり月の影

〈選後随想〉 耕治
身の内の広きところに冬木かな 湯屋ゆうや
 まず「身の内の広きところ」とはどんなところなのか、そこにどのような風景が広がっているのかを想像する。「広きところに」というゆったりとした言葉の並びが、冬の静けさの中で、作者の心が開いていくような広がりを感じさせる。周囲の人々から離れ、自分自身と向き合う時間の中で、心の自由を感じているのかも知れない。そんな心の中に置かれているのが、冬木なのである。冬木から寂寥とした情景を浮かべることもできるし、春を待つ情意を感じ取ることもできる。ゆうやさんの選んだ言葉に、深い意味と広がりが託されている作品だ。
*大阪観光大学にて。

2024年12月15日日曜日

「香天」77号本文

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「香天」77号 2024年12月 目次
招待作品           2 木村和也
鈴木六林男賞受賞作品     4 古田 秀
代表作品           6 岡田耕治
同人集           10 50音順送り 本号は「も」から
同人集五句抄        22 石井冴、岩橋由理子ほか
特集句集『父に』を読む   24 森谷一成、三好つや子、中嶋飛鳥、夏 礼子、
                石井 冴、玉記 玉、辻井こうめ、渡邉美保、
                谷川すみれ、綿原芳美、浅海紀代子、湯屋ゆうや他
同人作品評          38 森谷一成
香天集十句選         35 安田中彦、谷川すみれ、夏 礼子ほか
エッセイ          45 柏原 玄
創作 俳句ショートショート 47 三好広一郎
香天集  岡田耕治 選     48 上田真美、渡邉美保、玉記 玉、三好広一郎ほか
選後随想          78 岡田耕治

香天集12月15日 渡邉美保、柴田亨、三好広一郎、松田敦子ほか

香天集12月15日 岡田耕治 選
渡邉美保
侘助や重心低く息を吐く
霜の夜の仕舞い忘れの脚立かな
マフラーの巻き方人の別れかた
枯れてゆくものに雨降る近松忌

柴田亨
青空や手編みセーター重すぎる
伐り株に三角ポール立てて冬
冬あかりかそけき色のあたたかさ
冬銀河静寂を渡る神の息

三好広一郎
モザイクをとれば悲鳴や十二月
マラソンの最後尾から寒卵
水道がぽたぽた弛む風邪薬
クリスマスの椅子ケーキが欲しいだけ

松田敦子
冬薔薇損する人とささやかれ
煙突と煙の隙間枯木立
空風や紙飛行機の羽の反り
白息や車両傾く始発駅

上田真美
目がぎょろり母のちぎり絵巳年待つ
冬の朝月へとペダル踏み込みぬ
冬鷺や堰に並びて口開ける
落葉踏み細径を取る人力車

小﨑ひろ子
冬の朝地にぴぴぴ舞ふスポーツ紙
しみじみと蜆をすする少女かな
竹林を鳴らす秋風なまなまし
死ななくてよかったですね神有月

釜田きよ子
病院のことに大きなクリスマスツリー
掃き寄せし落葉一気にさらう風
極楽と思い炬燵にもぐり込む
着膨れて令和の顔になり切れず

楽沙千子
焼芋の決め手は匂い窯から出す
照り陰り冬日もしばし斑のあり
草虱風を通さぬ空き家増え
葛折上るほど濃き紅葉かな

大西孝子
海渡るアサギマダラの優雅かな
酔芙蓉風に誘われ紅を増す
冬隣我を忘れて墨匂う

〈選後随想〉 耕治
青空や手編みセーター重すぎる 柴田亨
 手編みのセーターは、貰ったときは嬉しいが、年数が経ってくると重たくなってくる。澄み切った青空の下へ出掛けようとするとき、この手編みを着ていこうかどうしようかと迷っている。青空の開放感とセーターの重みの対比が、心の葛藤や複雑な感情を象徴している。例えば、心の重み、過去の思い出や抱えている悩みなどが表現されているのかも知れない。柴田さんならではの一句だ。
 
モザイクをとれば悲鳴や十二月 三好広一郎
 モザイクは、通常美しい模様や絵画を連想させるが、ここでは隠されたもの、あるいは過去を象徴しているのかも知れない。そのモザイクを取るのだから、何かが明らかになる瞬間を切り取っている。モザイクの下に隠されていたものが、悲鳴をともなって現れるのだから、その発見が衝撃的なものであることがわかる。十二月という季節は、一年を振り返り、新たな年を迎えるという転換期。この季節に、過去の出来事が再び浮上し、心の奥底から悲鳴が上がるという状況が想像される。モザイクの下に何が隠されているのか、なぜ悲鳴が上がるのか、読者を謎解きの世界に誘う三好広一郎さんの手法だ。
*国立国際美術館にて。

2024年12月8日日曜日

香天集12月8日 佐藤静香、三好つや子、浅海紀代子、春田真理子ほか

香天集12月8日 岡田耕治 選

佐藤静香
寒鴉小野小町のされこうべ
寒茜熱発したるされこうべ
透き通る石炭の炎よ失恋す
さよならのらにある余韻冬の星

三好つや子
鴉には見える冬日の等高線
亀連れて小春を歩く少女かな
枯蟷螂まだあとがきの一行目
耳袋さびしい翼入れておく

浅海紀代子
冬灯明日入院の大鞄
病棟の消灯早く冬の雷
路地の灯のひとつに帰る夕時雨
尾を立てて猫の出迎えシクラメン

春田真理子
布橋会女人の褄につくもみじ
草紅葉踏み分けてゆく独りかな
大枯野無明無音に立ち尽くす
労りの石蕗の黄やまた歩く

牧内登志雄
望郷のひろがつてゆく鴨の陣
雪降るや社に聞こゆ篠の笛
煮凝の四角四面に立ちにけり
休戦も停戦もなき聖夜祭

岡田ヨシ子
藁草履通学の道思い出し
また羽織るダウンコートの軽さにて
干柿や作る会話のよみがえり
鮪定食五人で食べる会話かな

〈選後随想〉 耕治
さよならのらにある余韻冬の星  佐藤静香 
 さよならと言ってわかれた、その「ら」にどのような余韻が残っているのだろうか。具体的な情景描写がないので、様々な余韻の残り方が想像できる。もう此れ切りにしようというきっぱりした響きなのか、また近々また会いたいという明るい響きなのか、それともその中間のあいまいな響きなのか。冬の星空の星を眺めながら、自分の心に宿る様々な感情を呼び覚まし、その人との来し方をふり返っている、そんな静香さんの姿が浮かんできます。今度句会で静香さんとお別れするとき、さてどのような「ら」にしようかと、たのしんでおくことにしよう。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2024年12月1日日曜日

香天集12月1日 辻井こうめ、夏礼子、谷川すみれ、森谷一成ほか

香天集12月1日 岡田耕治 選

辻井こうめ
引き返す小犬もゐたり秋日和
鳥ひよいとぶらんこになる木守柿
どんぐりのアフロ・トンガリ帽転ぶ
ご機嫌な双子のバギー秋桜

夏礼子
一途とはこの白曼珠沙華の線
ときどきの淋しさが好き紫苑かな
本降りとなる紅萩の揺れはじめ
野紺菊母呼ぶ声のかたちかな

谷川すみれ
袋ごと蜜柑をもらう別れかな
椎落葉掃くことだけを分け合いぬ
枯芝のふわふわ父に会いたきよ
夫婦とはセーターほどの心持

森谷一成
ひょんの笛あなぐる眼鏡上下して
銀杏散る埴輪の兵に駒つらね
初時雨チェーン外れて仕舞いけり
ラグビーの黝きあと今日終る

中嶋飛鳥
文末を括らずにありつづれさせ
人間と生まれ勤労感謝の日
冬の月語りだしたるされこうべ
片時雨素描の顔の泣きだせり

浅海紀代子
日月やそれぞれの背に荻の風
ひとつ為しひとつ忘れて秋の暮
草の花晩年の身を軽くする
おでん鍋ふつふつ余生沁みにけり

柏原玄
夕暮れて位置につきたる白粉花
少年や炒リ喰らうべく蝗取る
鶏頭の暗きタべを残しけり
真っ先に見届く投票箱の空

釜田きよ子
すすき芒誰もが火種隠し持つ
冬夕焼け我ら等しく包まるる
人間に沁み込む月のDNA
いいともさいいともさとて枯葉舞う

俎 石山
黄落の背表紙にある君の名よ
秋深し隣の猫が落ちる音
仏壇に手を合わせたり鹿の声
行く秋の耳をすませば水の音

佐藤俊
わがまちの未明の逡巡冬薔薇
電波時計の逆回りする夜に怯え
体内に異物の感触冬立つ日
冬菫路傍の真実けとばして

石橋清子
雨上り二回目に咲く金木犀
久しぶりの太った秋刀魚御数とす
笛太鼓迫りて来たる秋祭
丈長き自慢の糸瓜抱きしめる

中原マスヨ
さつまいも送ってくれし義父が逝く
ほうき星見つけられずに海の道
急ぎ帰る車窓の外にいわし雲
いつからの出番となるやカーディガン

木南明子
千日紅花束にして友を訪う
残月や買物一つ忘れたる
鯖雲やあれやこれやと物忘れ
トーストを焦がしてしまう寒波かな

前藤宏子
トーストの裏の白さよ冬に入る
憂い事浮かんで消える初時雨
小中の校舎をつなぎ花八つ手
店先にちらほらポインセチアかな

河野宗子
秋灯活字の海におぼれおり
秋空の雲と一緒に薬飲む
釣りたての紅葉鯛との夕餉かな
ビンの蓋開けられなくて虫の声

金重こねみ
文化の日思いっきりの空の青
小さくとも二尾のパックの秋刀魚かな
脳トレのクイズが解けず夜食かな
みかん食む一房ずつのお壺口

森本知美
天高し体力年齢四十歲
コスモスや若く写して欲しい顔
破芭蕉歳を引きたき誕生日
山里の夕焼チャイム紅葉照る

丸岡裕子
駆け抜ける紅白の幕秋祭
雨上がり銀杏黄葉の濃くなりぬ
秋深む万葉人となり歩く
さざんかや海を遠目に夫はるか

松並美根子
金秋のお目出たき日の涙かな
文化の日組紐に受く優秀賞
思い出の身辺整理水引草
冬夕焼人それぞれの思いあり

松田和子
草紅葉なお愛おしく足とめる
冬紅葉青眼になるや金剛蔵王
凩やいたずらっ子と波飛沫
山門のもみじにのばす手の漫ろ

目 美規子
枯草に大の字となり虚空見る
若づくり隠せぬ皺と木の葉髪
方言の飛び交う集い神無月
顔洗う猫の仕草や冬浅し

吉丸房江
新米の良い子を産めと塩むすび
我が里を孫に誇るや筑紫富士
精一杯生きた証の紅葉かな
木犀の香り隣の隣より

〈選後随想〉 耕治
鳥ひよいとぶらんこになる木守柿 辻井こうめ
 小鳥が木に残っている柿の実をブランコのように揺らしたという、こうめさんの豊かな想像力と観察眼が光る。「ひよいと」という言葉の選択も、軽いのに写実的だ。「木守(きまもり)」は、翌年への実生りへの祈りからとも、あるいは小鳥のために残しておくともいわれるが、古来自然との共生をなしてきた一つの名残りであろうと、『角川俳句大歳時記』にある。これを踏まえると一句は、人間がなした「共生」を小鳥が喜んでいるようにも感じられる。秋から冬に向かう「木守柿」と、小鳥のかわいい仕草の対比が、季節の移ろいと命のよろこびを鮮やかにしてくれた。
伊丹市立ミュージアムにて。