2017年9月25日月曜日

「千曲川」15句 岡田耕治

千曲川  岡田耕治


姨捨の何処の水も澄みにけり
現れて田毎の月のスイッチよ
胡麻垂をたっぷり潜り走り蕎麦
落鮎の太く焼かれし信濃かな
上山田温泉の肌冷ややかに
冬隣両手を握り回りけり
対岸に渡れなくなる天の川
千曲川秋思の眼細めたる
秋桜行ったり来たりしておりぬ
花芒公開の知の立ちあがり
きっぱりとうなずいている杜鵑草
実紫外の空気を吸いに出る
黄になるを掴んでいたり花梨の実
裂けんとす石榴の樹齢静かなり

手を振って別れて来たり月の里

*長野県千曲市にて。

2017年9月24日日曜日

香天集9月24日 谷川すみれ、加地弘子、大杉衛ほか

香天集9月24日 岡田耕治 選

谷川すみれ
いびつなるメタセコイアの去年今年
雪催鴉が先に着地する
衰えて引き寄せており石蕗の花
枯桜川はゆっくり呼吸して

加地弘子
空蝉を踏んでしまって泣き出しぬ
揚花火残りの刻を頻りなる
間をおいて終わりを告げる揚花火
星月夜話の通う距離にいて

大杉 衛
ひぐらしや遠いところに杭一本
掌の箱根細工や秋風や
秋風と書くには少し強すぎる
静物の翳を育てる十三夜

橋爪隆子
目高の目じっと見ている眼かな
輪の中に手踊りをして車椅子
鯉はねてつかの間の輪よ秋の水
秋暑しこげた匂いの世界地図

北川柊斗
明滅の迷信たどり秋の蝶
仮の世の全きものに芋の露
液晶の狭き画面を秋出水
天高しギターの音が突き抜けて

木村博昭
竜胆や湖も伊吹も晴れわたり
小さきにレンズを向けて草の花
村いちばん働き者の案山子かな
父と子の紙飛行機の天高し

永田 文
秋の空しろじろと畑ささくれて
曼珠沙華遊女の墓とつづきおり
月高し働く影のあまたあり
秋祭腕つりあげて法被の子

中辻武男
初鴨や今朝の池にぞ番いける
この道の途中にかかり秋夕焼
秋の夜の風が届ける遠太鼓
秋燕山里の路地弓なりに

越智小泉
街中に残る田んぼよ曼珠沙華
こんなにもが青年いる秋祭
月光や音も灯も消す仏の間
ひとり居の自由と孤独秋の空

岡田ヨシ子
縞蛇や小鳥を口に挟みたる
鳥渡る道路に獲物残しおき
高齢の学ぶ鉛筆文化の日
秋の風限りある身を一吹きす

*千曲市文化会館にて。

2017年9月23日土曜日

小望月阿蘇カルデラを濡らしゆく 大津留 直

小望月阿蘇カルデラを濡らしゆく 大津留 直
 望月の十五夜になると、あとは欠けていくばかりですから、小望月はもっとも希望を含んだ月かも知れません。その月が、広大な阿蘇カルデラを照らしています。それを「濡らしゆく」と感じた作者のイメージに共感します。作者の住む九州は、大地の異変に直面しています。その異変を鎮めるように、月光が豊かなカルデラを濡らしてゆくのです。

*千曲市で見つけた井上靖の筆跡。

2017年9月19日火曜日

「台風」15句 岡田耕治

台風  岡田耕治

一時間早く身を置きレモンティー
秋螢ひそんでいるのは直感
稲光言葉になるを待っており
わが背中見たことのなし秋入日
秋灯忘れるためにふり返り
新豆腐出口に隣る席を占め
マイナスを書き出してゆく天の川
台風の中珈琲を熱くする
パンプキンスープを付けて口のふち
ドア開く秋の朝日を満たすため
背中から肩に移して今年米
落花生最後の一つ回りたる
探究のはじめに梨を齧りけり
芋の秋バターと醤油したたらす

鈴虫や人の声から離れ来て
*千曲市笹屋ホテルにて。