2019年12月15日日曜日

香天集12月15日 安田中彦、渡邊美保、澤本祐子ほか

香天集12月15日 岡田耕治 選

安田中彦
抽斗に狼のゐる至福かな
夢と知る夢のなかなる小白鳥
クリスマスあき箱に猫入りたがる
ただよふは冬の菫の独語かな

渡邉美保
冬青空カシンカシンと杭を打つ
茶の花の金の蘂まで飛んでゆく
冷ややかや顔認証で開くゲート
晩秋の救急箱に足すガーゼ

澤本祐子
つややかに色みちゆきて実むらさき
ていねいに林檎をむいて聞き上手
思うこと思い出すこと新松子
話すことつぎからつぎへ石蕗の花

神谷曜子
冬蝶になれるか免許返納す
冬の月考え事をするウサギ
界隈に反則多く寒鴉
思い切り弯曲をして寒のヨガ

中辻武男
牙彫柿本物よりも柿らしく
里の味蜜柑仕分けの影浮かぶ
早や師走宅配人の声高く
甲斐ありて寒蘭老いを潤せり
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年12月8日日曜日

香天集12月8日 三好つや子、砂山恵子、橋爪隆子ほか

香天集12月8日 岡田耕治 選

三好つや子
言霊の塒としての烏瓜
動物園に昼のない顔冬に入る
はにかみを深める遺影冬りんご
着ぶくれて私自身を俯瞰する

砂山恵子
黒潮を目指す寒夜の魚たち
海溝に鱗広がる霜夜かな
言霊を谷に潜めて山眠る
鈍色の雨の降る夜春着縫ふ

橋爪隆子
半ぺんの疲れ切ったるおでんかな
着ては脱ぎ脱いでは着けて十一月
夕暮を抜け出している石蕗の花
柿の竿空つついたりひねったり

宮下揺子
冬帽子北から戻り北へ行く
祭神は木彫りの「おかめ」一の酉
涙腺の緩い夫なり玉子酒
クリスマス美術館にて再会す

羽畑貫治
今年こそ禁酒を誓う大旦
にっこりと太師の笑顔葛晒す
寒月光明日へと出す力瘤
春近し一直線に齢重ね
*高槻市にて。

2019年12月7日土曜日

「睡眠中」12句 岡田耕治


睡眠中  岡田耕治

学校を飛び出している銀杏落葉
枯芭蕉これからをなお面白く
音立てて育ってゆけり冬の水
返り花心拍数を減らしけり
寒風の鼻から分けて縄暖簾
いくらでも時間を使う炬燵かな
木枯をゆっくりと茶葉沈みけり
生きることだけを考え冬の滝
抱き合っているだけでよき時雨かな
冬の蝶睡眠中に現れて
冬晴の光は命つつまれる
薬箱囲炉裏から手の届かない


2019年12月1日日曜日

香天集12月1日 玉記玉、森谷一成、夏礼子、西本君代ほか

香天集12月1日 岡田耕治 選

玉記 玉
随筆(エッセー)か小説(ノベル)か足袋を洗うのは
試すには梟の顔ずれている
蛇は穴に象形文字に関節
マスクしてみるキリンの首の暗さ

森谷一成
世間(よのなか)を短く飛んで石たたき
大和三山そのまんなかの秋深む
蓑虫われに極刑を冀い
冷まじやどれも百円プラス税

夏 礼子
ふるさとを近づけている月明り
足音の親しくなりぬ十三夜
闇新た金木犀の雨あがり
ひとり居の水つかう音秋深む

西本君代
袴着の男子をあやす写真館
毬栗の毬要る人は五十円
黄落や珈琲たてる男の手
冬近し胎動を聞く掌

橋本惠美子
十月をねぎらっておりフルコース
ハーレーを降り立つ女菊日和
立ち話す影をうつして冬菫
アダージョとラルゴの狭間冬の水

中嶋紀代子
ギブアンドギブをつづけて冬銀河
短日や帰宅時刻のメール来る
ペポかぼちゃ夜中にタンゴ踊るらし
認知症の夫持つ友の富有柿

釜田きよ子
ホチキスの乾いた音や秋暑し
温暖化知るや知らずや秋の蝶
蟷螂の膝しなやかに使いけり
文化の日レシピ通りにせぬ料理

北川柊斗
冬陽ざしテラスに並ぶハーヴティー
冬日受く老犬ねむる小さき屋根
蛇口より切れぬ雫や冬の鵙
ふつふつと我慢限界たうがらし

坂原 梢
竜の玉子のポケットをこぼれ出づ
平凡が良いことになる夜長かな
柚子刻むほどに香りの増しゆけり
木枯の今も瓦礫は町の中

北村和美
夕刊の痩せてゆくなり日短か
ピンホールカメラ瞬く冬の星
初時雨パズルのかたちして落ちる
返り花ふみの余白の白薫る

正木かおる
田園は少しさみしく鳥肥ゆる
黄落や墨の作務衣の忙しく
二度となき今日一日の梨を剥く
冬ざれの港を離れプリンセス

安部礼子
カメラのレンズ小春日を持ち帰る
黒電話置き寒紅を見てしまう
腸の細胞として雪仏
炎の色は寒の夜を無限にす

吉丸房江
抱き上ぐる子が甘柿に届くまで
友招き山茶花の咲く今が好き
茶の花の心底黄色あたたかく
首かしげクリスマスローズ聴き上手
*伊丹市柿衞文庫にて。

2019年11月30日土曜日

「てのひら」10句 岡田耕治

てのひら  岡田耕治

冬紅葉Xという人を待ち
短日のバス内外を別ちけり
その中に色を失い冬夕焼
良い声の鮟鱇鍋に集まりぬ
  淡海三句
空風や淡海の色を深くして
冬空がとらえていたる淡海かな
日本酒を唯々飲んで息白し
一人ずつ持場のありて銀杏落葉
てのひらを落ち着かせたる冬林檎
感覚を開きマスクを外しけり

2019年11月24日日曜日

香天集11月24日 石井冴、谷川すみれ、辻井こうめ他

香天集11月24日 岡田耕治 選

石井 冴
次の世は実石榴三つ産んでみる
夢殿に微熱の耳を傾ける
夢に出る父の恋人冬すみれ
すぐ青に変わる信号鹿の顔

谷川すみれ
始まりは冷たき壁の一人より
永劫に土は眠らず枯木山
立冬や遠く見てきた川に触れ
初富士の時間の中を歩きけり

辻井こうめ
靴紐のをなもみどこに落とさふか
バトラーとアシュレに散りて櫨紅葉
人知れず高野箒の花の秋
やはらかな夢を見たくて布団干す

前塚かいち
綿虫に重さありけり野球帽
糸杉の秋思を深めファン・ゴッホ
存分にグランドゴルフ神の留守
禿頭を忘れておりぬ冬帽子

木村博昭
診察の順番を待つ赤い羽根
菊花展優等生の菊ばかり
常磐木も紅葉も沈め池ねむる
残り火を踏み消して去る憂国忌

河野宗子(11月)
ラ・フランス踊りを誘う素振りして
真っ青な空の重みや石蕗の花
思い出を昭和に戻し野紺菊
金木犀ほっとひと日の終りたる

古澤かおる
野分あと三戸岡鋭治の列車着く
耳痛くなるほどの里霧深し
新しい眼鏡の行方萩は葉に
使わない切手シートと冬に入る

河野宗子(10月)
紀の川の佐和子を眺む秋夕焼
雨風にせかされてあり稲を刈る
師の茶室崩されて行く秋の暮
テレビより君が代流れ秋の冷え

永田 文
日を集め畔一面に赤のまま
ふり返り見直している返り花
終わりなき話に醒める夜長かな
山からの風や夜長をつれて来る
*昨日の上六句会、ホテルアウィーナ大阪にて。

2019年11月23日土曜日

「鼻先」10句 岡田耕治

鼻先  岡田耕治

組み立てしガラスケースの冬に入る
充電に繋いでおけり残る虫
次に会う時空を開き冬銀河
背を向けて背中を合わす冬日向
外套の僕が椅子から立ち上がる
鼻先を尖らせておく紙マスク
冬木立一部始終を目撃す
窓際のひとりとなりて初時雨
しぐれゆく暗みしばらく差し仰ぎ
話さないタクシードライバーの時雨