2026年10月4日日曜日

香天集10月4日 渡邉美保、玉記玉、辻井こうめ、森谷一成ほか

香天集10月4日 岡田耕治 選

渡邉美保
新しきそばがら枕九月かな
影踏みの影に尾のある子もまじり
かまつかや砥石たつぷり水を吸ひ
恐竜の骨格見上げ栗ご飯

玉記玉
体ごと月にして聴く唱歌かな
遠くへは行かない暮らし彼岸花
用無きに拾いし椿の実今も
揺れるほどは瓢に触れてみたきかな

辻井こうめ
ゆつくりと紙紐ほどく今年米
何を待つ鉄錆色の芙蓉の実
無口なる人のつき合ひ花梨の実
天高し転用石の地蔵かな

森谷一成
瓶缶を置きにゆく手の涼新た
秋茄子わんさ煮たろか焼いたろか
人類に尾骨まだあり牛蒡引く
無理をする人に食いつく鷹の爪

中嶋飛鳥
夜の秋二人で開けん玉手箱
この町の交番目指し小鳥来る
箱庭の木立をかすめドローン消ゆ
狗尾草揺らし片恋守りけり

浅海紀代子
はらからの逝きてビールに集いけり
白シャツの染みより記憶よみがえり
夕涼や我に家族の猫五匹
夏惜しむとぎれとぎれのハーモニカ

平木桂
会わぬままLAINの訃音虫の声
生きるには何が必携穴まどひ
平行のままでいいのと赤蜻蛉
無花果を剝きて斑の分からず屋

神谷曜子
台風一過コップの水膨らむ
パレードに加わる晩夏日の暮れる
秋祭終えて浮力のついたよう
歩けば着くと秋海棠の谷へ

上田真美
くさくさがぐさぐさになり秋夕焼
秋の波近く寝息の安らかし
青鷺が睨む魚を口に銜え
夜の秋ライオン橋の灯は優し

田中仁美
フェリーゆく鳥羽から伊良湖秋高し
母を乗せ車椅子押す秋の宿
秋の昼露天湯よりの緑濃し
神島の巨岩のそびえ秋の海

牧内登志雄
秋の雨空き待つコインランドリー
三尺の竿でたりたる柿簾
もう逢えぬ人との宿よ稲の妻
月夜茸ぼんやり照らす常世かな

吉丸房江
秋の風ふっと斜めに通りぬけ
歯科医院ふる里見える椅子のあり
百日紅母の想いは淡き紅
朴落葉ぞうりの形に広がりぬ

〈選後随想〉 岡田耕治
影踏みの影に尾のある子もまじり 渡邉美保
 子どもたちの影踏み遊びの情景に、「尾のある子」という幻想的な要素が不意にまじり合っている。現実の光景からふっと異界へ誘われるような、郷愁とユーモア、そして微かな不気味さが同居する美保さんの世界。句会では、教職にあった人から、他の子とはちょっと違ったユニークさのある子が想起されるとの評が出た。

遠くへは行かない暮らし彼岸花 玉記玉
 遠くへの移動や変化を求めず、身の回りの日常に留まるけれども、俳句においては自在でありたい、そんな玉さんの気構えが感じられる。彼岸花は、球根に強い毒があるため、虫や動物から田畑や墓地を守るための「魔除け」「境界」として植えられてきた。この此岸と彼岸の境界は、「遠くへ行かない」暮らしを一層愛おしいものにする。

ゆつくりと紙紐ほどく今年米 辻井こうめ
 新米を包む紙紐をていねいにほどいていく手つきに、こうめさんの季節の恵みを受け取る喜びと神聖さが漂う。句会では米作りの友人から聞いた話として、この紙紐はウンウンと強く締めないといけないと紹介された。だからこそ「ゆつくりと」ほどかなければならない。しっかりした紙の袋を開く音とともに、新米の香りが立ち上るような温かみを感じさせる。

無理をする人に食いつく鷹の爪 森谷一成
 つい無理をしてしまう人への、一成さんのまなざしのあたたかさを感じる。鷹の爪は、先端がキュッと尖って少し湾曲しており、鮮やかな赤色をしている。収穫して、販売しているものもそうだが、赤くなるまで畑にあると、爪先があちこちに向かって、それこそ「食いつく」形に見える。これはもしかすると、がむしゃらに生きる自らへの自嘲的なエールかも知れない。

*歌うほど声の出てくる木槿かな 岡田耕治

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