香天集12月18日 岡田耕治 選
玉記玉
さしあたり遺品の鞠をついている
一日を翻訳すれば太鼓焼
梟や相打てば即発火する
凍蝶は金平糖の突起から
石井冴
在宅を示す自転車六林男の忌
実を結ぶこれはやっぱりさねかずら
うす味に馴染み湯豆腐の不透明
冬あかね寂しきものにボタン穴
三好広一郎
冬の虹いちばん好きな色がない
おはようのちいさな声や牡丹雪
中年やどのセータにも香辛料
近い過去芋蔓式に十二月
久堀博美
兄弟のような三個の藷もらう
海を見て暮らす嫗の大根漬
枯野のみひかりが残り暮れゆけり
よく動く輪飾を編む今日の五指
砂山恵子
三代の理系の家系寒昴
もくもくと来てもくもくとおでん食む
山茶花は集まるために咲いてゐる
訳も無く海を見に行く年の暮
宮下揺子
あかのまま見知らぬ人に会釈され
天高し黙食終えて鬼ごっこ
連れ合いと逸れし冬の動物園
有刺線に兵士十二月八日
小崎ひろ子
冬の日もさくらと呼ばれ無人駅
寒椿白き空より白くして
電線を伝う暖にもある格差
冬鴉われらの知らぬ声交わし
岡田ヨシ子
百枚の賀状書きたる日の遠し
冬至粥我にもわかる声のする
着ぶくれのメモせず消えし一句かな
歌合戦今も昔の演歌歌手
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
香天集12月11日 岡田耕治 選
柴田亨
彼と我の棺の重さ冬に入る
位牌のみ手元に残り冬日向
シベリアとつながる冬の蒼穹へ
十二月老いの平穏猫の不在
三好つや子
悪童のえくぼに似たり柿の傷
左手に鋏なじませ冬に入る
冬日和遺品に椅子の設計図
十二月空と交信する巨石
夏 礼子
病む人の手のひらに置く榠樝かな
大壺に指あとのあり秋日影
ねこじゃらし風のかたちを遊びたる
黒猫のぬうっと釣瓶落しかな
加地弘子
冬の蝶陰の重さを日溜りへ
小振りながら月下美人の返り花
枯菊にせわしなく来るもののあり
大嚔しばらく犬の吠える闇
春田真理子
月光に吸い込まれゆく土の笛
つまだてて釜を開けり月夜の児
恍惚とあり三日月の低さにて
十六夜の柱に届くリコーダー
古澤かおる
チョコ味のサクマドロップ冬日向
石庭の力強さよ霜の朝
冬の日が差す病棟の父の窓
一日を割烹着にておでん煮る
大西英雄
除夜の鐘月にも届く静かさよ
二人して安らかに聞く除夜の鐘
子や孫と寿いでおり初日の出
観音の姿に立てり寒牡丹
玉置裕俊
癌告知年寄の日に受けており
たよりなき足に一枚落葉来る
冬木立先を抜き越す救急車
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
香天集12月4日 岡田耕治 選
玉記玉
ウエハースのよう梟鳴く夜は
飛石がもひとつ欲しい冬の蝶
人間に人参部分あり愛す
歩いても歩いても道枯木立
谷川すみれ
歳晩の澱みに点ける煙草の火
毛糸玉置く空白の請求書
盛塩を過ぎ行くものの十二月
小春日の影が大きく笑いおり
渡邉美保
胸の中にも凩の通り道
沼杉の樹影ふくらむ神の留守
覗かせてもらふ石焼藷の甕
豆腐屋の白い前掛冬に入る
久堀博美
水飲んで気ままに歩く天高し
仮の世に鬼の子としてぶらさがる
方角を失っており茸山
人の死に立ち会っている海鼠かな
加地弘子
秋気澄む盲導犬の眼差しに
若き頬とがらせながら柿を噛む
枯菊を紐で括れば黄蝶舞う
枯葎生き生きと雨生き生きと
辻井こうめ
黄と赤の月の往還澄みゆけり
コスモスのスタンプを押し右廻り
満天の星のもっとも聖樹かな
素通りの常設展示枇杷咲けり
佐藤俊
大法螺の混じりて時に返り花
冬の川記憶の隙間に流れ込む
木菟鳴く人の世の穴深くして
ふるさとに記憶を残し木の実落つ
神谷曜子
初時雨猫に弱音を聞かれおり
わがままな女を入れて日向ぼこ
凩の夜の底から本探す
ピカソ風大落書に冬夕焼
河野宗子
子らの部屋ペン立てしまま秋の声
黒留袖これが最後と秋の朝
うるわしき人の集まり冬隣
落葉掃き会いたい人がすぐそこに
垣内孝雄
かつ丼のたまごふつくら冬休み
買ひ忘る二つ三つとよ神の留守
糠床に昆布をほどこす文化の日
甘えるも媚びるも苦手ぼたん鍋
牧内登志雄
鮟鱇の最後に残る顎の骨
気嵐や鉄橋渡る貨車の列
ストーブやそろりのろりと猫の居て
霜柱光る朝採れ直売所
藪内静枝
点眼が上手に出来て小春かな
初時雨庭師の鍔の雫かな
珈琲を少し熱めに今朝の冬
冬麗窓辺に朝のパンを置く
田中仁美
お祝いのピースをつくる秋日和
秋日和フラワーシャワー浴びており
冬の月写真に撮って待つことに
石蕗の花愛しき人の浮かびけり
吉丸房江
肩の荷を二つおろして忘年会
こおろぎさん夜通し鳴いていたんだね
鳶の描く線丸くなる秋の空
神神の足跡拾い淡路島
*南海多奈川線にて。
香天集11月27日 岡田耕治 選
森谷一成
スパイクの土一面の秋黴雨
一病を墨書してみる文化の日
秋天を覗いていたる潦
ネクタイをとぐろに落し秋深む
石井 冴
さくさくともらわれていく藁人形
空腹の遊び足りない藁ぼっち
新鮮な枯葉の匂う本屋さん
ランナーも鯨の顎も風の中
中嶋飛鳥
まげのばしして秋天朗ら朗ら
暮の秋文字は手を上げ脚を跳ね
返り花焦燥感に点を打つ
冬の虹後ろから来る笑い声
木村博昭
登校の声のみ聞こゆ霧ぶすま
百年の松に縄張る冬支度
チェンソーのひびく青空冬に入る
鰭酒に酔うてころんで齢を言う
安部礼子
寒の月戒厳のなお続く国
マドリガル女が変えてゆく枯野
愛だけを救いに仕立て枯蓮
本当の死を奪われる枯葎
長谷川洋子
紅葉且つ散るをたのしむ車中から
あかるさは桂と銀杏の我家にて
藁塚やお酒の好きな方のこと
思い切って話し掛けたる後の月
*和歌山市加太にて。
香天集11月20日 岡田耕治 選
三好広一郎
秋高し歌劇の口の多角形
月光広場コンビニができるらしい
蜜柑剥く回覧板が濡れている
冬の虹いちばん好きな色がない
宮下揺子
思いやりの嘘にして青からす瓜
だまし絵の裏よりちちろ飛び出せり
吊橋に戸惑っている秋茜
すさまじき秋夕焼の中を来る
古澤かおる
看板の似顔絵が下手小六月
小雪や四隅の昏き父の寝間
初時雨いつまでもある洗い物
野の小春鉢割れ猫が先を行く
小島守
燗酒やこの一言は言わず置く
冬の滝打たれる前の鼓動にて
だいたいのところで終わり落葉掻
黒マント次から次に出てきたる
香天集11月13日 岡田耕治 選
三好つや子
藁塚にまれびとこぞる後の月
通草の実見えないものの寝息かな
団栗を拾う指銃弾(たま)拾う指
しぐるるや鉄の匂いのする映画
柴田亨
大銀杏その一本に気骨あり
この角を曲がれば別れ金木犀
人去りぬ後ろ姿も夕映えも
噺家の語りのリズムあきあかね
渡邉美保
食感を伝へるための石榴の実
鳥渡るカッターの刃を紙にあて
木犀の香を早退の理由とす
妹が追いかけてゆく秋夕焼
砂山恵子
落葉道強きに響くハイヒール
次の人どうぞと言いて毛糸編む
初冬や薄き膜張る目玉焼
地球今八十億や葦枯るる
春田 真理子
銀河ゆくローズマリーの霊柩車
パン種のお喋り聴こゆ星月夜
星合やボーンチャイナに匙触るる
新月や星曼陀羅を探しゆく
田中仁美
秋の朝開店を待つスクワット
長き夜のネットサーフィン眠られず
猫の道網を付けおき秋高し
戦場のロバートキャパや鳥渡る
大西英雄
ジャズを聞き車窓に見える秋の海
Uターンし徒遍路へと出す蜜柑
紅葉にいやされている二人旅
枯葉踏み一歩一歩の遍路かな
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。
香天集11月6日 岡田耕治 選
浅海紀代子
ドアを閉め私の夜長始まりぬ
鈴の付く鍵持ち歩く秋夕べ
花種を蒔いて老いるを忘れおり
会うたびに遠くなりゆく鰯雲
釜田きよ子
爪を切る金木犀の香の中に
新しき箒の節目小鳥来る
秋深む我に似てくる弟よ
小鳥来る小学生のように来る
垣内孝雄
冬ともしコーヒーミルの磨れる音
冬ざるる夜中に部屋を走る猫
ガンダムのプラモデル立て冬に入る
つちくれになりを沈むる八つ頭
牧内登志雄
墨染の袖に纏わり照紅葉
親方の一服を為す松手入
天を突く冬芽の赤き勁さかな
外套の内ポケットに名刺古る
吉丸房江
村まつり三年ぶりに生きかえり
外を見て話したくなる温め酒
秋茄子キュッキュッと揉んでおく朝餉
新米のちらし寿司へと友招く
秋吉正子
夏終わる三百円のシャツを買い
当たりでも外れでもなし曼珠沙華
発表を終えて飛び出す秋の空
識ることの憂いを増やし青蜜柑
大里久代
露の玉心が揺れてはじけ飛ぶ
風さそう赤よりも黄の彼岸花
北岡昌子
虫の声信号を待つ同じ時
運動会少なくなぬ児童数
中田淳子
朝顔の一輪忘れられし路地
訪れん花すすき満つ無人駅