香天集7月28日 岡田耕治 選
夏 礼子
のうぜんの前頭葉を明るくす
望郷はしんと日暮の青田波
車椅子つぶやきてゆく柿の花
まなうらのなみだそのまま髪洗う
前塚かいち
登校の水やり終へて夏休
素手で捕る振動音や蝉の鳴く
父の日の捨ててはならぬ蔵書かな
背中の皮剥がしてをりぬ夏休
坂原 梢(7月)
いつまでも変わらぬ二人冷奴
定位置に潜んでいたる守宮かな
さくらんぼフルーツポンチに強くさす
あれもこれも流して髪を洗いけり
河野宗子
凌霄花やとんぼ返りの忘れ物
夏蝶や電磁波空(くう)をかけまわる
梅雨激し昔ばなしの薬売り
万緑や病癒えたる友と居て
正木かおる
半島の仔牛を訪ね潮の風
みぎひだり曲がり胡瓜の青春譚
両手つき正対をして雨蛙
今日からの私になって夏の蝶
坂原 梢(6月)
梅干の匂いのこれる三和土かな
サングラスとっさに外すことならず
山中のを湧き出る泉手のひらに
耕人に声かけてゆく帰省かな
木村博昭
語部の目の遠くあり沖縄忌
命終と恋は突然百合匂う
梅花藻の水の行く手や海の原
詩のことば涸れて清水を汲みにゆく
岡田ヨシ子
風を容れ梅雨明けを待つ新の服
米寿なり土用鰻を注文し
夏料理電子レンジを回りけり
散水す朝のドラマを視聴して
*上六句会、ホテルアウィーナ大阪にて。
2019年7月28日日曜日
「箱の中」10句 岡田耕治
箱の中 岡田耕治
暗がりに目の慣れてくる梅雨の傘
五月雨アジトに長く留まりて
コンクリートつぎつぎ乾き五月雨
夏落葉バリと鳴らして来たりけり
甲虫音立てている箱の中
休みの日大きくトマト切り分けて
短夜をそのまま起きることにする
箱庭や交代のとき来ていたる
昼寝する指がぴくんと動きけり
ひと筋の空渡りゆく青田かな
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
2019年7月21日日曜日
香天集7月21日 岩橋由理子、三好広一郎、谷川すみれ他
香天集7月21日 岡田耕治 選
岩橋由理子(5月)
ラムネ飲むトンチンカンに何もかも
青楓ゴリラの孤独通り抜け
自転車とどこまでも行く炎天下
多言語の七夕飾り濡れそぼつ
三好広一郎
蛇衣の濡れたところで切手貼る
ビアガーデン出て暗算を驚かれ
白い象少し汚れて少し洗う
部屋中に鏡バナナは腐りゆく
谷川すみれ
虫の音の周りは鳴かぬ虫の群
倒木の年輪愛し秋の空
身に入むや空しき問の爪を切る
雑草の色をつくして秋黴雨
石井 冴
種を吹く悟朗の好きなさくらんぼ
りゅうぐうのつかいに呼ばれ暑気払
水無月の硝子にすっぽんもどきかな
盛装の見開いている金魚玉
西本君代(6月)
ビルの夏噛み合う石のモニュメント
新樹光ぬるいシャワーを浴びている
恋ありて白服の皺柔らかく
調律師の鞄大きく青葉風
柴田亨
青りんご夢を分割して齧る
校正をすり抜けていく影法師
薄明の救いか罰か囀りは
ちょっと泣く六月の月に練乳
岩橋由理子(6月)
祭の灯乱舞の先の星の屑
水を打つアロエの鉢をかたどりて
片陰の人にとどまり選挙カー
空を刺すビルの地べたや蟻ひとつ
中嶋飛鳥
木下闇倣いて背を低くして
ごきかぶり滅多打ちする夢のあり
終電車金魚一尾と揺られおり
髪洗う後ろの扉開けしまま
蛍袋揺れて呪文の効いてくる
辻井こうめ
二代目の保護猫来たり金魚玉
犬用のボールを出して山清水
水草を突きてははじけ水馬
朝露を宿す笹原かほり立つ
西本君代(5月)
楠と吾旧友であり立夏
轟きて神駆け抜ける競べ馬
麦の秋燃え広がっていくように
ジンベエが少し熱あり水族館
古澤かおる
一人ずつ発ちて朝の登山口
遠雷の色をとどめる闇のあり
フライパン一つの料理日雷
クルーズ船と潜水艦の海開き
羽畑貫治
天の川何もかももうこれで良し
正座して三つ指をつく原爆忌
仏壇に両手を合わせ豆の飯
バチバチと木の幹叩く秋の蝉
北村和美
足音を逃げ出してくる沢蟹よ
メガホンの色とりどりに風薫る
靴棚に褪せた赤色梅雨長し
石舞台のそこにおかれて夏帽子
永田 文
三つ編を解けばはらりと夏匂う
雨粒を抱いて青き毬栗よ
老鶯や百寿の媼経をよむ
蝉脱皮つづけるいのち謳歌して
中辻武男
七夕の笹持ち帰る子らのあり
釣人の掛けし鈴鳴り川鰻
世界遺産日傘の波が続きたる
戸を開けて眺めていたる初蝉よ
*ホテルアウィーナ大阪にて。
岩橋由理子(5月)
ラムネ飲むトンチンカンに何もかも
青楓ゴリラの孤独通り抜け
自転車とどこまでも行く炎天下
多言語の七夕飾り濡れそぼつ
三好広一郎
蛇衣の濡れたところで切手貼る
ビアガーデン出て暗算を驚かれ
白い象少し汚れて少し洗う
部屋中に鏡バナナは腐りゆく
谷川すみれ
虫の音の周りは鳴かぬ虫の群
倒木の年輪愛し秋の空
身に入むや空しき問の爪を切る
雑草の色をつくして秋黴雨
石井 冴
種を吹く悟朗の好きなさくらんぼ
りゅうぐうのつかいに呼ばれ暑気払
水無月の硝子にすっぽんもどきかな
盛装の見開いている金魚玉
西本君代(6月)
ビルの夏噛み合う石のモニュメント
新樹光ぬるいシャワーを浴びている
恋ありて白服の皺柔らかく
調律師の鞄大きく青葉風
柴田亨
青りんご夢を分割して齧る
校正をすり抜けていく影法師
薄明の救いか罰か囀りは
ちょっと泣く六月の月に練乳
岩橋由理子(6月)
祭の灯乱舞の先の星の屑
水を打つアロエの鉢をかたどりて
片陰の人にとどまり選挙カー
空を刺すビルの地べたや蟻ひとつ
中嶋飛鳥
木下闇倣いて背を低くして
ごきかぶり滅多打ちする夢のあり
終電車金魚一尾と揺られおり
髪洗う後ろの扉開けしまま
蛍袋揺れて呪文の効いてくる
辻井こうめ
二代目の保護猫来たり金魚玉
犬用のボールを出して山清水
水草を突きてははじけ水馬
朝露を宿す笹原かほり立つ
西本君代(5月)
楠と吾旧友であり立夏
轟きて神駆け抜ける競べ馬
麦の秋燃え広がっていくように
ジンベエが少し熱あり水族館
古澤かおる
一人ずつ発ちて朝の登山口
遠雷の色をとどめる闇のあり
フライパン一つの料理日雷
クルーズ船と潜水艦の海開き
羽畑貫治
天の川何もかももうこれで良し
正座して三つ指をつく原爆忌
仏壇に両手を合わせ豆の飯
バチバチと木の幹叩く秋の蝉
北村和美
足音を逃げ出してくる沢蟹よ
メガホンの色とりどりに風薫る
靴棚に褪せた赤色梅雨長し
石舞台のそこにおかれて夏帽子
永田 文
三つ編を解けばはらりと夏匂う
雨粒を抱いて青き毬栗よ
老鶯や百寿の媼経をよむ
蝉脱皮つづけるいのち謳歌して
中辻武男
七夕の笹持ち帰る子らのあり
釣人の掛けし鈴鳴り川鰻
世界遺産日傘の波が続きたる
戸を開けて眺めていたる初蝉よ
*ホテルアウィーナ大阪にて。
2019年7月17日水曜日
「オンザロック」12句 岡田耕治
オンザロック 岡田耕治
城内に侵入したる黄金虫
合歓の花空中を飛ぶ音を聴き
息の根を静かに保ち時計草
緊張をほどく背骨のたかむしろ
駅員の指す手の向こうさみだるる
一冊の本に戻れる夕立かな
向日葵や前途の予感していたる
これ以上飲まないと言うビールかな
夏シャツを入れ抽斗を出る空気
西日さす一つ一つの写真立
柔らかい光のあたり花氷
揺椅子やオンザロックを揺らしたる
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
2019年7月14日日曜日
香天集7月14日 加地弘子、三好つや子、橋本惠美子ほか
香天集7月14日 岡田耕治選
加地弘子
夕虹や昔と違う家族にも
夏燕途中で止める意味は何
青芒間際まで待つ真髄よ
尺取の背中押されて走り出す
三好つや子
斜め向く蛇口がひとつ啄木忌
夕焼けの軋む音して父の肩
6Bの息吸って吐く向日葵よ
南瓜熟れる河内訛のつよい空
橋本惠美子
トロッコの先頭に乗る蜥蜴かな
恐竜の頭が潜る水遊び
五月雨を集めソーラーパネルかな
いつよりか蛇の骸の消え去りぬ
澤本祐子
紫陽花や時にぼんやりすることも
シャッターを切って薔薇との別れかな
梅雨に入る画鋲に残る切れっ端
立ち止まることも大事と梅雨の月
砂山恵子
上からか脇を攻めるかかき氷
滝の音や今日一日をどう過ごす
靴下を履き替へてより夏館
飼ふことの出来なき猫よ木下闇
橋爪隆子
息のんで息を止めたり大蚯蚓
万緑を駆け回わりたる帽子の黄
風薫る飛鳥をめぐるスニーカー
青葉騒キトラ古墳の虎目覚め
中嶋紀代子
青鷺や高僧のごと瞑想す
縁起良しこの初夏の鸛
草を刈る外つ国の草増えつづけ
瞬間に冷却されて大百足虫
神谷曜子
水中花夜更けて芯の蒼さ増す
ほおずきの花を手向ける墓のあり
雨乞や岩礁に鳥立ち尽くす
肩甲骨ゆるめ茅の輪をくぐりけり
*和歌山市開智高校にて。
加地弘子
夕虹や昔と違う家族にも
夏燕途中で止める意味は何
青芒間際まで待つ真髄よ
尺取の背中押されて走り出す
三好つや子
斜め向く蛇口がひとつ啄木忌
夕焼けの軋む音して父の肩
6Bの息吸って吐く向日葵よ
南瓜熟れる河内訛のつよい空
橋本惠美子
トロッコの先頭に乗る蜥蜴かな
恐竜の頭が潜る水遊び
五月雨を集めソーラーパネルかな
いつよりか蛇の骸の消え去りぬ
澤本祐子
紫陽花や時にぼんやりすることも
シャッターを切って薔薇との別れかな
梅雨に入る画鋲に残る切れっ端
立ち止まることも大事と梅雨の月
砂山恵子
上からか脇を攻めるかかき氷
滝の音や今日一日をどう過ごす
靴下を履き替へてより夏館
飼ふことの出来なき猫よ木下闇
橋爪隆子
息のんで息を止めたり大蚯蚓
万緑を駆け回わりたる帽子の黄
風薫る飛鳥をめぐるスニーカー
青葉騒キトラ古墳の虎目覚め
中嶋紀代子
青鷺や高僧のごと瞑想す
縁起良しこの初夏の鸛
草を刈る外つ国の草増えつづけ
瞬間に冷却されて大百足虫
神谷曜子
水中花夜更けて芯の蒼さ増す
ほおずきの花を手向ける墓のあり
雨乞や岩礁に鳥立ち尽くす
肩甲骨ゆるめ茅の輪をくぐりけり
*和歌山市開智高校にて。
「多く読む」10句 岡田耕治
多く読む 岡田耕治
多く読むことのはじめの蚊遣香
さくらんぼほおばるリズムついてくる
息のない人と来ている蛍かな
満員の雫をしばる梅雨の傘
たこ焼きを売るたこ焼きの顔の夏
夏の雨後ろから風強くなる
いくつかの締切を告げソーダ水
夜歩く梔子の香を辿りつつ
同棲すトマトを砕く音を立て
共に視て話し始めるあめんぼう
*岬町識字学級にて。
多く読むことのはじめの蚊遣香
さくらんぼほおばるリズムついてくる
息のない人と来ている蛍かな
満員の雫をしばる梅雨の傘
たこ焼きを売るたこ焼きの顔の夏
夏の雨後ろから風強くなる
いくつかの締切を告げソーダ水
夜歩く梔子の香を辿りつつ
同棲すトマトを砕く音を立て
共に視て話し始めるあめんぼう
*岬町識字学級にて。
2019年7月7日日曜日
香天集7月7日 渡邉美保、森谷一成、前塚かいち他
香天集7月7日 岡田耕治 選
渡邉美保
弟をだまらせてゐるさくらんぼ
合歓の花見上げて深き息ひとつ
夏至夕べつつけば丸くなる虫と
物語ねずみ花火のあとで聞く
森谷一成
大の字に靡かせており青嵐
黒髪を開(はだ)けてみせる青嵐
わたしにはあかんべいなり花菖蒲
青梅雨の天上にある潦
前塚かいち
李喰ふ早口言葉言へぬ子も
初夏や戦後の続く六林男邸
くちなしの香や戦没者追悼す
黴の世の黴びぬ言葉を探しをり
夏 礼子
幼子の丸描く速さ時の日へ
梅雨晴間宇宙線とはどのあたり
末っ子の甘え上手や花ざくろ
聞き役の昼酒しんと芙美子の忌
宮下揺子
初夏の風子どもが走る水面より
阿弥陀沙羅の花から拝顔す
マネキンの腕をはずして夏衣
人拒むかに初夏の観覧車
河野宗子
紫陽花や昭和のボタン針箱に
梅雨晴間近道をする友の家
赤き実を一つつけたるざくろかな
入梅や洗ひたてたる藍のれん
朝岡洋子
朽すすむ新玉葱の小屋のあり
ボンネットの雨粒膨れ梅雨に入る
群青に水茄子漬かり茶粥煮る
観音の淡路が見えて五月晴
岡田ヨシ子
うぐいすやお地蔵さまのご命日
蛸を待つ岩の隙間の波静か
四階へ転居の汗を流しけり
天辺の抜け毛を隠し夏帽子
大阪教育大学柏原キャンパスにて。
渡邉美保
弟をだまらせてゐるさくらんぼ
合歓の花見上げて深き息ひとつ
夏至夕べつつけば丸くなる虫と
物語ねずみ花火のあとで聞く
森谷一成
大の字に靡かせており青嵐
黒髪を開(はだ)けてみせる青嵐
わたしにはあかんべいなり花菖蒲
青梅雨の天上にある潦
前塚かいち
李喰ふ早口言葉言へぬ子も
初夏や戦後の続く六林男邸
くちなしの香や戦没者追悼す
黴の世の黴びぬ言葉を探しをり
夏 礼子
幼子の丸描く速さ時の日へ
梅雨晴間宇宙線とはどのあたり
末っ子の甘え上手や花ざくろ
聞き役の昼酒しんと芙美子の忌
宮下揺子
初夏の風子どもが走る水面より
阿弥陀沙羅の花から拝顔す
マネキンの腕をはずして夏衣
人拒むかに初夏の観覧車
河野宗子
紫陽花や昭和のボタン針箱に
梅雨晴間近道をする友の家
赤き実を一つつけたるざくろかな
入梅や洗ひたてたる藍のれん
朝岡洋子
朽すすむ新玉葱の小屋のあり
ボンネットの雨粒膨れ梅雨に入る
群青に水茄子漬かり茶粥煮る
観音の淡路が見えて五月晴
岡田ヨシ子
うぐいすやお地蔵さまのご命日
蛸を待つ岩の隙間の波静か
四階へ転居の汗を流しけり
天辺の抜け毛を隠し夏帽子
大阪教育大学柏原キャンパスにて。
2019年7月6日土曜日
「立ち台」12句 岡田耕治
立ち台 岡田耕治
近道のよく茂りたる夏草よ
水茄子や手で割くための刃を入れて
原因を宿していたり日向水
風鈴や二回目がすぐ始まりぬ
卓球のはだけてしまう浴衣かな
歯ブラシがコップを鳴らし夏の宿
箱庭や暗くなるまでそのままに
夏の月喉を濡らしておりにけり
心太三杯酢まで飲み干して
井戸の瓜空から覗く顔のあり
休憩を取らねばならぬ五月闇
立ち台の警察官の宵涼し
池田市立北豊島中学校にて。
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