老いてよりひっくりかえる天道虫 加地弘子
香天集選後随想。高齢になりますと、いかに転倒せずに暮らせるかということが切実になります。いくら注意していても転ぶときは転んでしまうのですが、その姿は目の前の天道虫のようです。この大きな天道虫も、齢を重ねたのでひっくりかえりやすくなったのかと、そんな心配と微笑みをもたらしてくれる不思議な句です。
*徳島城址にて。
うろこ雲廃船にある水たまり 渡邉美保
香天集選後随想。うろこ雲は、空中の水蒸気が水になることによって目に見えます。一方、廃船には、昨夜から降った雨が水溜りとなって雲を映しています。どちらも水に変わりないのですが、このように取合せることによって、廃船には微かな希望を、うろこ雲をうかべる空には廃船の哀しみを映し合うような構図が現れます。全体に目を漂わせようとする作者のこの視線に、微かな温もりを感じます。
*鳴戸大橋から渦潮。