2017年10月10日火曜日

かなかなのこの世はいつもかくれんぼ 衛藤夏子

かなかなのこの世はいつもかくれんぼ 衛藤夏子
 『蜜柑の恋』(創風社出版)から。蜩が鳴き始めますと、深い森の中で一面に鳴き渡る声を思い出します。その森では、いつものメンバーがかくれんぼをしています。秋の森は色彩が豊かですが、そこに蜩が鳴き渡っているのですから、いつもより見つけるのが難しそうです。作者は薬剤師。同時に収録されたエッセイには、薬学と俳句は似ているところはないと断言してから、「しいて見つけるならば、相手が喜んでいただけたら、どちらもうれしいというところです」と。喜んで一巻を読ませていただきました。


*大阪府阪南市にて。

もう一度生まれる前に桃となる 瀬戸優理子

もう一度生まれる前に桃となる 瀬戸優理子
 句集『告白』(パレード)から。もう一度生き直したい、そう思うことがあります。しかし、作者はいきなり別人に生まれ変わるよりも、一旦桃になってはどうかと提案しています。桃のまま美味しく食べられても、桃太郎になってもいいのですが、そんなに急ぐ必要はないのだと。西東三鬼と鈴木六林男が並んで歩いていて、電車に間に合うように六林男が走り出そうとしたとき、三鬼は「走って行くような、そんないいところがこの世にあるか?」と制したそうです。ぼちぼちとまいりますか。


*滋賀県膳所俳句大会会場にて。

2017年10月9日月曜日

「ふかし藷」15句 岡田耕治

ふかし藷  岡田耕治

木の実落つ子の敷物を訪ねいて
茶を淹れるこの秋郊に坐るため
朝に飲むひろめ市場の秋鰹
まどろみを枯蟷螂の目覚めたる
秋雨を弾いて開く傘の骨
秋日影眩暈のほどに揺れいたる
上履きを上履きに替え秋暑し
待宵の月を浮かべし対話かな
赤い羽根付けて挨拶長くなる
すぐ帰ることの善し悪し秋の暮
ゆっくりと歩くほかなき良夜かな
半分のもう半分のふかし藷
うろこ雲雲はどうしてできるのか
すぐ読める本と読めない本の秋
秋刀魚焼く排気フードを光らせて

*膳所俳句大会の会場からびわ湖を。

学びたきものに花梨の実が落ちる 石井 冴

学びたきものに花梨の実が落ちる 石井 冴
 膳所俳句大会岡田耕治特選・花谷清入選句。(*花梨は、難しい方の字を使われています)昨日、膳所俳句大会が開催され、特別選者として、花谷清さん、火箱ひろさんとともに参加しました。一人2句出句で、全76句でしたが、5句選のうち石井さんの作品を2句取っていました。花谷さんもこの句を入選句にされました。実際の光景は、花梨の実が落ちたことだけなのですが、そのことが「学びたきもの」を呼び覚ましています。「もの」とひらがなで書かれていますので、学びたい者なのか、学びたい対象なのかを想像することができます。そうしますと、花梨の実の時間と、作者に残された時間が照応してくるようです。石井さん、おめでとうございます。


*特別選者3人の短冊。それぞれの特選句に贈られました。

2017年10月8日日曜日

香天集10月8日 中村静子、藤川美佐子、坂原梢ほか

香天集10月8日 岡田耕治 選

中村静子
缶蹴りの缶立て釣瓶落しかな
後の月フルートの音身に残り
遮断機が降り草の実の弾けたる
潮騒につまずいている鵯の声

藤川美佐子
枇杷すする一人暮しのくぎりつけ
水光る蛙の満ちる夕まぐれ
紫陽花の寺の石段いつもぬれ
曙と朝とのさかい露しぐれ

坂原 梢
雲海の富士に声あげ飛行中
涼新た小さき旅の船着き場
大口をあけてしずめる秋の鯉
スタンドの敗者勝者のかき氷

中濱信子
病院の窓一面の鰯雲
点滴の音なき音も秋の声
血管をさぐるナースの指ひややか
退院す机の上の夏帽子

浅海紀代子
小鳥来て空の一隅曇りなく
倚り懸れば押し戻される黍の風
猫と我に夜長の時計鳴りにけり
洗う物引っぱり出して天高し

村上青女
稲刈りの背に広がり汗の地図
法師蝉鳴き声のふと止まりたる
さわさわと風にまたがり秋の来ぬ
掲げしは九条の旗天高し

羽畑貫治
空蝉のようねと妻ののたまわく
湯加減を気にしていたり百日紅
終活を歩け歩けと小鳥来る
ピン球のロングシュートが秋抉る

西嶋豊子
あの人もこの人も夢夜長かな
台風圏畠仕事の鍬忘れ
赤紙の父と線香花火かな
いつまでも父と二人の庭花火



*大阪府阪南市サラダホールにて。

2017年10月7日土曜日

透けるまで伸びきってゆくなめくじり 中村静子

透けるまで伸びきってゆくなめくじり 中村静子
 香天集選後随想。カタツムリは可愛いけれど、ナメクジは苦手という人がいます。ナメクジの中には、背負った貝殻が退化して無くなったカタツムリも含まれているとのことですから、貝殻がない分中身がよく見えてしまうからでしょうか。ところが、この句のようになめくじを綺麗に表現してもらうと、随分その印象が変わります。昨日から続いていた秋雨は止んだようですから、雨の粒をたたえた大きな葉の上をどこまでも伸びて、やがて透明になる、そんななめくじを見つけに行きたくなりました。
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2017年10月6日金曜日

自殺予防週間ひがな晴れ極み 森谷一成

自殺予防週間ひがな晴れ極み 森谷一成
 香天集選後随想。9月10日の世界自殺予防デーからの一週間が、自殺予防週間に設定されています。ほぼ10年前からのことですので、歳時記には載っていません。鈴木六林男師は、季語は増やしたらいいという考えでした。歳時記に縛られる必要はない、と。その予防週間なる呼びかけの期間、「ひがな晴れ極み」だったと。この表現の内には、そのような週間を設けなければならない現実への憂慮と、「そのような呼びかけと自殺を考える心の動きとは別物ではないか」という作者の思いが潜んでいるようです。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。