2018年9月21日金曜日

天窓に雨降りかかる冷し酒 岡田一美

天窓に雨降りかかる冷し酒 岡田一美
『記憶における沼とその他の在処』青磁社。昨日のような雨の日、天窓を見上げますと、後から後から雨粒が落ちて、ガラスを濡らしていきます。テーブルの上には、切子のグラスにお気に入りの冷酒が注がれています。しばらくは、あれこれ料理を頼まずに、この冷酒だけを愉しむことにします。乾したグラスにもう一度それを注ぎますと、グラスの底が天窓になって、そこへ天からの恵みが降り注いでくるようです。一美さん、至福のひとときをありがとうございます。

*大阪教育大学前駅へ。

2018年9月20日木曜日

三鬼忌の明けて朝なるバーにゐる 岡田一美


三鬼忌の明けて朝なるバーにゐる 岡田一美
 句集『記憶における沼とその他の在処』青磁社。かつて石田波郷が西東三鬼に人生の相談を持ちかけたとき、三鬼は「そんなことはどうでもいい。俳人は、俳句が全てだよ」と応えたと六林男師から聞いたことがあります。六林男師は、「今夜もいい俳句が書けるように、一所懸命飲もうかい」と、朝まで開いている店で杯を傾けました。そんなエピソードが浮かぶ一句です。忌日の句はよく見ますが、それが明けるという書き方は、初めてです。三鬼さんや六林男師のように、現世のことを隔てて、いい俳句を書くために飲み続け、朝なるバーにいる作者。俳句を書くための時間を最優先した成果が、この一巻に息づいています。
*岬町小島にて。

2018年9月19日水曜日

白きもの蟻に運ばれつつもがく 杉山久子

白きもの蟻に運ばれつつもがく 杉山久子
「俳句四季」10月号。「白きもの」と抽象的に表現されていますので、どんなものかを想像してみます。まず浮かんだのは、羽蟻のような白い羽根をもった虫、次に体の白いバッタ、そしてとうとう白装束まで。それらは、懸命な蟻たちによって運ばれていくのですが、運ばれながらこの事態をなんとかしようとジタバタしています。もちかすると、私のこの一生も、蟻たちの時間に運ばれながら、このようにもがきながら、やがて暗い巣の中に入っていく、その途上なのかもしれません。
*池田市天神保育園の積み木。

2018年9月18日火曜日

秋風を待っているのは弥次郎兵衛 森田智子

秋風を待っているのは弥次郎兵衛 森田智子
「俳句α」2018秋。弥次郎兵衛は、「東海道中膝栗毛」の中で喜多八とともに失敗やこっけいを演じながら旅をします。そのころの秋風は、どんなにか待ち遠しかったでしょう。もちろん、目の前にあるのは、短い棒に人形とかどんぐりをつけ、その両手を長くして端に重りとか同じどんぐりをつけ、中心の棒を支えるヤジロベエでしょう。秋風が少少強くても、釣り合いがとれて倒れないようです。きっとこの玩具も、弥次郎兵衛のように秋風を待ちわびていたにちがいありません。

*しきじ・にほんご天王寺の学習者の作品から。

2018年9月17日月曜日

「朝餉」12句 岡田耕治

朝餉  岡田耕治

新米や醤油でしめる目玉焼
焼鮭を割ってほおばる握り飯
山葡萄宿の朝餉に添えられて
一体の寝かされている案山子かな
ひと口の酒を差したる虫しぐれ
避難先決まりてよりの夜長し
ハードルを揺らさずに超え秋の空
釣竿にちょうどよい竹伐りにけり
途切れたる返答を待ち秋桜
ふかし藷食べたる子から寝ることに
更新のシャットダウンを月照らす
朝露や駅蕎麦をふと食べたくなる
*岬町小島にて。

2018年9月16日日曜日

香天集9月16日 加地弘子、前塚かいち、永田文、岡田ヨシ子

香天集9月16日 岡田耕治 選

加地弘子
ランタンの埃を吹けば野分来る
野分過ぎLED のライト買う
二百十日備長炭を靴箱に
又と無い花器よ紫式部生く

前塚かいち
鬼の子やそんな生徒はいなかった
蓑虫になってしまいぬ幼な友
長き夜の血糖管理赤バット
長き夜やレンブラントの絵の暗く

永田 文
姿なき山鳩の声今朝の秋
秋立つや野辺に現る伊予絣
古墳いま虫の浄土となりにけり
颱風一過悲しい程の青い空

岡田ヨシ子
客を待つフルーツ入りの心太
人に語る事なく生きて秋桜
秋の草刈り行きて早や九十歳
母生きた歳に近づき白芙蓉



*大阪府池田市内の公園にて。

2018年9月15日土曜日

ゆつくりと何も語らぬ夜長かな 亜仁子

ゆつくりと何も語らぬ夜長かな 亜仁子
 俳句大学。生きている以上、人はいくつもの役割を担っています。それぞれの役割を果たすためには、多くの人と話し、互いにに理解していく必要があります。ところが、何も話さなくてもいい、そんな夜が訪れました。何も話さなくても通じ合える人とおられるのでしょう。互いの時間を尊重しながら、しかも独りではない、そんなステキな夜長が始まりました。

*しきじ・にほんご天王寺の学習者さんの作品。