2016年5月16日月曜日

「声の言葉」 岡田耕治

「声の言葉」 岡田耕治

夏に入る声の言葉を短くし
木苺を食べたる瞳揃えけり
容体の落ち着いている桐の花
どこからも遠くなりゆく夏の山
鱚を釣る舟と舟とを寄せ合いて
できるだけゆっくり一杯目のビール
三味線の弾き手が変わり花うつぎ
酔うて歌う顔の集まる夏灯
初夏の骨を使って歩きけり
それほどは乱れておらず夏蒲団

2016年5月15日日曜日

香天集5月15日 久堀博美、永田文、中辻武男

香天集5月15日 岡田耕治 選

久堀博美
一杯のビールを前に回復す
薫風に誘われてより落ち着かず
はじめから太き支柱をトマト苗
人数より多めに作り柏餅

永田 文
イヤリング揺らし五月の風誘う
薇のほどかれてゆく日差かな
薫風や脱ぎたる上着腰に巻き
春風の中の訛や始発駅

中辻武男
光彩や土手のきりしま真盛り
松の芯老いたれど気を遣うこと
雨上る水すれすれに来る燕
高層のビルを襲いて雲の峰

2016年5月14日土曜日

若狭路のしぐれて晴れてしぐれけり 森岡正作

若狭路のしぐれて晴れてしぐれけり 森岡正作
「出航」61号。鈴木六林男師の俳句に「鰯雲この頃日本海を見ず」があります。それほどに、日本海を見たくなるときがあります。若狭路の観光は、夏が人気でしょうが、冬の気候の変わりやすい日本海を視ることは、精神の栄養になるにちがいありません。しぐれをたのしみ、晴れてきたことを喜び、またしぐれはじめた日本海を眺めて、森岡さんはどんなことをお考えなのでしょう。

2016年5月11日水曜日

花屑の轢かれ鴇色蘇る 花谷 清

花屑の轢かれ鴇色蘇る 花谷 清
「藍」5月号。鴇色(ときいろ)とは、トキの羽のような、わずかに灰色がかった淡紅色。地に降り積もった落花は、しだいに灰色を帯びて色褪せていきます。しかし、車輪に轢かれた花屑は、ふりしぼるように淡い色を蘇らせるのです。命を描くには、満開になった花よりも、花屑を描く方がよりリアルに感じられる時代です。しかもそれは、轢かれて押しつぶされることによって、色を取り戻そうとしているのです。命を描くことの醍醐味が感じられる一句です。

2016年5月10日火曜日

蟇の息づかひ間近にしてゐたり 茨木和生

蟇の息づかひ間近にしてゐたり 茨木和生
「運河」5月号。喉を上下させて、目をみはっている蟇(ひき)の息づかいが目の前に蘇ります。何度かこの光景を目にしているけれども、言葉にならなかったのです。それを茨木さんが美事に定着させてくれました。誰もが見なかった新鮮な景物を書いた俳句も魅力的ですが、多くの人が見ていて俳句にはしていないことをずばっと書いた俳句との出会いに、心が洗われます。作者はことのき、蟇の息づかいから、生きて在ることの尊さを教わっていたのかも知れません。

2016年5月9日月曜日

「立夏」 岡田耕治

「立夏」 岡田耕治

剥くことの合意に達し夏蜜柑
隈無く読む憲法記念日の新聞
矢車や今は男がいいと言う
粽結うなかなか寝つかなかったと
柏餅ゆっくりはがす音のして
光景を早送りして夏に入る
立夏わが陰毛強く湯に浮かぶ
夏の月もう一度湯に戻りけり
真上からシャッターを切り白牡丹
草笛や静かに怒るように吹き
夏草の深きところに倒れおり
思慮深い猫を持ち込む寝茣蓙かな

2016年5月8日日曜日

香天集5月8日 中村静子、今川靜香ほか

香天集5月8日 岡田耕治 選

中村静子
蜷の道雲真っ直ぐに流れゆく
移り香を折りたたみたる春日傘
足裏のほてりを冷ます干潟にて
生きている音の温もり種袋

今川靜香
どの窓も親し春の灯点るとき
春雨に葛城山は雲の中
日脚伸ぶ南改札口を出て
春の鳥水の色して水叩く

岡田ヨシ子
転勤の庭に残りてシクラメン
もの思う窓辺にそっと藤の花
鶯の谷間に強し鴉二羽
紺の帆をかけたる漁船春の雲