ひとしきり残る蟬とは知らず鳴く 永田満徳
俳句大学。蜩でしょうか。ヒヒヒヒヒと体に沁みるように鳴いています。ああもう蝉の声も終わる頃だなと、ふと思いますが、蝉は自分の生を鳴ききっているのです。命には必ず終わりがやってきて、こうして生きている私も、残る蝉の内に入るのかも知れません。ならば、この蝉のようにひとしきり声を上げようではありませんか。
*大阪教育大学卒業生の油絵。
2017年8月31日木曜日
2017年8月30日水曜日
いつよりか郵便受けを待つ小鳥 向瀬美音
いつよりか郵便受けを待つ小鳥 向瀬美音
俳句大学。巣箱の形をした郵便受けに小鳥が止まっています。おや、いつから止まっているのと声をかけたくなりましたが、一枚の絵のような光景に見入っています。同時に、もうそろそろあの人から返信が来るころかしらと、小鳥になって待っている自分があります。きっともうすぐ、この郵便受けにコトリと音がするにちがいありません。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
俳句大学。巣箱の形をした郵便受けに小鳥が止まっています。おや、いつから止まっているのと声をかけたくなりましたが、一枚の絵のような光景に見入っています。同時に、もうそろそろあの人から返信が来るころかしらと、小鳥になって待っている自分があります。きっともうすぐ、この郵便受けにコトリと音がするにちがいありません。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
「一対一」17句 岡田耕治
一対一 岡田耕治
休暇果つチューインガムを膨らませ
練習が始まっている秋簾
掌に食い込んでくるいぼむしり
秋の海大きく脚を拡げ立つ
完璧な円に近づき秋の虹
長き夜を走って来たる対話かな
邯鄲の朝の声をかなしめり
どこにでも行ける子といて花野かな
轡虫寿命の話していたる
不機嫌なままに開かれ秋日傘
八月の肉声で説くことにする
会話から離れてよりの天の川
鞄から紙を減らして秋の朝
何回ももう一回と言う夜長
神経を澄ましていたる鶏頭花
秋の蝶吸いついたまま離れない
秋の蚊と一対一になっている
*大阪府柏原市にて。
2017年8月28日月曜日
飯盒のおこげ最も今年米 今村征一
飯盒のおこげ最も今年米 今村征一
俳句大学。稲が実ってきますと、新米を食べたくなります。柔らかくて、艶があって、良い香りのする新米は、どんな食べ方でも美味しいものです。作者は、飯盒のしかもおこげが一番だと。飯盒のご飯は、まず、青空というスパイス、それに土と火と、何より仲間というスパイスが効いています。それらが、「おこげ」になっているのですから、たまりません。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
俳句大学。稲が実ってきますと、新米を食べたくなります。柔らかくて、艶があって、良い香りのする新米は、どんな食べ方でも美味しいものです。作者は、飯盒のしかもおこげが一番だと。飯盒のご飯は、まず、青空というスパイス、それに土と火と、何より仲間というスパイスが効いています。それらが、「おこげ」になっているのですから、たまりません。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
2017年8月27日日曜日
香天集8月27日 石井冴、玉記玉、谷川すみれ他
香天集8月27日 岡田耕治 選
石井 冴
紫陽花の力いっぱい萎れおり
水母だけ見ていて時に人の耳
君に会うために胡瓜の曲がりけり
短夜を醒めて久しき父の顔
玉記玉
秋滝に寄るわれも一滴の水
パペットは座って眠り鳥わたる
鳥渡る回転扉からタンゴ
開脚は百八十度小鳥くる
谷川すみれ
蹴ちらしても蹴ちらしても落葉
冬紅葉病窓に手を強くあて
いっぱいの図書室静か芙蓉の実
雪蛍違うよこれは知らぬ道
加地弘子
子かまきり一匹ずつが立ちどまる
水澄流れながらの会話かな
産声を切れ切れに鳴き油蝉
盆の僧私も古稀になりました
北川柊斗
かき氷毒盛るやうにシロップを
反射光まだ攻めて来し晩夏光
たをやかなる微風たゆたふ黒揚羽
八月のふところ深し雲薄し
橋本惠美子(8月)
帰りには傷痛み出す半ズボン
茄子漬ける残り廊下を光らせて
草むしる視野の全てを草にして
もう一度土に還すと草むしる
砂山恵子
花木槿一人ひとりに物語
秋日傘ころころ笑ふ女をり
黄ばみたる漢和辞典とサルビアと
風船蔓いつか一人になる家に
澤本祐子
枇杷の実や吾の口より生まれたる
裏返りつつかなぶんの蘇る
紙の辞書ゆっくり捲くり夏深む
時計草伸びては仮の時刻む
橋爪隆子
百円のコーヒー香る初秋かな
白桃やベッドの上を濡らしたる
黒ぶどう一顆含みて返事せず
一日の終わりが見えぬ残暑かな
橋本惠美子(7月)
紫陽花や始めにもどる数え歌
翅焦がす命の音や誘蛾灯
毛虫わく樹木もろとも伐られけり
グーとチョキ重ねたる子の蝸牛
大杉 衛
錆び匂う薄荷も匂う八月は
カンナ炎ゆ鉄材置場に燃え移り
ひまわりの種子残しけり高層に
夏果てる木綿の折り目美しき
中濱信子
梅雨ふかし言葉少なき人と居て
向日葵の雲遮っておりにけり
バスに乗り遅れたるかと立葵
耳慣れぬ言葉「迎撃」夜の雷
古澤かおる
蟻強しひっきりなしに海の果
梅焼酎色の違いを並べたり
かき氷そろりそろりと二つ来る
夏蓬先端しばらく風に揺れ
立花カズ子(8月)
大夕立見知らぬ家の門に居て
切れ間なく上がる花火の大仕掛
夏帯のかがようてあり輪の中に
夕風にひと日の終り稲の花
木村博昭
戦争のことなど語り遠花火
空蝉の何か託せし形かな
身の孔をみな塞ぎたる蝉しぐれ
原爆忌ことしの空は曇りたる
立花カズ子(7月)
蛙かと思う新葉の杜鵑草
生業のひと日ひと日や花は葉に
代掻や素足で臨む若さかな
朝影の鮮やかなりし濃紫陽花
西嶋豊子
空蝉や歩けば目にや片よせて
原爆の話のあとを寝られずに
打ち水をされて頭をさげており
八月は海の写真を欲しくなる
*写真は、大阪市阿倍野防災センター。
石井 冴
紫陽花の力いっぱい萎れおり
水母だけ見ていて時に人の耳
君に会うために胡瓜の曲がりけり
短夜を醒めて久しき父の顔
玉記玉
秋滝に寄るわれも一滴の水
パペットは座って眠り鳥わたる
鳥渡る回転扉からタンゴ
開脚は百八十度小鳥くる
谷川すみれ
蹴ちらしても蹴ちらしても落葉
冬紅葉病窓に手を強くあて
いっぱいの図書室静か芙蓉の実
雪蛍違うよこれは知らぬ道
加地弘子
子かまきり一匹ずつが立ちどまる
水澄流れながらの会話かな
産声を切れ切れに鳴き油蝉
盆の僧私も古稀になりました
北川柊斗
かき氷毒盛るやうにシロップを
反射光まだ攻めて来し晩夏光
たをやかなる微風たゆたふ黒揚羽
八月のふところ深し雲薄し
橋本惠美子(8月)
帰りには傷痛み出す半ズボン
茄子漬ける残り廊下を光らせて
草むしる視野の全てを草にして
もう一度土に還すと草むしる
砂山恵子
花木槿一人ひとりに物語
秋日傘ころころ笑ふ女をり
黄ばみたる漢和辞典とサルビアと
風船蔓いつか一人になる家に
澤本祐子
枇杷の実や吾の口より生まれたる
裏返りつつかなぶんの蘇る
紙の辞書ゆっくり捲くり夏深む
時計草伸びては仮の時刻む
橋爪隆子
百円のコーヒー香る初秋かな
白桃やベッドの上を濡らしたる
黒ぶどう一顆含みて返事せず
一日の終わりが見えぬ残暑かな
橋本惠美子(7月)
紫陽花や始めにもどる数え歌
翅焦がす命の音や誘蛾灯
毛虫わく樹木もろとも伐られけり
グーとチョキ重ねたる子の蝸牛
大杉 衛
錆び匂う薄荷も匂う八月は
カンナ炎ゆ鉄材置場に燃え移り
ひまわりの種子残しけり高層に
夏果てる木綿の折り目美しき
中濱信子
梅雨ふかし言葉少なき人と居て
向日葵の雲遮っておりにけり
バスに乗り遅れたるかと立葵
耳慣れぬ言葉「迎撃」夜の雷
古澤かおる
蟻強しひっきりなしに海の果
梅焼酎色の違いを並べたり
かき氷そろりそろりと二つ来る
夏蓬先端しばらく風に揺れ
立花カズ子(8月)
大夕立見知らぬ家の門に居て
切れ間なく上がる花火の大仕掛
夏帯のかがようてあり輪の中に
夕風にひと日の終り稲の花
木村博昭
戦争のことなど語り遠花火
空蝉の何か託せし形かな
身の孔をみな塞ぎたる蝉しぐれ
原爆忌ことしの空は曇りたる
立花カズ子(7月)
蛙かと思う新葉の杜鵑草
生業のひと日ひと日や花は葉に
代掻や素足で臨む若さかな
朝影の鮮やかなりし濃紫陽花
西嶋豊子
空蝉や歩けば目にや片よせて
原爆の話のあとを寝られずに
打ち水をされて頭をさげており
八月は海の写真を欲しくなる
*写真は、大阪市阿倍野防災センター。
2017年8月26日土曜日
海行きのバスに乗り込む残暑かな 原孝之
海行きのバスに乗り込む残暑かな 原孝之
俳句大学。小さい頃から盆を過ぎると海で泳ぐなと言われました。海月に刺されるし、水温も思った以上に低くなる、と。そんな残暑の中、作者が乗り込んだのは、海行きのバス。海の町についても、きっと誰も泳いでいないでしょうし、海沿いの店も閉じられたままの淋しい光景が広がっているでしょう。でも、子どもたちの声や親たちの疲れた顔にふれるより、誰もいない砂浜に一人足跡をつけていく方が、心が安まるかも知れません。
*鳥取駅前の白兎たち。
俳句大学。小さい頃から盆を過ぎると海で泳ぐなと言われました。海月に刺されるし、水温も思った以上に低くなる、と。そんな残暑の中、作者が乗り込んだのは、海行きのバス。海の町についても、きっと誰も泳いでいないでしょうし、海沿いの店も閉じられたままの淋しい光景が広がっているでしょう。でも、子どもたちの声や親たちの疲れた顔にふれるより、誰もいない砂浜に一人足跡をつけていく方が、心が安まるかも知れません。
*鳥取駅前の白兎たち。
2017年8月24日木曜日
「落花生」16句 岡田耕治
落花生 岡田耕治
耳鳴よ蜩を浴びはじめたる
蜩や鳴き止みてより時の経つ
約束の時刻に絞り酢橘の香
枝豆をほおばるときは聴き役
青鷺や後ろを見せたままにして
声乾くほどに八月十五日
誰も居ない駅を始点に白木槿
ピアノソナタ澄む水の上に水を足し
低きまま遠くへ飛んで秋の蝉
蟷螂の今日何も食べないでいる
自らを浮き立たせたる秋の蝶
目覚しと同じ小鳥の来たりけり
高きより咲きはじめたる百日紅
バーボンは一人飲むもの落花生
目を閉じて繋がっており秋ともし
長き夜の己が体を掴みけり
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
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