香天集7月5日 岡田耕治 選
渡邉美保
かたつむりちちは朝より無言なる
足元の水揺れているえごの花
鮎飯の噴く寸前よ火を細く
更かへて白波を見に突堤へ
長谷川洋子
民芸の絵皿にすわりわらび餅
蟻腰の茶杓を見つめ夏椿
水羊羹ラリックの皿光り出し
バーナードリーチの皿よ葛桜
森谷一成
青嵐プラスティックの脈にふれ
短夜のくびれを抜けん砂時計
花谷 清 記念講演一句
真夏日の十七音をベクトルに
一坪は六尺四方三尺寝
浅海紀代子
手の平に溶けんばかりの子猫かな
生きるには普通を選ぶ花はこべ
わすれな草忘れられたる身もよけれ
漂うているのは私かすみ草
釜田きよ子
捩花も我もねじれている真昼
極楽を覗いてきたる大昼寝
梅雨深む眼鏡にルーペ重ねけり
夢の世を目差せり今日の朝顔は
宮崎義雄
香を散らす酒に更けゆく梅雨の果
土塊を撫でては叩き扇風機
青時雨リハビリ服の一張羅
故郷や祭囃子に会いにゆく
松田和子
病葉の無行となりし余白かな
信楽の煙突静か青田風
万緑や石のベンチの光り合い
くちなしの花に目を閉ず朝の香よ
牧内登志雄
苔青し五百羅漢の姦しく
尺蠖の明日を刻む高さにて
大筆のぐいと跳ねたる五月富士
澪筋に浮巣集めてゐる夕べ
岡田ヨシ子
三人で語り合いたる木暮かな
焼うどん涼しき部屋に届けられ
さくらんぼ小学四年の問を解く
波止場から飛びこむ水着姿にて
吉丸房江
長靴の玄関狭し梅雨の入り
幼の日集めて口へさくらんぼ
召しませや糸島野菜の土の味
あがりたる梅雨に大地の匂い立つ
垣内孝雄
ででむしや独りぼっちの帰り道
一冊のアルバム開く蛍の夜
夏祭ソース焼きそば半分こ
秋初月風と光と波の音
〈俳句物語〉 岡田耕治
バーナードリーチの皿よ葛桜 長谷川洋子
主)今日はわざわざ来てくれてありがとう。雨、大丈夫だった?
客)はい、電車に乗ってるときは降ってましたけど、駅からここまで傘は入りませんでした。
主)それはよかった。ポットのお湯で略式だけれど、お茶を点てるわね。まずは、お菓子をどうぞ。
客)わあ、これは何と言うお菓子ですか。透き通っていて、桜色…!
主)葛桜(くずざくら)というの。葛の根を砕いて絞ったデンプンから作られた、半透明の葛生地。その中にこし餡を包み、塩漬けの桜の葉を巻いた和菓子よ。
客)初めていただきます。それに、このお皿。ぽってりとした厚みがあって、なんだか土の温もりを感じます。
主)それはバーナード・リーチというイギリスの陶芸家のお皿なの。私、先月まで入院してたでしょ。退院してから、食器棚を整理していて、今日のために出しておいたの。
客)このお皿と和菓子の組み合わせ、歓迎されているみたいです。切れ目を入れるのがもったいないほど。わあ、上品な甘さですね。
主)では、お茶もどうぞ。
客)お点前(てまえ)頂戴いたします。
主)よかったら、このお皿、ペアで貰ってくれるかしら。
客)え、いいんですか。
主)このお皿は、よく使い込んだ方がより美しくなると思うの。私は、残り時間のカウントダウンに入っているけど、あなたはこれからでしょう。
客)ペアで! 今付き合ってる彼とこのお皿を使いながら、新しい日々を重ねなさい、そんなメッセージですね。では、心していただきます。
*夏帽子君のかたちで現れる 岡田耕治
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