2026年6月21日日曜日

香天集6月21日 谷川すみれ、三好広一郎、柴田亨、嶋田静ほか

香天集6月21日 岡田耕治 選

谷川すみれ
あめんぼの光をひらく閑けさよ
死者は今いずこの空を山法師
洗い髪宇宙の隅へ解き放す
転倒の一瞬開く黒揚羽

三好広一郎
結婚はできない薔薇にならなれる
充電の切れて避暑地の清々し
ぶらんこは美人の星を待っている
一日がぷっふぁ~と終る缶ビール

柴田亨
泣き顔の龍雲海に咆哮す
酷暑来る青丘文化ホールあと
真田山セメント墓碑の崩る夏
雨粒が寄り添ってあり椎若葉

嶋田静
紫陽花を囲みやさしくなっており
白菖蒲遺影の母の笑顔にて
所望せり追い風の名の花菖蒲
師に続く白詰草の香る道

加地弘子
青空の近づいて来る紫木蓮
一片は佐藤さんちの紫木蓮
千切れても繋がっている紫木蓮
新緑に烏と鳩の混ざる昼

安部いろん
夾竹桃男は生きるために死ぬ
夾竹桃モディリアーニのエビュテルヌ
手に届く虹がここにも阿古屋貝
誰からも識られぬ未来百日紅

宮下揺子
明け易し夢の続きを夢を見る
子を持たぬ夫婦の渋いアイスティー
卯の花腐し果ての無い自信持つ
大夕焼屋根飛び移る猫の影

俎石山
惜しまれず去って行くなりつくしんぼ
五月晴物言わぬもの見送りぬ
亡き友の遺品となりしラムネ玉
水茄子に染まった指と指のあり

佐藤浩章
ウォーキング背中合わせの蝉しぐれ
外壁の色を貪る西日かな
白鷺の首のバルーンアートなり
磨崖仏借景にして女郎蜘蛛

長谷川洋子
会社より呼び出しかかり五月雨
白牡丹考え方を変えており
立葵何があっても驚かぬ
辞世の句考えている山椒魚

〈俳句物語〉 岡田耕治
あめんぼの光をひらく閑けさよ 谷川すみれ
 駅から自宅へ向かう途中に小さな公園がある。雨でないかぎり、彼女はそこに立ち寄る。公園の一角にあるビオトープが、お気に入りの場所だ。電車の中や通りの喧騒とは別世界の静けさの中に身を置く。それが心地よい。
 大学で教員免許を取得したものの、公立の教員採用試験は受けなかった。いまは私立の通信制高校でメンターとして働いている。授業はすべてオンラインであり、彼女が教壇に立つことはない。メンターの役目は、レポートの締め切り管理や学習状況の共有、そしてネットや対面での相談対応だ。生徒の中には、不登校経験者も多い。
 この道を選んだのは、自身の経験ゆえだ。中学二年生の時、彼女自身も不登校になった。当時の担任は、家庭訪問や電話、メールといった形で、さまざまな方法で寄り添ってくれた。「学校へおいで」という言葉は、一度も言われなかった。その柔らかい関わりのおかげで、三年生になると少しずつ登校できるようになり、高校、大学と進学を果たした。あの担任のように、不登校を経験したり、学校に違和感を抱いたりしている生徒の力になりたい。そんな憧れが、この学校へ彼女を導いた。
 彼女が大切にしているのは、生徒同士の繋がりだ。登校のペースはそれぞれ違う。けれど、顔を合わせた際に「この子とあの子なら話が合いそう」と感じれば、一緒に昼食を取ったり、談話室で話したりする。自身の経験を振り返れば、人との関わりや対話が、どれほど自分をはげましてくれたかを知っているからだ。
 ビオトープの池。あめんぼが水面を滑ると、足元に同心円状の波紋が広がる。今日の食堂での対話と同じように、三匹のあめんぼの動きが、眠っていた水面の光を呼び覚まし、外側へと押し広げていく。まるで、彼女の大切にしている営みを肯定してくれるように。
*もう少し干せと天草もたらさる 岡田耕治

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