桐の花 岡田耕治
チョコレート柔らかく折れ夏兆す
人波を縫う自転車の夏来たる
ふけとしこさんへ
夏の手帳カバーにペンを眠らせる
はじけゆく泡遅くなるソーダ水
ネクタイをしなくともよく風薫る
一筋の夏草匂うユニフォーム
夕焼の車を停めて凭れたる
冷し酒魔法瓶へと移りけり
消え残るように始まり桐の花
油虫最後の距離を止まりけり
裏側のことに吹かれし若葉かな
夏の月二つのままにしていたる
*岬町小島にて。
2017年5月15日月曜日
2017年5月14日日曜日
香天集5月14日 石井冴、久堀博美、中村静子ほか
香天集5月14日 岡田耕治 選
石井 冴
空腹の最も奥に蕨立つ
偶然の二回重なる桜鯛
永き日のことばを増やす車輪かな
いろいろな車輪が廻る夕桜
久堀博美
酒よりもあんパンにする春の宵
癒し湯に浮かぶ私の春の宵
リハビリの先生の鼻汗光る
寝たままの腰痛体操燕来る
中村静子
足形を砂に沈めて桜貝
布切れの匂いはじめる巣箱かな
白魚の喉通りゆく刹那にて
石段の人影として陽炎えり
砂山恵子
切り立ての髪をゆすりて草笛に
銀髪と茶髪とそろひ髪洗ふ
充分に沈みたる後浮いてこい
初夏のワインに透けて緑の葉
立花カズ子
花の下米寿卒寿が来ていたる
水面に近き一枝の残花かな
近木川の流れゆっくり風薫る
葉桜や琵琶湖支流へ風とゆく
中辻武男
川風を走る五百の鯉のぼり
沿道のつつじに目覚む人の声
白牡丹色冴え渡る夕べかな
擡げたる枇杷の実屁う紙袋
岡田ヨシ子
語らいはほらあれそれとシクラメン
紫陽花の雨を含みて光りけり
物忘れ近づいてくる夏の雲
美しき睫毛のままに友逝けり
*大阪教育大学柏原キャンパスの雨。
石井 冴
空腹の最も奥に蕨立つ
偶然の二回重なる桜鯛
永き日のことばを増やす車輪かな
いろいろな車輪が廻る夕桜
久堀博美
酒よりもあんパンにする春の宵
癒し湯に浮かぶ私の春の宵
リハビリの先生の鼻汗光る
寝たままの腰痛体操燕来る
中村静子
足形を砂に沈めて桜貝
布切れの匂いはじめる巣箱かな
白魚の喉通りゆく刹那にて
石段の人影として陽炎えり
砂山恵子
切り立ての髪をゆすりて草笛に
銀髪と茶髪とそろひ髪洗ふ
充分に沈みたる後浮いてこい
初夏のワインに透けて緑の葉
立花カズ子
花の下米寿卒寿が来ていたる
水面に近き一枝の残花かな
近木川の流れゆっくり風薫る
葉桜や琵琶湖支流へ風とゆく
中辻武男
川風を走る五百の鯉のぼり
沿道のつつじに目覚む人の声
白牡丹色冴え渡る夕べかな
擡げたる枇杷の実屁う紙袋
岡田ヨシ子
語らいはほらあれそれとシクラメン
紫陽花の雨を含みて光りけり
物忘れ近づいてくる夏の雲
美しき睫毛のままに友逝けり
*大阪教育大学柏原キャンパスの雨。
2017年5月13日土曜日
頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋
頭の中で白い夏野となつてゐる 高屋窓秋
筑紫磐井『季語は生きている』(2017.4)より。本格的な季語についての論考を集成した一巻が誕生しました。この句については、次のように述べられています。〈新興俳句の金字塔であるばかりでなく、馬酔木らしい新鮮な自然の季感としても享受しなければならないであろう。戦後の社会性俳句は、その多くの作家が季語を否定したにもかかわらず、今日一読者として読むとき、なまなかな有季作家の作品より強烈な季節感をその句に匂わせている。〉
私がこの句に初めて触れたとき、「どうしたらこんな俳句が書けるのだろう」と思いました。紋切り型になろうとする思考をどう破っていくか、そんなチャレンジ精神がなければ、こんな句は生まれないでしょう。同書では、芭蕉の「古池や蛙飛び込む水のをと」も「本意の伝統を破壊する試み」だと捉えておられます。磐井さん、御出版、おめでとうございます。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
筑紫磐井『季語は生きている』(2017.4)より。本格的な季語についての論考を集成した一巻が誕生しました。この句については、次のように述べられています。〈新興俳句の金字塔であるばかりでなく、馬酔木らしい新鮮な自然の季感としても享受しなければならないであろう。戦後の社会性俳句は、その多くの作家が季語を否定したにもかかわらず、今日一読者として読むとき、なまなかな有季作家の作品より強烈な季節感をその句に匂わせている。〉
私がこの句に初めて触れたとき、「どうしたらこんな俳句が書けるのだろう」と思いました。紋切り型になろうとする思考をどう破っていくか、そんなチャレンジ精神がなければ、こんな句は生まれないでしょう。同書では、芭蕉の「古池や蛙飛び込む水のをと」も「本意の伝統を破壊する試み」だと捉えておられます。磐井さん、御出版、おめでとうございます。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
2017年5月12日金曜日
春の雲欠食児童どう仰ぐ 大牧 広
春の雲欠食児童どう仰ぐ 大牧 広
「港」5月号。連休明けの授業で、「ゴールデンウィークにどんな楽しいことがあった?」と訊くのは、禁句にしようという話をしました。堺市で子どもの貧困についての調査が発表されましたが、調査世帯の平均年収の半分の117万円以下の世帯が、15.8%。1クラス38人とすると、6人がこの中に入ります。ゴールデンウィークに旅行に連れて行ってもらう子もあれば、ずっと家にいて、家族の喧嘩を見ながら過ごした子もいます。早く学校が始まって欲しいと思っていた子もいるでしょう。だから、連休明けは「プレゼント・ゲーム」をしようと、お互いにいいものを空想してプレゼントし合うゲームをたのしみました。
私たち教員には、昨日晩ご飯を食べることのできなかった子が、この春の雲をどう見ているのだろうと思いを馳せる力がどうしても必要です。大牧広さんの近著『俳句・その地平』には、自宅近くの昼休みに同僚とレストランに出かける人もあれば、ベンチや柱の台石などで自宅から持ってきたおにぎりを一人で食べている人もいると描写。その上で、次のように結んでいます。〈できあがった「正規社員」よりも可能性が残されている「非正規社員」の方が青空を自由に仰ぐことができる。〉そうなんです。晩ご飯を食べることのできなかった子に思いを馳せて、しかもその子といっしょに春の雲をたのしむ力が必要なのです。大牧広さん、『俳句・その地平』の御出版、おめでとうございます。
*授業のあと、このように板書を撮影しておきます。プレゼントゲームは、右下の模造紙です。5月7日「ジェンダーとセクシュアリティ」の授業記録。
「港」5月号。連休明けの授業で、「ゴールデンウィークにどんな楽しいことがあった?」と訊くのは、禁句にしようという話をしました。堺市で子どもの貧困についての調査が発表されましたが、調査世帯の平均年収の半分の117万円以下の世帯が、15.8%。1クラス38人とすると、6人がこの中に入ります。ゴールデンウィークに旅行に連れて行ってもらう子もあれば、ずっと家にいて、家族の喧嘩を見ながら過ごした子もいます。早く学校が始まって欲しいと思っていた子もいるでしょう。だから、連休明けは「プレゼント・ゲーム」をしようと、お互いにいいものを空想してプレゼントし合うゲームをたのしみました。
私たち教員には、昨日晩ご飯を食べることのできなかった子が、この春の雲をどう見ているのだろうと思いを馳せる力がどうしても必要です。大牧広さんの近著『俳句・その地平』には、自宅近くの昼休みに同僚とレストランに出かける人もあれば、ベンチや柱の台石などで自宅から持ってきたおにぎりを一人で食べている人もいると描写。その上で、次のように結んでいます。〈できあがった「正規社員」よりも可能性が残されている「非正規社員」の方が青空を自由に仰ぐことができる。〉そうなんです。晩ご飯を食べることのできなかった子に思いを馳せて、しかもその子といっしょに春の雲をたのしむ力が必要なのです。大牧広さん、『俳句・その地平』の御出版、おめでとうございます。
*授業のあと、このように板書を撮影しておきます。プレゼントゲームは、右下の模造紙です。5月7日「ジェンダーとセクシュアリティ」の授業記録。
2017年5月10日水曜日
蚊遣豚滅ぶ滅ばずエンゲルス 松田ひろむ
蚊遣豚滅ぶ滅ばずエンゲルス 松田ひろむ
句集『一日十句』第三所館。「蚊遣は無くならないが、それを入れておく陶器の豚は、近々消滅するよ」。「そうかなあ、この豚は懐かしい形だし、使い勝手もいいぞ」。「蚊遣がマルクスなら、この豚はエンゲルスさ。マルクスの思想は残っても、それを分かりやすく解説したエンゲルスは消えるのさ」。「いや、エンゲルスの伝え方は、今さらながら注目に値するよ」。そんな会話が聞こえてきます。さまざまな会話の聞こえてくる句集ですね。ひろむさん、御出版おめでとうございます。
*「多奈川」は、終着駅であり、始発駅です。
句集『一日十句』第三所館。「蚊遣は無くならないが、それを入れておく陶器の豚は、近々消滅するよ」。「そうかなあ、この豚は懐かしい形だし、使い勝手もいいぞ」。「蚊遣がマルクスなら、この豚はエンゲルスさ。マルクスの思想は残っても、それを分かりやすく解説したエンゲルスは消えるのさ」。「いや、エンゲルスの伝え方は、今さらながら注目に値するよ」。そんな会話が聞こえてきます。さまざまな会話の聞こえてくる句集ですね。ひろむさん、御出版おめでとうございます。
*「多奈川」は、終着駅であり、始発駅です。
2017年5月9日火曜日
箸紙を折って箸置く鳥曇 ふけ としこ
箸紙を折って箸置く鳥曇 ふけ としこ
「ほたる通信Ⅱ」57号。鈴木六林男師からお酒の飲み方を教わりましたが、最初に箸は相手の方に向けたり、皿の上に雑に置いたりせずに、自分の前に揃えて置くことでした。箸置きのない呑み屋であっても、箸入れの紙を二つにおって、置くこと、と。渡り鳥が、北へ帰ってゆく時間の中で、目の前の人との時間をていねいに愉しむ。そのために、箸をていねいに扱うのだよ。そんな教えが甦る一句です。この他にも、「香天」の吟行でご一緒したときの情景が甦る句が多く、大切な一枚の通信となりました。としこさん、ありがとうございます。
*4月1日、みさき公園にて。
「ほたる通信Ⅱ」57号。鈴木六林男師からお酒の飲み方を教わりましたが、最初に箸は相手の方に向けたり、皿の上に雑に置いたりせずに、自分の前に揃えて置くことでした。箸置きのない呑み屋であっても、箸入れの紙を二つにおって、置くこと、と。渡り鳥が、北へ帰ってゆく時間の中で、目の前の人との時間をていねいに愉しむ。そのために、箸をていねいに扱うのだよ。そんな教えが甦る一句です。この他にも、「香天」の吟行でご一緒したときの情景が甦る句が多く、大切な一枚の通信となりました。としこさん、ありがとうございます。
*4月1日、みさき公園にて。
2017年5月8日月曜日
「藤棚」 15句 岡田耕治
藤棚 岡田耕治
ぶらんこを止めて体を保ちけり
皺くちゃになって集まる桜かな
蝌蚪の国急な動きを浮かべたる
迎えたる場所まで送り藤の花
藤棚の暗くなるまで見ている目
本棚の最上段の春深まる
開きおり憲法記念日の新聞
確かめに行くと出ている春の月
おのおのの指の長さへ朝顔蒔く
真っ直ぐに夏の近づく夕べかな
学内のカンパを集め夏に入る
線を引くために見ており夏の空
滴りの心と体落ち着かす
夏鴉羽音を高くして過ぎる
無制限飲み放題の生ビール
*岬町小島にて。
ぶらんこを止めて体を保ちけり
皺くちゃになって集まる桜かな
蝌蚪の国急な動きを浮かべたる
迎えたる場所まで送り藤の花
藤棚の暗くなるまで見ている目
本棚の最上段の春深まる
開きおり憲法記念日の新聞
確かめに行くと出ている春の月
おのおのの指の長さへ朝顔蒔く
真っ直ぐに夏の近づく夕べかな
学内のカンパを集め夏に入る
線を引くために見ており夏の空
滴りの心と体落ち着かす
夏鴉羽音を高くして過ぎる
無制限飲み放題の生ビール
*岬町小島にて。
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