2021年5月23日日曜日

耕治俳句鑑賞 仲寒蝉 大津留直 野島正則 桑本栄太郎

新しいヒントが並ぶ玉葱よ  耕治
仲 寒蝉
 新玉ねぎは美味しいですね!よく見ると1個1個が違っていて何かのヒントのように感じたのでしょうか。

麦藁帽また会えるから泣かないで  耕治
大津留 直
 コロナ禍で世界中の子供たちが心に傷を負っているということです。その傷を少しでも癒したいという心が伝わってきます。ともかく、これからの世界が大変です。

麦藁帽また会えるから泣かないで  耕治
野島 正則
 母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷(うすい)から霧積(きりづみ)へゆくみちで、谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。  森村誠一の小説「人間の証明」は、映画化され、西条八十の「ぼくの帽子」が印象的でした。句の、また会えるから、のフレーズは、子供に諭しているようにも、麦稈帽子を仕舞って、帽子と会話をしているようにも感じました。

開店の幟を立てて梅雨に入る  耕治
桑本 栄太郎
 開店ののぼりを立てて梅雨に入る/耕治・・・コロナ禍の今の時代、開店とは威勢が好いですね?開店を行っても折からの梅雨入りに少し不安を覚えているようですが、「商売繁盛を!」とエールを送ります。

開店の幟を立てて梅雨に入る  耕治
野島 正則
 開店時ののぼり。普通ならば見やすいところに立てるのでしょうけど、梅雨入り。軒下など、置き場所も変わったのでしょうか。地元の和菓子屋さん。のぼりが出ていれば、まだお団子などがある。のぼりを仕舞うと売り切れ。こんな目印にもなっているようですね。



香天集5月23日 石井冴、谷川すみれ、安田中彦ほか

香天集5月23日 岡田耕治 選

石井冴
夕桜永遠には少し短くて
貝寄風の音はかすかな骨の声
母の日の白磁をすべるゆで卵
包丁を使わなくても春夕べ

谷川すみれ
悪意などないのだけれど羽抜鶏
天井のまだら模様に潜り込め
白菖蒲無口になって帰りけり
あたたかい息をしており未草

安田中彦
俗情も根性も嫌はうれん草
夏座敷大浪小浪見飽きたり
だんだんとスワンボートのつまらなく
帝国てふ坊主頭や飯饐る

加地弘子
ゆっくりと熟して与う親燕
包みほどく時より香る新茶かな
母が忘れ私が探す夜の新樹
夏場所の美しく座すワンピース

牧内登志雄
山百合の一際高し獣道
気動車のどどどどと消え青田風
風薫る鎌倉五山切通し
花はみな忙しく咲き夏は来ぬ

松田和子
ゆっくりと舌でころがす新茶かな
卯の花の匂いを秘めてひとつ星
飛魚の波北斎の波になり
鉄線花絵の具の藍をうすくして

古澤かおる
焼海苔を散らしレタスのサラダかな
祖父植えし桐に花咲き妹よ
キャンプの夜一口大に千切るナン
余花曇り三ツ星レストランに居て
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2021年5月19日水曜日

動画講義 金子敦句集『シーグラス』を読む

 金子敦さんの句集『シーグラス』を読む動画講義です。(19分)


金子敦句集『シーグラス』から
岡田耕治 抄出

2016年
抱き上げて子猫こんなに軽いとは
紙皿の縁のさざなみ山桜
少し流され少し戻りて蛇泳ぐ
風呂敷の結び目かたき西瓜かな
2017年
滑り台経由ぶらんこ行きの風
紙コップ微かに歪み水温む
夕焼や壁にボールの跡あまた
赤ん坊の涎の光る祭かな
雪の夜の絵本の角の円みかな
2018年
ニスの香の微かに残る巣箱かな
賛成も反対もせぬ海鼠かな
2019年
こけしの目は一本の線梅雨に入る
骨だけとなりし秋刀魚のまなこかな
冬日満つ校長室に優勝旗
2020年
クレヨンのぽくんと折れて目借時
長き夜の最終巻を開きけり
木も草も吾もゆつくり枯れはじむ

*動画講義では、2020年のクレヨンの句に
「俺」という文字が入っておりました。
削除して正しい句を掲載しています。
申し訳ありませんでした。 耕治

2021年5月16日日曜日

新茶  岡田耕治

独学のための炬燵を納めけり
恋ならば恋で受けよと夕牡丹
立夏わが本を出てくる五千円
衣替靴紐をまず赤くして
別別に買い物に出る新茶かな
一瞬の検温にして滴りぬ
ビール飲むほど渇けることのあり
すき間なく敷き詰めており夏布団
おはようの息にバナナの香りけり
木苺を噛んでとがらす唇よ


香天集5月16日 玉記玉、三好広一郎、中嶋飛鳥、木村博昭ほか

香天集5月16日 岡田耕治 選

玉記玉
滴の音か卵の心音か
パンプスは母のピアノのように夏
始まりも終わりも陽炎だなんて
愛されてどのブランコの下も水

三好広一郎
避難所のカギを預かるサングラス
英数の半角七文字天道虫
緑蔭や少女少年発酵す
遠泳の人は腐らず流される

中嶋飛鳥
滴りのエイトビートが腑を打てり
桐の花見おろす形許される
荷風の忌さあはじめようスクワット
牡丹の金色かなし夕つ方

木村博昭
亀鳴くや長き碑文を読みおれば
砲台址ひかり弾ける春の海
豆腐屋も酒屋もクレソンも水辺
大学に人影のなき新樹光

神谷曜子
声出さぬ応援つづく五月晴
老舗茶屋テレビカメラが梅雨を来る
青時雨みんなどこかにいなくなる
静かさに逃げ込んでいる青時雨

岡田ヨシ子
海と山見る緑蔭に椅子開く
花の名も人の名も消え燕来る
外出はワクチン接種だけの夏
ワクチンに肩の出る服選びけり
*岬町小島にて。

2021年5月12日水曜日

耕治俳句を読む(恋ならばの句、検温の句) 十河 智

恋ならば恋で受けよと夕牡丹  岡田耕治
 夕牡丹、恋の場面によく似合う。仕事帰りに誘ったのかな。誘った方の思いが、この句になったとも言えますね。成就したのでしょうか。
 ふと、別のことも考えに浮かびます。大学生の頃、初恋をしましたが、噂になって、怖気づきました。友達だから、それ以上ではないと自ら切ってしまったのです。これは夕牡丹に姿を借りた先生の若い二人へのアドバイス、励ましではないかとも思えます。こういうことを言ってくれる人は私の周りにはいなかったのです。(十河 智)

一瞬の検温にして滴りぬ  岡田耕治
 当季として初めてこの季語にあった。新鮮な夏を感じる。今はどこに行っても、まずあの簡易な検温器にさらされる。体温計としての精度は不明、データのばらつき具合もあまりよくは知らない。感染が始まった去年の今頃、学校の対策のために、品薄で探し回った。一瞬が、大人数の中から疑いのある人を弾き飛ばすのにはとても良いのだ。
 山中の戸外のイベント会場、または大学の構内へ入る第1関門であろうか。おでこを機械に向けるために背筋を伸ばす。目に入る山肌に滴りを見る。「滴りぬ」により、この句は安心感に包まれる。検温も大丈夫パスできたのだろう。(十河 智)



2021年5月11日火曜日

香天集5月9日 三好つや子、柴田亨、久堀博美、砂山恵子ほか

香天集5月9日 岡田耕治 選

三好つや子
中年の匂いがするよ天道虫
私の卵の記憶かいやぐら
樹木医になるはずだった蝸牛
友の忌日ポストに蝶の気配あり

柴田亨
受け入れることに間を置き竹の春
オルゴールあるはずのもの閉じておく
水切りの八分音符のこどもらよ
憲法の記念日の今静かなり

久堀博美
習いたきことを書き出し夏きざす
よく育つ隣の人の夏大根
採りたての胡瓜叩けば泣きにけり
初なつの風と光を空き部屋に

砂山恵子
寝ることを義務としており青葉木菟
泥付きし野菜を保ち木下闇
夏料理こころ緑に戻すため
割りばしを丁寧に割り葛桜

宮下揺子
春の月一人キャンプのメール打つ
拡大鏡めがねに重ね春の夜
たどたどしくもひこばえの自己主張
曲屋の泳げなかった鯉のぼり

櫻淵陽子
マグカップ赤青並べ春の朝
昭和の日祖母の厚焼き玉子とす
母の日の笑顔に笑顔返す母
ひっそりと気の向くままに百合の花
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

国語辞典  岡田耕治

水槽のじっと見ている桜鯛
善悪を離れていたり春満月
遠足の明日のリュック完成す
ゆすらうめ遅れて来たるパスワード
この時が残ると知らず藤あかり
春田打あとからあとから雀着く
行く春の国語辞典とともに古る


2021年5月8日土曜日

動画講義「俳句づくり事始め」

大阪教育大学の公開講座で話した内容を動画講義としてアップしました。小学生との俳句づくり、限界芸術論にはじまり、茂木健一郎さん、池谷裕二さんの知見を引用して、俳句づくりのヒントを語りました。よろしければ、次をごらんください。



2021年5月2日日曜日

香天集5月2日 森谷一成、渡邉美保、釜田きよ子、辻井こうめ他

香天集5月2日 岡田耕治 選


森谷一成

ぬきあしのシテの如くに水ぬるむ

直(ひた)土のよるべを花の色まさん

とぎめたて金物一式かぎろいぬ

かいやぐら向かい古舘工務店


渡邉美保

山藤の空気吸ひ込みさみしい日

国中が聞き耳立つる桜の夜

ほろほろと樹皮剥がれくる遅日かな

尻太き花蜂われを離れざる


釜田きよ子

啓蟄の虫歯一本抜かれけり

桜しべみんな正気に戻りけり

青空をより青くする桜かな

陽炎の芯で揺れいて視力表


辻井こうめ

改築のグループホーム燕来る

百年の楠の息蒔く春落葉

ひばり野や昔の笛を鳴らしたる

新聞の人事異動や飛花落花


前塚かいち

春の雨寝食だけの猫と居る

菜の花や転校生が島を離れ

チューリップ疫病神を笑っている

花冷の職員室にまだ明かり


浅海紀代子

朧夜の道は音なく眠りけり

身の内を透ってゆけり春の雨

突っ走る眼の左右麦青む

大男胸を濡らしてラムネ飲む


神谷曜子

虚ろなる時を継ぎ足し桜咲く

アルコール消毒に飽き紫木蓮

体内の安全地帯雁帰る

春昼のさびしき背中反らしけり


河野宗子

指切りをしたところなりさくら咲く

ゆっくりと海馬をゆるめ水温む

弟の納骨のすむ初音かな

西行と同じ忌日にして逝けり


牧内登志雄

たんぽぽの絮より生まる火星人

春筍の穗先取り分く厨かな

立つたまま眠つてゐるか修司の忌

海峽の汽笛を遠くしてははこ


松田和子

塩釜の中は「なになに」桜鯛

ホームから嘴の見え燕の巣

山桜気持ちが届く切手かな

雨粒をひとひらにのせ夕桜


桜淵陽子

約束の色は褪せない花吹雪

夜桜や五臓六腑の叫び声

野遊のマスクした子に尋ねけり

黙食中頬張っている桜餅


吉丸房江

ホーホケキョ吾に何やら物を言う

父母在らば今訪ねたき桜かな

竹の子の真直ぐにして曽孫生れ

想い出を広げていたりれんげそう



*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。