香天集1月20日 岡田耕治 選
中嶋 飛鳥
ここからは死角となりて大根干す
遠く来て胸に収まる年の鐘
冬菊の地へ傾きて地へ触れず
冬の霧胸に来てすぐ衰える
三好広一郎
元日やそろばんの一弾く音
新品の膝小僧みせ雑煮喰う
湯豆腐や白には白の重さあり
煮凝りや過去はあまねく真っ平
砂山恵子
何もかも揃ひたる家炬燵無し
冬の鹿ただ一点を見据えをり
一陣の風に影揺れ水仙花
竹馬やひとりひとりに空のあり
神谷曜子
平成が去る冬帽子の軽さで
入浴剤の泡のつぶやき冬至の夜
霜の夜宝石箱に仕舞いけり
尼寺の冬陽踏むことためらいぬ
橋本惠美子
冬に入る脂肪の厚さ測りいて
冬日向掃除機と猫充電す
ダ・ヴィンチの一ミリを観るマスクかな
皸が同じミスしてキーボード
加地弘子
登り来て被り直せり冬帽子
枯蟷螂きのうまで居た場所やさし
何かあったらなんて言うなよ冬の星
外に出て初蠅に合う穏やかさ
古澤かおる
お不動の急な階段淑気満つ
喰積や母は食卓拭いてばかり
宝船寄港しておりクレーター
人日の手首を使いフライパン
永田 文
元朝やいまだ拙き正信偈
灼な寒九の水や腑に沁みる
共に食ぶ妣にならいしなずな粥
鈍色の海ごとうねる能登の冬
中辻武男
筆初めの子ら眺めいて「亥の絵」
寒稽古曇天翔ける鴨の数
待っており成人の日の晴れ着姿
寄せ植の早梅今が盛りなり
*南海難波駅にて。
2019年1月20日日曜日
2019年1月16日水曜日
十二月八日いつもの理髪店 柴田 亨
十二月八日いつもの理髪店 柴田 亨
十二月八日、今日は開戦日だなと思いながら、いつもの理髪店の椅子に坐っている。ただそれだけのことしか書かれていないので、かえって様々な思いが往き来する。こうしてこの椅子に坐って散髪ができるのは、何時までだろう。社会は大きく早く変化しているのに、私(たち)の暮らしは、いつもと同じだが、これでいいのだろうか、と。本誌に、鈴木六林男生誕一〇〇年に相応しい書き手が登場したことを喜びたい。「香天」54号「香天集」より。
*写真は、昨日まであべのハルカスで行われていた「毎日現代書 関西代表作家展」で、書家の下阪大鬼さんがわたしの「春の海歩いて渡る人のあり」という句を作品として発表してくださいました。
十二月八日、今日は開戦日だなと思いながら、いつもの理髪店の椅子に坐っている。ただそれだけのことしか書かれていないので、かえって様々な思いが往き来する。こうしてこの椅子に坐って散髪ができるのは、何時までだろう。社会は大きく早く変化しているのに、私(たち)の暮らしは、いつもと同じだが、これでいいのだろうか、と。本誌に、鈴木六林男生誕一〇〇年に相応しい書き手が登場したことを喜びたい。「香天」54号「香天集」より。
*写真は、昨日まであべのハルカスで行われていた「毎日現代書 関西代表作家展」で、書家の下阪大鬼さんがわたしの「春の海歩いて渡る人のあり」という句を作品として発表してくださいました。
2019年1月14日月曜日
「寒の水」12句 岡田耕治
寒の水 岡田耕治
すべり台逆から登り寒に入る
アマゾンの初荷を破り国語辞典
出汁昆布音立てて割る寒の水
これは君これはぼくなる鏡餅
マスクして手の柔らかくなりにけり
ゆっくりと揺らしわが身の寒の水
卒論の期日近づく冬帽子
熱燗のやっと好みの熱さ来る
寒鯉や今に間に合うかも知れず
マフラーを立てかんばせを沈めけり
一日を望み布団を整える
寒餅の搗き上がりたる暗さかな
*和泉市、和泉府中駅にて。
2019年1月13日日曜日
香天集1月13日 三好つや子、安部礼子、中嶋紀代子
香天集1月13日 岡田耕治選
三好つや子
恵方道のスタートに着くぼんのくぼ
翼ある魚の出汁の雑煮かな
水鳥をハグするように水菜引く
裸木の銀河鉄道沿線図
安部礼子
尊厳か否安楽か雪女
雪女鏡のきみのうしろより
厚氷声のなき世が足元に
雪蛍最後に会いし人となる
中嶋紀代子(11月)
実南天愉しきことを数えけり
ばあちゃんの今が一番菊日和
山茶花や散りたる順に地に開き
山茶花の蜜に小鳥の姿なし
中嶋紀代子(12月)
十代に戻りたき日の藪柑子
牡蠣鍋の今食べ頃と促され
初寒波鳥の食堂再開す
狸汁昔話が子を泣かす
*龍谷大学大宮学舎にて。
三好つや子
恵方道のスタートに着くぼんのくぼ
翼ある魚の出汁の雑煮かな
水鳥をハグするように水菜引く
裸木の銀河鉄道沿線図
安部礼子
尊厳か否安楽か雪女
雪女鏡のきみのうしろより
厚氷声のなき世が足元に
雪蛍最後に会いし人となる
中嶋紀代子(11月)
実南天愉しきことを数えけり
ばあちゃんの今が一番菊日和
山茶花や散りたる順に地に開き
山茶花の蜜に小鳥の姿なし
中嶋紀代子(12月)
十代に戻りたき日の藪柑子
牡蠣鍋の今食べ頃と促され
初寒波鳥の食堂再開す
狸汁昔話が子を泣かす
*龍谷大学大宮学舎にて。
2019年1月7日月曜日
「初仕事」12句 岡田耕治
初仕事 岡田耕治
明暗を異にしてあり冬の海
アイシャドー年越蕎麦が包みたる
煮あがりし日高昆布を結びけり
去年今年タクシードライバーの窓
ブルーシートホワイトシート初日差す
一本のワインが透いて年立ちぬ
改めて声を交わせり福寿草
年賀状これを最後にすると来る
切り上げる橋と名のつく年の酒
順番に進むことなし貘枕
箱根駅伝幼きを膝に乗せ
初仕事シャーペンの芯長く出て
*京都にて。
2019年1月6日日曜日
香天集1月6日 玉記玉、渡邉美保、中村静子ほか
香天集1月6日 岡田耕治 選
玉記玉
裸木にうすむらさきのアダムとイヴ
枯野 こんなにもスクランブルエッグ
鷹のスローモーション私放心
黒猫の爪うつくしきクリスマス
渡邉美保
煩雑な手続きのあり冬木立
雑念を払ふため行く大枯野
マスクして目で逆らつてゐる少女
鉛筆の国からきたの雪蛍
中村静子
団欒の真ん中を占め牡丹鍋
メロンパン羽毛布団が陽を吸いて
読み返す本に残りて木の葉髪
裸木に表と裏のありにけり
釜田きよ子
大声でハレルヤ歌うポインセチア
葉牡丹の小さな渦を三つ買う
裸木や骨密度ならたっぷりある
珈琲は苦くて旨し冬木の芽
宮下揺子
烏瓜嘘を重ねて生きてきた
「考える人」の背中に冬日射す
ナビに無い道を走りてクリスマス
悼むとは思い続けること冬芽
羽畑貫治
妻の里に暮らしていたり冬の虹
太る根が鉢を食み出て日脚伸ぶ
左右から落ち合う川や波の花
平成の次に身構え冬の月
岡田ヨシ子
シャワーにて湯の中の柚子踊らせる
メモをしたことを忘れて大晦日
初日記五年日記をもう五年
日向ぼこシルバーカーの集まりて
*京都にて。
玉記玉
裸木にうすむらさきのアダムとイヴ
枯野 こんなにもスクランブルエッグ
鷹のスローモーション私放心
黒猫の爪うつくしきクリスマス
渡邉美保
煩雑な手続きのあり冬木立
雑念を払ふため行く大枯野
マスクして目で逆らつてゐる少女
鉛筆の国からきたの雪蛍
中村静子
団欒の真ん中を占め牡丹鍋
メロンパン羽毛布団が陽を吸いて
読み返す本に残りて木の葉髪
裸木に表と裏のありにけり
釜田きよ子
大声でハレルヤ歌うポインセチア
葉牡丹の小さな渦を三つ買う
裸木や骨密度ならたっぷりある
珈琲は苦くて旨し冬木の芽
宮下揺子
烏瓜嘘を重ねて生きてきた
「考える人」の背中に冬日射す
ナビに無い道を走りてクリスマス
悼むとは思い続けること冬芽
羽畑貫治
妻の里に暮らしていたり冬の虹
太る根が鉢を食み出て日脚伸ぶ
左右から落ち合う川や波の花
平成の次に身構え冬の月
岡田ヨシ子
シャワーにて湯の中の柚子踊らせる
メモをしたことを忘れて大晦日
初日記五年日記をもう五年
日向ぼこシルバーカーの集まりて
*京都にて。
2019年1月5日土曜日
海鳴りや布団の中にある昔 渡邉美保
海鳴りや布団の中にある昔 渡邉美保
句集『櫛買ひに』俳句アトラス。今日一日を許される場所、それが布団であるなら、この人生を許される場所も布団なのかも知れない。布団の中には無為があり、さまよいがあり、はるかな記憶がある。布団の中に入っても、入らなくともそれを視ているだけでも、そこに「昔」を感受することができる。「昔」は、不確かになり、消えかかろうとするけれども、「海鳴り」がそれを練り直してくれるようだ。渡邉美保さんの第一句集を、この年始からさわやかに繙いている。第一句集に序文はつきものだが、ふけとしこさんの序文は、渡邉美保という作家をこの世に送り出そうとする温かみと確かさに満ちている。改めて、序文というものの良さを感じ、自然に渡邉美保の世界に入ってゆける。この序文があったからこそ美保さんの「海鳴り」を感じることができた。
*渡邉美保句集『櫛買ひに』の序文を担当。
句集『櫛買ひに』俳句アトラス。今日一日を許される場所、それが布団であるなら、この人生を許される場所も布団なのかも知れない。布団の中には無為があり、さまよいがあり、はるかな記憶がある。布団の中に入っても、入らなくともそれを視ているだけでも、そこに「昔」を感受することができる。「昔」は、不確かになり、消えかかろうとするけれども、「海鳴り」がそれを練り直してくれるようだ。渡邉美保さんの第一句集を、この年始からさわやかに繙いている。第一句集に序文はつきものだが、ふけとしこさんの序文は、渡邉美保という作家をこの世に送り出そうとする温かみと確かさに満ちている。改めて、序文というものの良さを感じ、自然に渡邉美保の世界に入ってゆける。この序文があったからこそ美保さんの「海鳴り」を感じることができた。
*渡邉美保句集『櫛買ひに』の序文を担当。
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