朝寝して鳥のことばが少しわかる 黄土眠兎
句集『御意』邑書林。学校に勤めていますと、四月はとても眠い月です。しなければならないことがたくさんあるのに、つい寝坊してしまいます。普通なら、これはいけないと飛び起きるのですが、眠兎さんは「鳥のことばが少しわかる」ようになった、と。どのようなことも、こうして受け止めることができる、そんな明るさをさずかりました。句集を読みすすめますと、なんだか懐かしい香りがしますが、なんと活版印刷で仕上がっていたのです。限定500部の一冊一冊に番号が振られているのも、紙の本の良さを愉しめる仕掛けです。快心の一巻、御出版おめでとうございます。
*京阪線「土居」駅にて。
2018年1月31日水曜日
2018年1月30日火曜日
「寒の空」15句 岡田耕治
寒の空 岡田耕治
寒牡丹笑みを広げているところ
生姜湯や今日のことから忘れゆき
倒れたる人には見えて寒の空
今何が起きているのか寒鴉
目を丸くして寒紅を直しけり
外套や自分を強く抱きしめて
鍋焼のラーメンにある目玉かな
目元だけ化粧をしたと言うマスク
マフラーの首を大きく回しけり
逸らしては視線を戻す枯蓮
全景を目の中に入れ枯蓮
なだらかにホットワインの眠くなる
伸びをして懐炉の位置を確かにす
雪を来る鞄同士をぶつけ合い
日脚伸ぶ遠近両用眼鏡にて
*上六句会のホテルアウィーナ大阪にて。
2018年1月28日日曜日
香天集1月28日 谷川すみれ、三好広一郎、玉記玉ほか
香天集1月28日 岡田耕治 選
谷川すみれ
深海の魚を目がけて雪解川
紅梅や指の先よりはじまりぬ
坐らねば他人にもどる桜餅
びっしりと桜蘂降る酸素減る
三好広一郎
マスクして顔のない忘れない顔
このおでん串がないねお家だから
人格はすべて眼に出て雪達磨
ふところに音楽のない聖夜かな
玉記 玉
寒昴一秒前はもう昔
水寒く石が育っていくことも
軽トラで来る初空とガスボンベ
寒紅かとも年輪の一条の
森谷一成
百円玉を珈琲に換え大旦
犬の仔に牽かれて淀の初景色
利潤率傾向的低下法則去年今年
子のほうが父よりも老い年の酒
橋爪隆子
心持ち素顔のままの初鏡
道頓堀にはみだすアジア二日はや
一月の我が運勢を立って読む
落葉散る水面を破り鯉の口
釜田きよ子
着ぶくれて反骨の胸失いぬ
幼子はななめに走り風花す
寒卵途方に暮れてしまいけり
眠るより考えること寒の鯉
北川柊斗
白濁の京の歴史や雑煮食ふ
幽界へ誘わるるゆめ林檎落つ
風花す平安神宮大鳥居
春隣バター溶けだすホットケーキ
木村博昭
秒針が分針を越え去年今年
天守より高きに脚を梯子乗
白鷺の白を極むる冬の川
樹には樹の温みのありて寒雀
坂原 梢
喜寿迎う男のための新日記
寄せ鍋の個性あふれるトークにて
年の市戸惑い笑うアジアかな
マラソンがひきずっていく叫び声
永田 文
どこまでが畑と思う初景色
外灯の光に舞うやぼたん雪
寒月をとらえ大樹の蔭すけり
座敷いま寒餅干すためにある
坂原 梢
リモコンが風呂を知らせて大旦
おみくじの凶を結びて雪の枝
寒餅や昭和の匂いしてきたる
入港のフェリーとともに初燕
越智小泉
雲流るままに輝き大旦
籾殻に埋まりおりぬ寒卵
波の上波が走れる鰤起し
冬薔薇見る人のまだ現れず
西嶋豊子
木枯に手押車のままならず
寒鯉や皆動かない時のくる
冬の月考えること半分に
年賀状一枚猫によみきかす
*岬町立岬中学校にて。
谷川すみれ
深海の魚を目がけて雪解川
紅梅や指の先よりはじまりぬ
坐らねば他人にもどる桜餅
びっしりと桜蘂降る酸素減る
三好広一郎
マスクして顔のない忘れない顔
このおでん串がないねお家だから
人格はすべて眼に出て雪達磨
ふところに音楽のない聖夜かな
玉記 玉
寒昴一秒前はもう昔
水寒く石が育っていくことも
軽トラで来る初空とガスボンベ
寒紅かとも年輪の一条の
森谷一成
百円玉を珈琲に換え大旦
犬の仔に牽かれて淀の初景色
利潤率傾向的低下法則去年今年
子のほうが父よりも老い年の酒
橋爪隆子
心持ち素顔のままの初鏡
道頓堀にはみだすアジア二日はや
一月の我が運勢を立って読む
落葉散る水面を破り鯉の口
釜田きよ子
着ぶくれて反骨の胸失いぬ
幼子はななめに走り風花す
寒卵途方に暮れてしまいけり
眠るより考えること寒の鯉
北川柊斗
白濁の京の歴史や雑煮食ふ
幽界へ誘わるるゆめ林檎落つ
風花す平安神宮大鳥居
春隣バター溶けだすホットケーキ
木村博昭
秒針が分針を越え去年今年
天守より高きに脚を梯子乗
白鷺の白を極むる冬の川
樹には樹の温みのありて寒雀
坂原 梢
喜寿迎う男のための新日記
寄せ鍋の個性あふれるトークにて
年の市戸惑い笑うアジアかな
マラソンがひきずっていく叫び声
永田 文
どこまでが畑と思う初景色
外灯の光に舞うやぼたん雪
寒月をとらえ大樹の蔭すけり
座敷いま寒餅干すためにある
坂原 梢
リモコンが風呂を知らせて大旦
おみくじの凶を結びて雪の枝
寒餅や昭和の匂いしてきたる
入港のフェリーとともに初燕
越智小泉
雲流るままに輝き大旦
籾殻に埋まりおりぬ寒卵
波の上波が走れる鰤起し
冬薔薇見る人のまだ現れず
西嶋豊子
木枯に手押車のままならず
寒鯉や皆動かない時のくる
冬の月考えること半分に
年賀状一枚猫によみきかす
*岬町立岬中学校にて。
2018年1月27日土曜日
両眼が違うもの見る昼寝覚 野口 裕
両眼が違うもの見る昼寝覚 野口 裕
句集『のほほんと』まろうど社。「右の眼に大河左の眼に騎兵」と書いたのは西東三鬼です。裕さんの右の眼と左の眼には、それぞれどんなものが映っているのでしょうか。三鬼は明視するために左右の眼に違うものを入れました。この句は、昼寝から覚めていく途中に違うものが眼に入っていて、それが何だかは書いていません。それを想像するより前に、違うものをそれぞれ捉えているアンバランスが気にかかります。裕さんはこのアンバランスを、「のほほんと」愉しんでいるのかも知れません。御出版、おめでとうございます。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
句集『のほほんと』まろうど社。「右の眼に大河左の眼に騎兵」と書いたのは西東三鬼です。裕さんの右の眼と左の眼には、それぞれどんなものが映っているのでしょうか。三鬼は明視するために左右の眼に違うものを入れました。この句は、昼寝から覚めていく途中に違うものが眼に入っていて、それが何だかは書いていません。それを想像するより前に、違うものをそれぞれ捉えているアンバランスが気にかかります。裕さんはこのアンバランスを、「のほほんと」愉しんでいるのかも知れません。御出版、おめでとうございます。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
2018年1月25日木曜日
雑煮椀いつも問われし餅の数 久保純夫
雑煮椀いつも問われし餅の数 久保純夫
「儒艮」二三号。三世代が同居して、十人が同じ屋根の下で暮らし、母親からよく「餅いくつ食べる」と聞かれました。大きくなってからは、私がみんなの餅の数を訊いて回りました。餅が何よりのごちそうだった時代、正月が来る度にそれぞれが食べる餅の数を訊いていきますと、その数から一人一人の状態が感じられるようでした。ちょっと大ぶりの、雑煮椀を前にして、昭和の三〇年代以降の暮らしが甦ったのです。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
「儒艮」二三号。三世代が同居して、十人が同じ屋根の下で暮らし、母親からよく「餅いくつ食べる」と聞かれました。大きくなってからは、私がみんなの餅の数を訊いて回りました。餅が何よりのごちそうだった時代、正月が来る度にそれぞれが食べる餅の数を訊いていきますと、その数から一人一人の状態が感じられるようでした。ちょっと大ぶりの、雑煮椀を前にして、昭和の三〇年代以降の暮らしが甦ったのです。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
2018年1月23日火曜日
貘枕夢みて夢を忘れけり 柿本多映
貘枕夢みて夢を忘れけり 柿本多映
「俳句」一月号。ウィキペディアには、〈悪夢を見た後に「(この夢を)獏にあげます」と唱えるとその悪夢を二度と見ずにすむという。〉とあります。悪夢を見ることがないようにと、貘の絵を枕に敷いて寝る風習もあります。しかし、夢を見たけれども、その夢を忘れてしまったときは、どうすればいいのでしょう。鮮明に残る夢と、目覚めと共に消えて終う夢。もしかすると、私たちの人生も、何も残らない夢のようなものかもしれないと、自らを問い続ける作家・柿本多映さんの声が聞こえてきました。
*岬町立岬中学校のビューティフル・トイレ。
「俳句」一月号。ウィキペディアには、〈悪夢を見た後に「(この夢を)獏にあげます」と唱えるとその悪夢を二度と見ずにすむという。〉とあります。悪夢を見ることがないようにと、貘の絵を枕に敷いて寝る風習もあります。しかし、夢を見たけれども、その夢を忘れてしまったときは、どうすればいいのでしょう。鮮明に残る夢と、目覚めと共に消えて終う夢。もしかすると、私たちの人生も、何も残らない夢のようなものかもしれないと、自らを問い続ける作家・柿本多映さんの声が聞こえてきました。
*岬町立岬中学校のビューティフル・トイレ。
2018年1月22日月曜日
「寒月光」15句 岡田耕治
寒月光 岡田耕治
冬帽子はじめに強く被りけり
イメージを先に育てて年の餅
冬帽子はじめに強く被りけり
イメージを先に育てて年の餅
初稽古ホワイトボードから始まる
大盛のラーメンを干し寒に入る
体重を減らす途上の小豆粥
鯛焼や研究室を訪ね来る
学校に長く留まり雪うさぎ
思い出の銀杏落葉をくだきけり
寒月光もう少し待つことにしよう
記念日となるテーブルの冬薔薇
食べ終わるまでは共共鰤大根
外套の背中におんぶされており
臘梅や人の名前が出て来ない
火を止めてからはゆっくりちゃんこ鍋
2018年1月21日日曜日
香天集1月21日 石井冴、中嶋飛鳥、中辻武男
香天集1月21日 岡田耕治 選
石井 冴
ふくろうや母の頭を撫でてやる
冬ごもりならば真ん中に木の机
隠れ家のようで全員マスクして
白鳥の中に猥雑入り混じる
中嶋 飛鳥
茶の花や熱帯びてくる語り口
あやとりの梯子を揺らし告白す
重石とす黒手袋の右を脱ぎ
アイーダが着膨れの胸叩きけり
中辻武男
門よりは手先をあずけ寒の月
海光を満たす蜜柑に微笑みぬ
今朝からの雲の通い路雪の花
早梅の香りを帯びて妻の声
*大阪市扇町の居酒屋にて。
石井 冴
ふくろうや母の頭を撫でてやる
冬ごもりならば真ん中に木の机
隠れ家のようで全員マスクして
白鳥の中に猥雑入り混じる
中嶋 飛鳥
茶の花や熱帯びてくる語り口
あやとりの梯子を揺らし告白す
重石とす黒手袋の右を脱ぎ
アイーダが着膨れの胸叩きけり
中辻武男
門よりは手先をあずけ寒の月
海光を満たす蜜柑に微笑みぬ
今朝からの雲の通い路雪の花
早梅の香りを帯びて妻の声
*大阪市扇町の居酒屋にて。
2018年1月17日水曜日
幼木にして一本の紅葉す 鈴木六林男
幼木にして一本の紅葉す 鈴木六林男
「香天」は、今年10周年を迎えます。写真の皿は、記念に六林男師の自宅に伺って撮影させていただきました。十周年といいますと、俳句誌の中ではまだ「幼木」の内に入るのではないでしょうか。「幼木」には、希望と、それ故の不安が綯い交ぜになっています。しかも、「一本」ですから、他の木とは離れているようです。それが、どの木よりも早く赤赤と紅葉しているのです。昨年、柿衞文庫で「鈴木六林男人と作品」というお話をさせていただいたとき、鈴木六林男年表を作成しました。八五歳の生涯で師が戦場にあったのは二年余りです。しかし、年表を少しずつずらしていくと、二四歳の生涯にして、二年余りの強烈な体験が刻まれたことになります。まさに「幼木にして」。
「香天」は、今年10周年を迎えます。写真の皿は、記念に六林男師の自宅に伺って撮影させていただきました。十周年といいますと、俳句誌の中ではまだ「幼木」の内に入るのではないでしょうか。「幼木」には、希望と、それ故の不安が綯い交ぜになっています。しかも、「一本」ですから、他の木とは離れているようです。それが、どの木よりも早く赤赤と紅葉しているのです。昨年、柿衞文庫で「鈴木六林男人と作品」というお話をさせていただいたとき、鈴木六林男年表を作成しました。八五歳の生涯で師が戦場にあったのは二年余りです。しかし、年表を少しずつずらしていくと、二四歳の生涯にして、二年余りの強烈な体験が刻まれたことになります。まさに「幼木にして」。
2018年1月16日火曜日
「ストーブ」17句 岡田耕治
ストーブ 岡田耕治
高知八句
後ろから見て冬晴の龍馬像
嫁が君隠されている階のあり
脱藩の道に出ており若菜摘
ストーブと女が点り朝の市
土佐文旦一気に袋ふくらみぬ
ドロメ食う口の方から近づいて
雲の上のまちに降り立ち鳥総松
初旅や終末をみな黙りたる
*
祝箸何度も落とす軽さにて
仕事始プラットホームの定位置に
思うほど時間のかかる初荷かな
玄関や「雪」という声上りたる
耳たぶを赤くしている波の花
約束の刻より早く着く寒暮
ストーブやここだけのこと話し出す
福笹を掲げて笑みを隠しけり
心拍を速くしている氷柱かな
*高知県梼原町にて、現代の龍馬さんとともに。
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