2020年4月16日木曜日

頑として火鉢の肩のなだらかに 石井 冴

頑として火鉢の肩のなだらかに 石井 冴
 火鉢のなだらかさは誰もが認めるところでしょう。ところが作者は冒頭に、「頑として」という強い言葉を置きました。「頑としてなだらか」、この二つの矛盾する要素が、暮らしの中心をなす火鉢を象っているのです。頑とした父となだらかな母というイメージが一般的ですが、場合によっては逆かも。いずれにしても、暮らしの匂いのする秀句です。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて、ハルカスが隠れています。

2020年4月14日火曜日

臘梅の透けてゆくなりわれもまた 中嶋紀代子

臘梅の透けてゆくなりわれもまた 中嶋紀代子
 陽の光を受けて、臘梅が透けていくように感じられます。それを見ている作者自身も、この臘梅が受け取っている日差しの中で透けていくようです。「自然」と書いて「じねん」と読みますが、そのような自然と共にある作者のまなざしが感じられる一句です。

*泉佐野にて。

2020年4月13日月曜日

夢と知る夢のなかなる小白鳥 安田中彦

夢と知る夢のなかなる小白鳥 安田中彦
「香天」59号。夢を見ていますと、あこれは夢なんだと気づくことがあります。その夢の中に小白鳥がいました。白鳥は、男性を表す首と女性を表す体により、両性具有のシンボルと言われています。その夢は、だからこそ醒めやすかったのかも知れません。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2020年4月12日日曜日

香天集4月12日 三好つや子、中嶋飛鳥、砂山恵子ほか

香天集4月12日 岡田耕治 選

三好つや子
春疾風うぐいすいろの騎手の服
謀おぼえし頃よ蜷の道
ロッカーに尻尾忘れる遅日かな
目力の戻るオペなり春の星

中嶋飛鳥
マスクとは別に一言足りぬ奴
忘れあるマスクに著く紅の色
北窓を開け身の丈を長くする
春夕べゆらゆらと来る煙と愛

砂山恵子
春兆す北京ダックの薄き皮
短調がやがて長調蜂の音
天守閣の壁は漆黒つばくらめ
西東忌帽子の上の皺伸ばし

橋本惠美子
五回はやダンベル重き遅日かな
三寒と四温の間スクワット
じゃんけんぽんけんけんけんぱ青き踏む
髪上げてピアスを見せる卒業子

橋爪隆子
囀や枝の先までよく見えて
風やんで枝の重たき花ミモザ
群れとして力を宿し鳥帰る
紙雛目鼻なくても笑いたる
*休校中の大阪教育大学柏原キャンパスにて。


2020年4月11日土曜日

「視座」10句 岡田耕治

視座  岡田耕治

春キャベツ大きく未来かき混ぜて
対面を避けて見ているいるヒヤシンス
花鳥の名を識りてより聴いており
低くした視座からのぞみ春の星
野苺の小さき画廊に来ていたる
寄居虫の零れてゆきし海の淵
封を切るまでの妄想百千鳥
風車多くの声を逃がしたる
ひとり言増やしていたり雀の子
隔たりを拡げておれば蝶生まる


2020年4月5日日曜日

香天集4月5日 夏礼子、柴田亨、中濱信子ほか

香天集4月5日 岡田耕治 選

夏 礼子
啓蟄やパンダ右利き左利き
ままごとのみんな留守です犬ふぐり
おしゃべりな一日になり花えんどう
春満月だれか呼びたくなってくる

柴田 亨
団地雛LDKの笛太鼓
春の雨優しく動く膝頭
お前にはあるかサント・ヴィクトワール山
人間に上位下位なく春の風

中濱信子
春立つやメタセコイアの天を突き
白木蓮朝日をもらさないように
手を洗え手を洗えとて白木蓮
針の穴春日が糸を連れ通る

前塚かいち
春寒や血圧だけが上昇す
戦いはコロナウィルス大阪場所
パンデミックはじまっている春の闇
春場所の呼び出しの声澄みにけり

浅海紀代子
それぞれの窓の灯りて二月尽
永き日のつぶやき水に落しけり
白蓮の白を尽して散らんとす
春愁ドーナツの穴通りたる

朝岡洋子
闇一瞬漢のようなくさめして
大根漬味に丸みの兆しけり
土手にある列車の震え春浅し
行き過ぎて香の遅れ来る沈丁花

河野宗子
手さぐりで灯していたり春の宵
涙腺を病みて光れる春の海
写真からタイムスリップして春暮
一叢のまっすぐ空に黄水仙

羽畑貫治
さあ来いと蹲踞を保つ子供の日
フレイルの迫り来りて花の月
コロナ菌春をいっぱい食べ尽し
尾を引きし飛行機雲や夏燕

岡田ヨシ子
年の豆求めて一人バスに乗る
長く待ち春半日の修理済む
杉花粉窓から白きシーツ見え
山上へ続く桜を見て生きる
*泉佐野市にて。

「花吹雪」10句 岡田耕治

花吹雪  岡田耕治

私をしばらく離れ花辛夷
形なく春の水から生まれたる
川の字の真ん中に寝ん朧月
花吹雪遊ぼうと目を合わせくる
手縫いして春セーターの頭文字
菜の花のカバーをつけて読みはじむ
血色のよくなってくる蝶の昼
新しいストッキングの野に遊ぶ
フリージア物語から目を上げて
初諸子今の自分に馳走する
*堺市にて。