2026年8月9日日曜日

香天集8月9日 宮崎義雄、三好つや子、佐藤諒子、佐藤静香ほか

香天集8月9日 岡田耕治 選

宮崎義雄
片陰や乾ききったる吊し肉
人影の畦に現れ大花火
行水や乳吸う吾子の腕太し
一歳へ裸の乳に文字を描く

三好つや子
トマトこの感電しそうな光捥ぐ
熱帯夜五臓六腑が浮いている
八月のここから鶴になる折り目
白雨過ぐ東野圭吾ありがとう

佐藤諒子
髪という髪かき上げる暑さかな
豊作の胡瓜を今日はどちらへか
一筋の光を散らし鉄風鈴
幼子や瓜番小屋に背負われる

佐藤静香
ヒマラヤのピンクの岩塩鱧料理
みづうみの青をうつして夏衣
ロープウェイ青葉の渓へ落ちてゆく
炎天の塩の道行く歩荷かな

牧内登志雄
付箋紙の青赤黄色夏期講座
炎昼やハトの鳴かない時計台
反り返る角持て余し甲虫
向日葵のあちこち向いてそれがいい

松田和子
AIの答はやさし文字摺草
港なる舳先の貝よ天の川
広重の雨を見ているヨットの帆
全車両台湾の絵に夏休

垣内孝雄
老鶯の勇める老の朝かな
待ちゐたる鄙のバス停蛍の夜
夏休檻のゴリラと河馬の尻
秋入日けんけんぽして仲直り

谷村敏子
部屋中に辣韮匂う朝までも
仏壇の父へと五粒さくらんぼ
まず描かん枝付枇杷の艶やかを
朝の日に緋色となりぬ目高の子

秋吉正子
飛び立てば帰れぬ知覧夾竹桃
このシーン前に読んだよ蝸牛
運玉に入れと願う梅雨晴間
近道は線路をまたぐ千日紅

大里久代
のねじ花やくるくる話回り出す
一輪も咲かず紫陽花繁りけり
獅子舞に頭がぶられ厄払い
夏台風次から次とせめてくる

北岡昌子
帚持つ穴から蜂に刺されけり
あじさいをクラフト編みで作りおり
お茶席や牡丹の花の菓子が出て
おはらいの終わりし茅の輪硬くなる

西前照子
里芋や暑さをしのぐ藁を掛け
猫の子よ親が帰らず鳴き交わす
赤紫蘇のジュースへ紫蘇を戻しけり
落花生収穫願い草を引く

山内宏子
京の夏ひたすら歩きおばんざい
異国の夏さむらいブルー疾走す
木星と金星並ぶ夏の月
嵐去り梅の実一つ道にあり

〈俳句物語〉 岡田耕治

一歳へ裸の乳に文字を描く 宮崎義雄

妻)ねえ、この胸に絵を描いてくれない?
夫)え、どうして? サプライズ?
妻)ううん、今日で最後にしたくて……。もう、おっぱいを卒業させてあげたくて。
夫)なるほどね。何を描けばいい?
妻)顔かな。「へのへのもへじ」なら、この子も笑ってくれるかも。
夫)わかった。じゃあ、とびきり愉快な顔を描くよ。
妻)ひゃあ、筆が冷たい。
妻)じゃあ、ちょっと抱っこしてみるね。
夫)どう? びっくりしてるかな。
妻)だめみたい。この子にとっては一番安心できる場所なんだね。ほら、口の周りが真っ黒になっちゃった。
夫)ほんとだ。あーあ、鼻まで真っ黒。
妻)ねえ、明日はお酢を塗ってみようかな。
夫)そこまでしなくても……。
妻)でも、育休も終わるしね。一歳になるってことは、そういうことなんだよね。少し、寂しいけど。
夫)そうだね。今夜は、この真っ黒な顔のまま、たっぷり甘えるか。

一歳へ裸の乳に文字を描く 宮崎義雄

*大根蒔く小さな願いごととして 岡田耕治

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