2016年3月17日木曜日

ころがしておけ冬瓜とこのオレと 坪内稔典

ころがしておけ冬瓜とこのオレと 坪内稔典
「船団」108号。冬瓜を買うときは、目的がはっきりしていますので、すぐに調理にかかります。でも、冬瓜をいただいたりしますと、しばらく台所に転がしておくことになります。この存在感は尋常ではなく、たやすく調理のイメージを浮かべることができないほどなのです。ということは、「このオレ」と共通しているのかも知れません。目的がぼんやりしてきて、すぐに調理にかかれそうにない「オレ」は、ころがしておくにかぎりますよ。

2016年3月16日水曜日

団栗をポケットに入れしまま大人 工藤 惠

団栗をポケットに入れしまま大人 工藤 惠
「船団」108号。ポケットに団栗を入れたままにして、その上着を再び着たとき、「あれ団栗が入ってる。何時入れたのかな」と。それは、最近のことでも、去年のことでもなく、幼い頃に入れたような気がしてきます。作者がきっと「大人」の今を、それほど悪くないと思っているからでしょう。団栗が時をさかのぼっていきました。

2016年3月15日火曜日

海流れながれて海のあめんぼう 三橋敏雄

海流れながれて海のあめんぼう 三橋敏雄
『俳句の気持』津高里永子(深夜叢書社)。津高さんは、NHK学園俳句講座で仕事をされていますが、一昨年「香天」の総会にご出席いただいたとき、多くの俳人との出会いが私の財産ですと仰っていました。その財産が、一冊のすてきな本になりました。この句について津高さんは、〈「事実かもしれないが、もの珍しいものを詠めばいいというものではない」と句会の仲間からコテンパンに言われて推敲したんだよと笑って教えてくださいました〉と、三橋敏雄さんの肉声を伝えています。
 藤原ナチュラルヒストリー振興財団のホームページによると、外洋に生息する昆虫はアメンボ科ウミアメンボ属の5種しかいないとのこと。横須賀海兵団に入隊し、戦後も運輸省所属の練習船事務長として日本丸、海王丸などに乗っておられた三橋敏雄さんですから、きっと海あめんぼうをご覧になったと思います。実際に見たものを、見たことのない読者に伝えようと、余計な物を捨てて、海と海のあめんぼうだけを「流れる」という動詞で繋いだシンプルな一句が誕生しました。


2016年3月14日月曜日

「豚饅頭」 岡田耕治

「豚饅頭」  岡田耕治
春風を満たしていたる渇きかな
三人が降りて茅花を乱しけり
   宮城10句
今どこを走りいるのか春の海
初蝶に学校だけが残りけり
立入を禁じて春を解体す
どこまでも防潮堤の春の闇
ダンプカーだけが走れる春埃
「小熊座」を重ね東北震災忌
春の波音深くして行き合える
波だけとなってしまいし春の海
桜桃の花一目だけ会いに来る
閉校の近づいている桜かな

地虫出る考え続けたる山に
卒業の荷の中にあり豚饅頭



2016年3月13日日曜日

香天集 3月13日 中嶋飛鳥、中村静子ほか

香天集 3月13日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
銅の牛の目潤む春の風
ポンカンの種は泪の形なり
零点をラブと呼び為し春の雲
描き忘れたる紙雛の目鼻立ち
春の星明日マチュピチュへ発つと言う

中村静子
一灯を点して足りる初湯かな
斑雪刈株の香を深めけり
ここからは潮の香つづく恵方かな
受け皿の紅茶の温み二月来る
沈丁の香に包まれてシーツ干す

高橋もこ
歯茎より血を出し恋の猫戻る
苗木売英字新聞見開きに
真正面よりたんぽぽのわた飛ばす
春眠を覚ます七つの落とし穴

宮下揺子
アドレスを変えて新年スタートす
初点前松籟を聴く八十歳
節分会役立たぬもの買ってくる
したたかに転んでいたり春の雪

2016年3月12日土曜日

行く年の映画の地球滅亡す 眉村 卓

行く年の映画の地球滅亡す 眉村 卓
「俳誌要覧」2016年版・東京四季出版。日本を代表するSF作家の俳句を「渦」という結社の歩みから見つけました。「ディープ・インパクト」など、地球が滅亡に向かう映画は、12月に見ると重く感じられるでしょう。「映画の」と断りを入れているところに、作家独特のユーモアを感じます。どうぞ映画の中だけのことでありますよう。

2016年3月11日金曜日

原子炉を遮るたとえば白障子 渡辺誠一郎

原子炉を遮るたとえば白障子 渡辺誠一郎
「小熊座」2月号。被災した人は、3月10日に家族と過ごしたことなどを鮮明に記憶していると聞きました。この日に稼働中の高浜原発3、4号機を停止させたという報道がありました。渡辺さんの句は、そんなことを予想していたかのように、「原子炉を遮る」と始まります。今回のように現実に原子炉を停止させる前に、まず「白障子」をもってしても遮ることは出来るのだと。もちろん「障子くらいで」と思われることは覚悟の上で、それでも。