ストーブを消せばききゆんと縮む闇 鈴木牛後
「俳句」十一月号、角川俳句賞受賞作品から。北海道で酪農を営む作者の俳句に注目してきましたが、角川俳句賞を受賞されたと知り、たいへんうれしく存じました。選考委員の皆さんが仰るように、テーマ性がはっきりしていて厚みのある五十句です。牛を扱った俳句は言うに及ばずですが、例えばこの句のように、現実をやわらかく捉える目に、作者の感性を強く感じます。牛を育てる営みは困難の連続でしょうが、その困難を受容されながら、その日常をどこか愉しんでおられる、ということは、生きることを愉しんでおられる、そんなやわらかさが現れた一句です。部屋の明かりを消して、しばらくストーブの火の明るさだけで、一日をふり返っていた作者。ストーブを消すことによって、寝る前の作者を包んでいた闇も急に縮んでいったのです。「ききゆんと」というオノマトペが、明日へつながる響きをもっているようです。
*泉佐野市にて。
2018年10月30日火曜日
2018年10月29日月曜日
「ゆらぎ」15句 岡田耕治
ゆらぎ 岡田耕治
金木犀体の向きを整えん
立って書く原稿のあり七竈
後の月小川国夫の散歩道
露けしややりたいことをやり続け
いつもより遅く出て行く薄かな
秋思なお手帳から目を離したる
数本の泡立草が来て空地
大きな靴大きな鞄紅葉踏む
刈られたる丘の露わに残る虫
付箋紙を増やし植物図鑑「秋」
秋夕焼あとひと駅を目瞑りて
湯豆腐やこの身の力呼び覚ます
自らの姿を隠し秋の声
蟷螂の斧絶え間なく試みて
秋蝶の消えて残りしゆらぎかな
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
2018年10月28日日曜日
香天集10月28日 谷川すみれ、砂山恵子、辻井こうめ他
香天集10月28日 岡田耕治 選
谷川すみれ
飛ぶものは風に抱かる薬掘る
渡りきるまでの沈黙枯蓮
初凪やひとりで歩くということの
待春の鞴の力加減かな
砂山恵子
茸狩木の根の夢を探しいて
さよならと言はれる前に林檎剝く
何処にも戦の火あり秋桜
摘まれても踏まれてもよし草の花
辻井こうめ
碧梧桐の墓石に二つ椿の実
ゑのころの石の退屈擽りぬ
秋時雨土俵一辺朽ち始む
据ゑられし薦の酒樽里祭
藤川美佐子
無花果や見たことのない鳥の来て
良きことのために歩きて秋桜
コスモスを離れて迷う風のあり
毒きのこ見つめてあれば浮遊する
北川柊斗
骨壺をあふるるお骨薄原
行く秋の水面に映り草の影
秋桜やデイサービスのバス停まり
楼門に太き閂鵙高音
木村博昭
天高しアクアリュウムの鰯群れ
大いなる朝の便座の秋思かな
はじまりは蕾の多き菊花展
いきなりの訃報が届き菊日和
古澤かおる
心霊のスポットにしてつづれさせ
旅先の書店を巡り秋霞
龍潜む淵ある川面おだやかに
秋北斗貝殻が出る山の上
越智小泉
賞を得し菊堂々としておりぬ
園児らの駆けっこを追う風の秋
ゆく秋の少し猫背と言う鏡
借景に夕日を入れて鳥渡る
*秋田空港にて。
谷川すみれ
飛ぶものは風に抱かる薬掘る
渡りきるまでの沈黙枯蓮
初凪やひとりで歩くということの
待春の鞴の力加減かな
砂山恵子
茸狩木の根の夢を探しいて
さよならと言はれる前に林檎剝く
何処にも戦の火あり秋桜
摘まれても踏まれてもよし草の花
辻井こうめ
碧梧桐の墓石に二つ椿の実
ゑのころの石の退屈擽りぬ
秋時雨土俵一辺朽ち始む
据ゑられし薦の酒樽里祭
藤川美佐子
無花果や見たことのない鳥の来て
良きことのために歩きて秋桜
コスモスを離れて迷う風のあり
毒きのこ見つめてあれば浮遊する
北川柊斗
骨壺をあふるるお骨薄原
行く秋の水面に映り草の影
秋桜やデイサービスのバス停まり
楼門に太き閂鵙高音
木村博昭
天高しアクアリュウムの鰯群れ
大いなる朝の便座の秋思かな
はじまりは蕾の多き菊花展
いきなりの訃報が届き菊日和
古澤かおる
心霊のスポットにしてつづれさせ
旅先の書店を巡り秋霞
龍潜む淵ある川面おだやかに
秋北斗貝殻が出る山の上
越智小泉
賞を得し菊堂々としておりぬ
園児らの駆けっこを追う風の秋
ゆく秋の少し猫背と言う鏡
借景に夕日を入れて鳥渡る
*秋田空港にて。
2018年10月26日金曜日
モスクワや鱗大きく鱗雲 小澤 實
モスクワや鱗大きく鱗雲 小澤 實
「俳句」十一月号。いくつもの前書きからロシアに出向かれ、ロシア語俳句大会で指導されたようです。ロシア、それもモスクワを訪ねた友人によると、人と人が近い関係になり、人間性が露わに感じられるとのこと。おそらく、小澤さんも同じような感触を持たれたのでしょう。そのことを鱗雲の鱗の大きさとして表現されたと拝察します。モスクワの秋はさぞ美しいことでしょう。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
「俳句」十一月号。いくつもの前書きからロシアに出向かれ、ロシア語俳句大会で指導されたようです。ロシア、それもモスクワを訪ねた友人によると、人と人が近い関係になり、人間性が露わに感じられるとのこと。おそらく、小澤さんも同じような感触を持たれたのでしょう。そのことを鱗雲の鱗の大きさとして表現されたと拝察します。モスクワの秋はさぞ美しいことでしょう。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
2018年10月25日木曜日
ピーマンの筋肉質の空気かな 三好つや子
ピーマンの筋肉質の空気かな 三好つや子
この句が「上六句会」に出されたとき、皆さんが一様に驚きました。「なんと上手く言い止められたものだ」と。ピーマンを改めて想起しますと、あの凸凹が筋肉の隆起に見えてきます。しかも、筋肉そのものではなく、「空気」なのだと。このところ、それぞれの句会に出るたのしみが増してきたように感じます。このような新鮮な把握に出会えるのですから。
*大阪城にて。
2018年10月24日水曜日
すれちがう刹那のずれてサングラス 石井 冴
すれちがう刹那のずれてサングラス 石井 冴
「香天集」53号。サングラスを掛けた人とすれ違いました。おや、知っている人かなと確かめることもできませんでしたが、サングラスの人はその少し手前から冴さんを認めていたのかも知れません。素顔の人とサングラスの人の、ほんの少しのずれが、「刹那」という二文字でよく捉えられています。
「香天集」53号。サングラスを掛けた人とすれ違いました。おや、知っている人かなと確かめることもできませんでしたが、サングラスの人はその少し手前から冴さんを認めていたのかも知れません。素顔の人とサングラスの人の、ほんの少しのずれが、「刹那」という二文字でよく捉えられています。
2018年10月23日火曜日
熱戦のスタジアム棚田水沸く 三好広一郎
熱戦のスタジアム棚田水沸く 三好広一郎
九月、秋田県に出掛けた際、この夏甲子園を沸かせた金足農業高等学校に立ち寄ることができました。出場した選手たち全員が、この高校から半径20キロ以内に住む生徒たち。そんな公立高校の進撃に、地域の人々だけでなく、多くの人が励まされた、と。「優勝したのは大阪なのに、こちらの方が目立ってしまって」と気遣っていただきもしました。甲子園に出場しなくとも、この夏、多くの高校球児たちのドラマがあったでしょう。それを応援する地元も、バスを借りてスタジアムに出掛ける場合もあるでしょうし、テレビの前で声援を送る場合もあったでしょう。何れにしても、棚田には人影がなく、静かだったにちがいありません。広一郎さんは、そんな夏の一コマをスタジアムと棚田を取り合わせた上で、「水沸く」という美事な表現で括りました。
*秋田県金足農業高等学校にて。準優勝の「準」が小さかったです。
九月、秋田県に出掛けた際、この夏甲子園を沸かせた金足農業高等学校に立ち寄ることができました。出場した選手たち全員が、この高校から半径20キロ以内に住む生徒たち。そんな公立高校の進撃に、地域の人々だけでなく、多くの人が励まされた、と。「優勝したのは大阪なのに、こちらの方が目立ってしまって」と気遣っていただきもしました。甲子園に出場しなくとも、この夏、多くの高校球児たちのドラマがあったでしょう。それを応援する地元も、バスを借りてスタジアムに出掛ける場合もあるでしょうし、テレビの前で声援を送る場合もあったでしょう。何れにしても、棚田には人影がなく、静かだったにちがいありません。広一郎さんは、そんな夏の一コマをスタジアムと棚田を取り合わせた上で、「水沸く」という美事な表現で括りました。
*秋田県金足農業高等学校にて。準優勝の「準」が小さかったです。
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