2016年9月7日水曜日

昼寝覚早や夕食の匂いくる 竹村 都

昼寝覚早や夕食の匂いくる 竹村 都

 香天集9月4日。少し遅めの昼寝から覚めると、もう隣り近所から夕食の用意の匂いがしてきました。私の在所では、だんだん夕食を取るのが早くなってきました。高齢化の影響もありますが、早めに夕食を取ると、その分夜の時間をたっぷり使えるような気がするからです。東京大学の池谷裕二さんによると、アイデアを生み出す王道は、①課題に直面する、②課題を放置することを決断する、③休止期間を置く、④解決策をふと思い出す、です。これにならいますと、①俳句を取りあえず作る、②しばらくその俳句から離れる、③もう一度見直すことによって、ふといい俳句に修正できる、となるでしょうか。今夜も、まず①の俳句を取りあえず作るため、早めの夕食を取るとしますか。
*駅から大阪教育大柏原キャンパスを見上げました。

2016年9月6日火曜日

昼寝覚机の裏がよく見えて 石井 冴

昼寝覚机の裏がよく見えて 石井 冴

 昼寝から覚めますと、机の裏が見えています。ベッドや畳ではなく、フロアに眠っていたようです。眠りから覚めていくときの、けだるいけれども気持ちが澄んでいく、その瞬間を著すのに、「机の裏」は絶妙ですね。今からあれとこれをしないといけないと思い巡らしているのは、机=意識よりもむしろ机の裏=無意識の方にちがいありません。
*時々行く珈琲店の棚のカップです。

2016年9月5日月曜日

「二学期」15句 岡田耕治

「二学期」 岡田耕治

腕時計嵌めずに秋を歩きけり
花野より身を起こしたる眩暈かな
盃や月を容れたるままめぐり
月明り見えなくなるを視ていたる
自由都市堺の水を月渡る
声を出し涙を流す休暇明
二学期のええやんあんたそのままで
滑らかなものに囲まれ飛蝗飛ぶ
靴跡の乱れてきたる秋の浜
いぼむしり時々死んだふりをする
テーブルを整えており秋の空
秋の空ロッカーに荷を預けたる
台風を通り越したる湯舟かな
長き夜のオモニハルモニ歌い出す
よく眠ることの続きて秋の蝶
*大阪教育大柏原キャンパスへ昇るエレベーターのドームと青空。

2016年9月4日日曜日

香天集9月4日 石井冴、竹村都、越智小泉ほか

香天集9月4日 岡田耕治 選

石井 冴
蝸牛つまめば時を抗いぬ
昼寝覚机の裏がよく見えて
体から頭が外れ夏休
数珠玉の漢字覚える速さかな

竹村 都
補聴器の蝉の声だけよく拾う
昼寝覚早や夕食の匂いくる
大き蛇見たと両の手広げ来る
谷水を堰止めている夏野菜

越智小泉
打水に老舗の風の生れけり
寝返るも寝返るも夜の長きかな
息かけて目鏡拭きおり広島忌
鉄棒に残るぬくもり盆踊

橋本惠美子
捩花の風と遊びて乱れけり
靴墨をたっぷりと塗り雲の峰
遠花火昇る二階の高さまで
風鈴や小さきものを招き入れ

坂原 梢
失敗のあと成功の野紺菊
盆おどり仮装行列登場す
炎天下見渡す限り要支援
一筆の黒絵としたり雲の峰

冨永道子
父の日の父嬲りたる墨絵帳
そこだけは光弾けるスベリヒユ
万歩計鼓動に重ね夏の朝
目薬の一滴暑気を吹き飛ばす

浅海紀代子
水打って今日の商い仕舞いけり
駅舎出て青田の風の故郷かな
盆明けや元に戻りし皿の数
月今宵古墳の丘の目覚めたる

森谷一成
児の脛に疵なし津島佑子逝く
熔けながら遺品となりき原爆忌
広島の午前過ぎゆく何を食わん
あやまちはくりかえすもの雲の峰

浅野千代
八月の蒼に浸してしまいけり
野分過ぎ野分の如き心かな
秋暑し絵葉書にある海と犬
みんみんと入っておりし同じ蔭

羽畑貫治
手術前三途の川の水澄めり
廃校の庭ありて蛇穴に入る
遠くから子らの声して秋時雨
後遺症の足浮かして通草食う

坂原 梢
現役を続行すると七夕竹
ひまわりの迷路にはしゃぐ声のあり
金魚鉢子どもの声に躍りけり
後とも前とも見える夏帽子

岡田ヨシ子
葉桜や海に向けたる椅子二つ
青蔦を切りて景色の変わりけり
アスファルトの熱に近づくバス降りて
バラン株生い茂りたる風涼し
*大阪教育大天王寺キャンパスの芝も秋に。

2016年9月3日土曜日

「九」といふ数字は無限夜の秋 大牧 広

「九」といふ数字は無限夜の秋 大牧 広
「港」9月号。前書きに〈第九句集『地平』上〉とあります。9は、4と並んであまり好まれる数字ではありませんが、9は極みの陽数で、9月9日は5節句の中でも、殊更「重陽」と呼ばれる目出度い日です。9が多数を表すということは知っていましたが、それを「無限」と表現されていることに注目しました。大牧さんがこれまで著された一冊一冊の句集は、先人につらなるものです。この句業を基盤として、更に多くの人がいい俳句を書いていってもらいたい、そのような願いが「無限」という一語の中に込められているように感じます。日中の暑さも夜になると引いてくる、そんな静かな秋へのプロムナードに相応しい一句です。
*無花果の木を通して、秋の空を撮りました。

2016年9月2日金曜日

夏空を沈めて水位さがりけり 藤川美佐子

夏空を沈めて水位さがりけり 藤川美佐子
 香天集8月28日。夏、よく湖や池の水位が下がります。旱続きで飲み水や田んぼの水も不足しがちなこの状態は、あまり歓迎されません。ところが、水嵩の減ったその水に夏空がくっきりと映っています。私たち人間は水位の上下に汲汲としていますが、美佐子さんが捉えた自然は大きく、静かでさえあります。この句は、「香天」大阪句会で全員が取って話題になりました。
*北琵琶湖から琵琶湖を向いたショット。水位はたっぷりでした。

2016年9月1日木曜日

蓮池のいのち混み合う濁りかな 大城戸ハルミ

蓮池のいのち混み合う濁りかな 大城戸ハルミ
「俳句界」9月号。そう言われると、澄んでいる蓮池を思い浮かべることができません。蓮が一面に広がって、水面が見えなくなっているからでしょうか。開いた蓮の花に注目するので、水の透明感まで見ていることが少ないからでしょうか。大城戸さんは、あえてその水に注目し、「いのち混み合う濁り」というこの上ない表現にたどり着きました。水の濁りをこれほどまでに鮮明に捉えることのできる作者の、内面の静かさを想います。
*6月に出かけた高知市高知城の蓮池です。