香天集1月26日 岡田耕治 選
柴田亨
御仏に待ちぼうけさせ遊びおり
太刀魚の捌かれてなお銀新し
風花のいざない耳元に紅く
寒雀わずか一羽の飛び立ちぬ
谷川すみれ
最果ての火山岩より紋黄蝶
毛虫行く真昼の星の指すところ
藤の花父のリストの小さき字
ミサイルを造る手なり卵を焼く
澤本祐子
草木の黒い形に日脚伸ぶ
年迎う合わせ鏡の中にいて
キャリーバッグの音を見送る三日かな
寒の入寄り目となりし目玉焼
辻井こうめ
消毒を明日に控へて大根焚き
プレアデス星人の跡石を切る
馴染む句のあり初春の書道展
四方より笑顔の集ふ初句会
木村博昭
読初の背文字を走り発車前
鏡台の畳まれてあり姫はじめ
綿入の作務衣脱ぎ捨てられてあり
微かなるいのちの鼓動寒卵
澤本祐子
風邪の熱問診票のペンに紐
窓口に溢れていたる木の実かな
一斉に楽譜をひらくクリスマス
柚子二つ回覧板と引き換えに
正木かおる
校庭のトランペットの淑気かな
ぬくもりの白の頂寒卵
雪降らずマッシュポテトをたっぷりと
冬の星どれかひとつは叔父の星
安部礼子
床に置く琴の弦から雪催
風花のときも猛禽類の矜持
居酒屋の提灯に棲む寒の月
雪女目を瞑らずに死ぬものへ
古澤かおる
寝支度を終えたる街よ枯葉舞う
飛び石にふわりと手ぶら寒鴉
冗談に本音も混ぜて七日粥
根深葱新聞に泥ついてあり
吉丸房江
宝船七つの顔のふくよかに
初日記曾孫来たると一行目
寒雀ふっくらと羽膨らます
冬夕焼坂上がり行く親子かな
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
2020年1月26日日曜日
「雪女」16句 岡田耕治
雪女 岡田耕治
ワイパーを鳴らし初旅始まりぬ
照準を新しくして寒の空
初稽古上級生が先に着き
つながりの膨らんでくる冬かもめ
風花のなか銀幕にたどり着く
なまぬるい北風となる地球かな
嫁が君黙黙と歳取ってゆく
晴天を吸いはじめたる氷かな
喜びを新たにしたり冬の鵙
三枚の木の葉を挿み手紙来る
寝る前の私に戻りホットミルク
寒北斗アクシデントを抱えたる
掃除したばかりの床の寒さかな
隔たりを明らかにして冬の水
白菜を立て自転車を走らせる
雪女男が声を出して泣く
ワイパーを鳴らし初旅始まりぬ
照準を新しくして寒の空
初稽古上級生が先に着き
つながりの膨らんでくる冬かもめ
風花のなか銀幕にたどり着く
なまぬるい北風となる地球かな
嫁が君黙黙と歳取ってゆく
晴天を吸いはじめたる氷かな
喜びを新たにしたり冬の鵙
三枚の木の葉を挿み手紙来る
寝る前の私に戻りホットミルク
寒北斗アクシデントを抱えたる
掃除したばかりの床の寒さかな
隔たりを明らかにして冬の水
白菜を立て自転車を走らせる
雪女男が声を出して泣く
2020年1月19日日曜日
香天集1月19日 安田中彦、石井冴、三好広一郎ほか
香天集1月19日 岡田耕治選
安田中彦
息吐くとふくろふめきぬ夜の父
梟がくる天球の濡るるたび
梟の閾に入らずに眠るかな
ふくろふのうしろに醒めて北斗かな
石井 冴
忘年の隅っこにして微熱かな
頑として火鉢の肩のなだらかに
熱燗やネクタイの黒ゆるみ出す
木の床に脚を投げ出し小豆粥
三好広一郎
翻訳の長い名前や雪催
飯時に顔出す蜘蛛や年新
破魔矢抱く卵のような夢を見た
右眼より左の視力針供養
橋本惠美子
この指に止まる子なくて冬の暮
享年の近づいてくる枯薄
ポインセチア夜勤ナースに申し継ぐ
極月の動き出したる阿弥陀かな
加地弘子
福寿草辿ってゆけば大家族
冬の星届かぬところ掻いてやる
空っ風このまま行くは難しく
ポインセチア鏡の中を動きずめ
北村和美
値崩れの一点ものの十二月
酒のない女子会にして柚子湯かな
そこここの明かり加わり冬の星
差し色に赤いつまでも冬木立
北村和美
ガラスペンぎこぎこ擦れて寒見舞
満タンのハンドル強め初仕事
福引は四等缶のハッカ飴
指定席窓側と決め年迎う
神谷曜子
短日の待合室はうすむらさき
烏瓜ふたつ土産としてもらう
黒猫の夢二あらわれ日向ぼこ
新幹線寒さ持ち込む海の碧
永田 文
響きたる扇一閃初稽古
風花や終着駅の掌に
もくもくと凍てつく道を初日の出
風すさぶ枝にとどまり冬の月
岡田ヨシ子
あれやこれや脳体操の年の暮
鏡餅最後は井戸に飾りけり
足の胝けずりて歩く冬夕焼
初明り九十で逝く人のあり
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
安田中彦
息吐くとふくろふめきぬ夜の父
梟がくる天球の濡るるたび
梟の閾に入らずに眠るかな
ふくろふのうしろに醒めて北斗かな
石井 冴
忘年の隅っこにして微熱かな
頑として火鉢の肩のなだらかに
熱燗やネクタイの黒ゆるみ出す
木の床に脚を投げ出し小豆粥
三好広一郎
翻訳の長い名前や雪催
飯時に顔出す蜘蛛や年新
破魔矢抱く卵のような夢を見た
右眼より左の視力針供養
橋本惠美子
この指に止まる子なくて冬の暮
享年の近づいてくる枯薄
ポインセチア夜勤ナースに申し継ぐ
極月の動き出したる阿弥陀かな
加地弘子
福寿草辿ってゆけば大家族
冬の星届かぬところ掻いてやる
空っ風このまま行くは難しく
ポインセチア鏡の中を動きずめ
北村和美
値崩れの一点ものの十二月
酒のない女子会にして柚子湯かな
そこここの明かり加わり冬の星
差し色に赤いつまでも冬木立
北村和美
ガラスペンぎこぎこ擦れて寒見舞
満タンのハンドル強め初仕事
福引は四等缶のハッカ飴
指定席窓側と決め年迎う
神谷曜子
短日の待合室はうすむらさき
烏瓜ふたつ土産としてもらう
黒猫の夢二あらわれ日向ぼこ
新幹線寒さ持ち込む海の碧
永田 文
響きたる扇一閃初稽古
風花や終着駅の掌に
もくもくと凍てつく道を初日の出
風すさぶ枝にとどまり冬の月
岡田ヨシ子
あれやこれや脳体操の年の暮
鏡餅最後は井戸に飾りけり
足の胝けずりて歩く冬夕焼
初明り九十で逝く人のあり
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
2020年1月13日月曜日
「初鏡」10句 岡田耕治
初鏡 岡田耕治
人を待つ千両の位置決まりけり
マフラーの黒を立たせて年の雪
母が来て匂いはじめし炭火かな
初景色記憶の一つすべり出し
笑うから幸せになる初鏡
福笑崩さぬように笑いけり
友だちを数えていたる初湯かな
初夢や二度寝の方に現れて
過去形で書き出す未来初日記
泣初のひっくひっくとおさまりぬ
人を待つ千両の位置決まりけり
マフラーの黒を立たせて年の雪
母が来て匂いはじめし炭火かな
初景色記憶の一つすべり出し
笑うから幸せになる初鏡
福笑崩さぬように笑いけり
友だちを数えていたる初湯かな
初夢や二度寝の方に現れて
過去形で書き出す未来初日記
泣初のひっくひっくとおさまりぬ
2020年1月12日日曜日
香天集1月12日 三好つや子、玉記玉、渡邊美保ほか
香天集1月12日 岡田耕治 選
三好つや子
昼紅葉非常口から子が入る
湯たんぽや母と似てくる姉の足
仏頭にはたきをかける開戦日
牡蠣鍋にはぐらかされていたるかな
玉記玉
肉付けて観るオリオンの胸あたり
悴むと脳に筋肉付いてくる
鉄匂い出す寒林の設計図
鎌倉から虚子中洲から寒烏
渡邉美保
短日の砂の溜まりし水呑み場
残照を歩く鴉のクリスマス
笹鳴きや袖の鉤裂き繕へば
父の忌の雨音静か青木の実
玉記玉
正月をいっぱい付けて砂埃
魂は鞐の隙に冬眠す
肉筆の一行詩より初烏
人の日や砂場を赤いブルドーザー
橋爪隆子
枯菊の風の重さを括りけり
初夢から覚めていること夢の中
大嚔目と鼻と口使い切り
帰り花忘れる事を覚えけり
砂山恵子
四日はや五段がまへの脚立だし
ゆつくりと動く日輪お喰積
醫院なる鮮明なる字吸入器
初富士と見知らぬ客に起こされる
宮下揺子
千年を立つ香木や冬の晴れ
火祭りの男らの尻盛り上がる
泣くときは大き声出せ冬のバラ
冬の雨ネジの一つが見つからぬ
中辻武男
冬麗の富士に教わる卆路かな
お年玉受けし子老の肩叩く
お礼にと寒蘭好む肥を置く
寄植の梅に集まり人の声
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
三好つや子
昼紅葉非常口から子が入る
湯たんぽや母と似てくる姉の足
仏頭にはたきをかける開戦日
牡蠣鍋にはぐらかされていたるかな
玉記玉
肉付けて観るオリオンの胸あたり
悴むと脳に筋肉付いてくる
鉄匂い出す寒林の設計図
鎌倉から虚子中洲から寒烏
渡邉美保
短日の砂の溜まりし水呑み場
残照を歩く鴉のクリスマス
笹鳴きや袖の鉤裂き繕へば
父の忌の雨音静か青木の実
玉記玉
正月をいっぱい付けて砂埃
魂は鞐の隙に冬眠す
肉筆の一行詩より初烏
人の日や砂場を赤いブルドーザー
橋爪隆子
枯菊の風の重さを括りけり
初夢から覚めていること夢の中
大嚔目と鼻と口使い切り
帰り花忘れる事を覚えけり
砂山恵子
四日はや五段がまへの脚立だし
ゆつくりと動く日輪お喰積
醫院なる鮮明なる字吸入器
初富士と見知らぬ客に起こされる
宮下揺子
千年を立つ香木や冬の晴れ
火祭りの男らの尻盛り上がる
泣くときは大き声出せ冬のバラ
冬の雨ネジの一つが見つからぬ
中辻武男
冬麗の富士に教わる卆路かな
お年玉受けし子老の肩叩く
お礼にと寒蘭好む肥を置く
寄植の梅に集まり人の声
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
2020年1月6日月曜日
「熱の眼」11句 岡田耕治
熱の眼 岡田耕治
風邪熱の眼を濡らし学びけり
次に建つビルの高さを山眠る
足に足の重みをのせて十二月
セーターの黒をひらめく指のあり
目を覚ます時刻の決まる足湯かな
白障子短く早く伝えられ
もういいと毛布から声返りたる
したいことだけに集まり息白し
冬の滝ゴムの匂いのしていたる
頭痛から離れていたり枯尾花
煤逃の背中が痒くなってくる
風邪熱の眼を濡らし学びけり
次に建つビルの高さを山眠る
足に足の重みをのせて十二月
セーターの黒をひらめく指のあり
目を覚ます時刻の決まる足湯かな
白障子短く早く伝えられ
もういいと毛布から声返りたる
したいことだけに集まり息白し
冬の滝ゴムの匂いのしていたる
頭痛から離れていたり枯尾花
煤逃の背中が痒くなってくる
2020年1月5日日曜日
香天集1月5日 中嶋紀代子、前塚かいち、浅海紀代子、夏礼子ほか
香天集1月5日 岡田耕治 選
中嶋紀代子
空っぽの鳥籠に吹く空っ風
寒雀餌を撒く顔を覚えたる
鼻筋の整う人の冬菫
一瞬の光みさごが魚を捕る
前塚かいち
卵巣を取られし猫と冬日向
愚図という範疇にいて冬温し
綿虫の着地点なる児童帽
綿虫は掬って捕れと伝えけり
浅海紀代子(11月)
ポケットの木の実拳を解きたる
小春日や本を背負いて友の来る
寝不足の母が起き出す十二月
何ごとも無くて布団の手足かな
夏 礼子
皇帝ダリア自転車を駆る女学生
ひょんの実は金沢育ち抽斗に
バス停の裏は近道枇杷の花
十二月八日歯ブラシ買い換える
北川柊斗
蒼空に亀裂走れり冬の鵙
寄り来る綿虫こころ萎ゆる身に
冬木立黙して並ぶオフィス街
十二月そそと巻尺まき終へる
朝岡洋子
コーラスのセーターは白シューベルト
燃えし日の色残したる冬紅葉
いつよりか老の歩幅に花八ッ手
はじけるは朝寝雨戸の横時雨
釜田きよ子
手も足も達磨になって着ぶくれる
人の世を普通に生きて注連飾る
ティファールでお湯を沸かして去年今年
お砂場でトンネルを掘る三日かな
浅海紀代子
小春日を遊び切ったる眠りかな
通り過ぐきたなきことば十二月
無信心聖夜の町に遊びいて
歳晩の暗がりに目を開きけり
河野宗子
冬紅葉湯舟の窓を拭きており
寒風やスマートフォンを忘れ来て
黒猫の目力光る冬木立
冬襖仁王立ちして落羽松
羽畑貫治
上下とも全て義歯なり涅槃西風
ゆっくりと眠っていたし磯竈
ぞくぞくと列島凍る厚化粧
天も地も借り貸しなしに春の風
櫻淵陽子
初春や碁石の音の軽やかに
元旦の空どこまでも澄みにけり
深々と一礼をして初詣
初みくじ含み笑いをする二人
*岬町小島にて。
中嶋紀代子
空っぽの鳥籠に吹く空っ風
寒雀餌を撒く顔を覚えたる
鼻筋の整う人の冬菫
一瞬の光みさごが魚を捕る
前塚かいち
卵巣を取られし猫と冬日向
愚図という範疇にいて冬温し
綿虫の着地点なる児童帽
綿虫は掬って捕れと伝えけり
浅海紀代子(11月)
ポケットの木の実拳を解きたる
小春日や本を背負いて友の来る
寝不足の母が起き出す十二月
何ごとも無くて布団の手足かな
夏 礼子
皇帝ダリア自転車を駆る女学生
ひょんの実は金沢育ち抽斗に
バス停の裏は近道枇杷の花
十二月八日歯ブラシ買い換える
北川柊斗
蒼空に亀裂走れり冬の鵙
寄り来る綿虫こころ萎ゆる身に
冬木立黙して並ぶオフィス街
十二月そそと巻尺まき終へる
朝岡洋子
コーラスのセーターは白シューベルト
燃えし日の色残したる冬紅葉
いつよりか老の歩幅に花八ッ手
はじけるは朝寝雨戸の横時雨
釜田きよ子
手も足も達磨になって着ぶくれる
人の世を普通に生きて注連飾る
ティファールでお湯を沸かして去年今年
お砂場でトンネルを掘る三日かな
浅海紀代子
小春日を遊び切ったる眠りかな
通り過ぐきたなきことば十二月
無信心聖夜の町に遊びいて
歳晩の暗がりに目を開きけり
河野宗子
冬紅葉湯舟の窓を拭きており
寒風やスマートフォンを忘れ来て
黒猫の目力光る冬木立
冬襖仁王立ちして落羽松
羽畑貫治
上下とも全て義歯なり涅槃西風
ゆっくりと眠っていたし磯竈
ぞくぞくと列島凍る厚化粧
天も地も借り貸しなしに春の風
櫻淵陽子
初春や碁石の音の軽やかに
元旦の空どこまでも澄みにけり
深々と一礼をして初詣
初みくじ含み笑いをする二人
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