香天集6月2日 岡田耕治 選
森谷一成
ぶきっちょの理髪師かまえ夏に入る
飛び飛びの゙葦間となりぬ行行子
難問をいなしていたり行行子
力学を一蹴したる夏燕
夏 礼子
花の昼着てゆく服が決まらない
桜蘂降る効いている痛み止め
折り鶴の匂う八十八夜かな
えんどう剥く行方知れずをそのままに
谷川すみれ
鴨涼し並ぶことの安らかさ
夏草に呼ばれていたるボールかな
見覚えの文字の葉書や立葵
罌粟ひらく薄き呼吸のふところに
浅海紀代子
すみれ野ややがて行くのはどの辺り
雨音に老いの朝寝となりにけり
小雀の一羽来たりてあと無限
椅子ひとつありて安らぐ五月かな
佐藤 俊
日の暮に虹色の猫探し行く
佇んで蟻ふと悩む進化論
片陰やついに火の付く導火線
短夜のひっそり愛でる尾っぽかな
辻井こうめ
風薫る四つ葉探しの感まかせ
池を守る通し鴨なり空の青
術も無く嘴の打擲小蜥蜴よ
夏の眉月コースター蹴り上がり
柏原 玄
眼裏の春の夢なり詠むべかり
山稜のうねりのままに山躑躅
彳亍か憲法記念日の日暮
濁る世に無垢を止めて花卯木
前藤宏子
新緑やこんな時間にワイン飲み
煮て和えて炊き込んでいる筍よ
白鷺の火の鳥となる入日かな
豆御飯柩に入れて別れけり
宮崎義雄
鍋擦る束子あわれや夕薄暑
潮風や宝探しの子供の日
メーデーの本社過ぎ行く御堂筋
早き瀬に流れていたる毛針かな
森本知美
雑木越ゆカラス揚羽のもつれ合い
桜蘂降る生きている寝息にも
落椿寄せて出来たる小さき山
水を撒く子供に停車許可を取り
金重こねみ
赤白黄寒天並ぶ子供の日
薫風や「コラー」と若き母の声
過去を知る栞よ四つ葉クローバー
草抜きの後ろ付き来る鳥のあり
松田和子
「はじめまして」木香薔薇よ吾の庭よ
絵手紙の高くたかくへ端午の日
竹の子の無垢な皮むく雨の中
緑さす多奈川駅へ一直線
河野宗子
五月雨の落語家ギター弾き出せり
カナダより無事に帰国す百日紅
崩れては踏ん張っている薔薇のあり
芍薬の君臨したる美容室
目 美規子
小満や見守り隊の旗なびく
夕刊が二部配られて桐の花
雨戸引く一目散に守宮の子
優しさと恐さうらはら花いばら
田中仁美
ぼんやりとかすむ顔みる母の日よ
知床のお土産香る立夏かな
一本のうなぎを分けん通り雨
夏蝶やホースの水をさけて飛び
松並美根子
子と孫の笑顔集まる子供の日
垂れし尾の少し揺れるよ鯉幟
春光や挨拶かわす一年生
春風の想いをつげる亡き夫に
〈選後随想〉 耕治
えんどう剥く行方知れずをそのままに 夏礼子
最近はスナップエンドウが主流で、さやごと食べることが多いが、この句は実えんどうとして、剥いてからグリーンピースにして食べるのだろう。ボールへ剥いていく豆が、一つどこかへ飛んでしまった。剝くのは、キッチンではなく、土間や縁側の情景がふさわしい。日常的な情景を軽いユーモアを交えて詠む、礼子さんらしい俳句だ。剥いた豆がどこへ行ってしまったのか分からないという、ちょっとしたハプニングも、読む者に微笑ましい出来事として伝わってくる。もしかすると、行方知れずなのは、飛び出した豆の他にもあるような気がしてくる不思議な句。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
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