香天集6月9日 岡田耕治 選
浅海紀代子
森を抜け縁の風をまといけり
矢車草隣の猫に好かれおり
卯の花の垣根を掠りランドセル
草むしり草の悲鳴のついてくる
三好つや子
鮎跳ねるスケッチブック一枚目
黒揚羽昼の浮力と重力と
白桃のまといはじめる微熱かな
どこまでが電気どこまでがクラゲ
松田敦子
春愁や溶けた石鹸の沿う穴
駅弁の升目にはまり桜餅
新宿の街は縦長地虫出づ
胴吹きの桜戦火の行方なし
春田真理子
山吹の家よ母の声通る
待ち続け独り蛙の中に居る
総帆のふくらんであり夏の空
連峰へ翔る薫風斜張橋
楽沙千子
青嵐会釈のことばすれ違う
五月雨スマートフォンの会話減り
万緑を突っ切って行くバスの旅
学校閉鎖どくだみの蔓延りぬ
垣内孝雄
本丸へ渡る鞘橋あやめ草
夏立つや韮饅頭を焼く屋台
長袖の白きブラウス聖母月
風なづるポニーテイルよ麦の秋
岡田ヨシ子
梅雨に入る演歌の好きな人のこと
初めての俳句が届き梅雨の墓
職員の検温を待つ梅雨の空
駐車場のすき間を散歩梅雨晴間
牧内登志雄
素麺の氷からんと鳴りにけり
青葉闇セーラー服の大人めく
万緑の四方より迫る千枚田
新緑や磨き上げたる古座敷
川端大誠
窓の外アイスクリームしみわたる
川端勇健
サングラスかけ白球を追いかける
川端伸路
蚊取り線香つけているのによってくる
〈選後随想〉 耕治
草むしり草の悲鳴のついてくる 浅海紀代子
草木が盛んに生い茂る前、初夏に草取りをしておく。草刈り機で一帯の草を払う光景を見かけるが、「草むしり」だから自宅の庭や周辺の草を手で引いていく光景だ。その草をむしっていると、「草の悲鳴」が聞こえるという。もちろん、実際に聞こえたわけではなく、草の生命を絶つことに対するかなしみを表現していると考えられる。「ついてくる」 という表現から、草の悲鳴が作者の耳元を離れないようにまとわりつくようにも感じられる。浅海さんの描く世界は、ごく日常的なことがらなんだけれども、その底に生きて在ることの儚さがたたえられている。
*岬町小島にて。
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