香天集9月13日 岡田耕治 選
三好つや子
まくなぎの波動につられ立眩む
夜の秋縁の下から名を呼ばれ
回文なのか回答なのか法師蟬
秋うらら週末だけのパンの店
牧内登志雄
竹を伐る使わぬ鉈を磨き上げ
遠くいて戦争を詠む鶏頭花
君と見る恵那山からの天の川
秋蝶や別れは不意に朝のこと
山内宏子
夕焼や友の瞳におさまりぬ
夏の果セキセイインコ無口なり
飼い鳥が歌を忘れて夏がゆく
ブルペンのいかつい腕赤とんぼ
谷村敏子
朝顔の実をポケットに登校す
生き延びて傘寿を迎う白芙蓉
条幅にひらがな三文字夏休
大皿に装いきれない西瓜かな
岡田ヨシ子
涼新た旅をしているテレビジョン
台風の動かなくなる海あり
背伸びして千切る暦に九月来る
掘りたての焼芋一つどうですか
秋吉正子
朝顔やおしゃべりはずむカレーの日
麦こがし坊主頭がほおばりぬ
アツイしか言う事のない日々草
積まれたる東野圭吾秋灯下
大里久代
灼熱の中をも枯れず秋の草
ハ十一年祈る長崎蜻蛉舞う
秋立つや千本の手の仏さま
台風は上陸するか逆走か
西前照子
水やりを忘れていたる残着かな
迎え盆小豆を炊いて供えけり
震災忌心をそえる献花台
亡き友の通った坂よ秋高し
〈選後随想〉 岡田耕治
夜の秋縁の下から名を呼ばれ 三好つや子
「夜の秋」の静かさの中、縁の下という意外な場所から名を呼ばれた一瞬の驚きを描く。縁の下から名前を呼ぶのは、誰なのか。怪異とも日常の一コマとも取れる不思議な臨場感があり、つや子さんの真面目な遊び心が光る。
竹を伐る使わぬ鉈を磨き上げ 牧内登志雄
日常使わずにいた鉈を研ぎ澄まし、意を決して竹林に向かう。竹を伐るのは専用の鋸(のこぎり)であることが多いが、鉈(なた)は小枝を払うときに必須の道具だ。道具を磨く手仕事の手応えと、竹を伐る際の張り詰めた空気が心地よい。登志雄さんの澄んだ眼差しが感じられる佳句である。
背伸びして千切る暦に九月来る 岡田ヨシ子
壁の高い位置にあるカレンダーを背伸びして一枚千切るという、日常の何気ない動作をとらえた。季節の変わり目をただ眺めるのではなく、全身を使った身体感覚を通して「九月」の到来を実感している。ヨシ子さんは、この9月で95歳を迎える。
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