2023年2月26日日曜日

香天集2月26日 中嶋飛鳥、玉記玉、河野宗子ほか

香天集2月26日 岡田耕治 選

中嶋飛鳥
春萌す眼差し直ぐな土人形
眼鼻散らばりきさらぎの泣く女
春の雪返事を待たず傘開く
中腰の一掬い足す春の土

玉記玉
十二月八日ピザ遠くからやってくる
難解なつらつら椿から論破
声明を断ち割る雪のしずりけり
バイエルは直線残雪は曲線

河野宗子
指先の血豆の赤に雪降り来
ゆでたての卵をにぎる寒夜かな
雪解やコンクリートをたたく音
春の山未知を登ってみたくなる

田中仁美
これは私へバレンタインのチョコレート
店長の大声一つ桜餅
春スキーリフトを降りて転がりぬ
絵の具溶き色を重ねる春景色

岡田ヨシ子
春きざす曾孫五人の男の子
本畳むきっかけとする猫の恋
一番刈り若布の芯を煮るとする
うぐいすや畑のあとの竹林に
*岬町小島にて。

2023年2月19日日曜日

香天集2月19日 三好広一郎、柴田亨、石井冴ほか

香天集2月19日 岡田耕治 選

三好広一郎
3Lのセーターキミを守りたい
日脚伸ぶ動く歩道はすぐ終わる
ストーブに保証書のない心臓
虹色の錠剤を切る春炬燵

柴田亨
永き日の鬱っぽくなる靴の紐
風のなか散りながら咲く山茶花よ
水鳥のぷかりさびしき夢を見る
くずきりの黒蜜のあととっぴんしゃん

石井冴
女正月鰯せんべい割れ易く
どの木にも巣箱の架かる鼓動かな
薄氷をつつく人差指の微力
春ごたつ時時出てくるお坊さま

夏礼子
鐘の空枯れの漂いはじめけり
寒満月言いたいことは明日にする
雪しぐれ二者択一を迫られる
臘梅の光の影を遊びたる

加地弘子
雪だるま子どもの声のする家の
真っ先に無口な父の凧揚がる
寒の水音立てて飲む咽のあり
蜜柑挿し鳥語の集う朝かな

木村博昭
遠火事とおもえば列島火の匂い
入学試験ひとりひとりの息づかい
あい寄りて蕩けていたる雪だるま
崩れ落つ土蔵に眠る土雛

嶋田 静
誰の声聞いているのか花八手
十二月馴染みの店の閉店す
初みくじゆるく結んで帰りけり
恵方道大きな熊手動き出す

古澤かおる
犬小屋のネームが変わり春隣
本線を離れ支線の春立てり
残る雪駅舎を鳩のせわしなく
百の椅子半分埋まり卒業す

玉置裕俊
おいらくのはじめの一歩冬木の芽
漆黒や白い綿毛の仔猫来る
瓦礫越え出てゆく君に梅の白
剪定の済む松につく人心地
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2023年2月12日日曜日

香天集2月12日 久堀博美、三好つや子、砂山恵子、釜田きよ子ほか

香天集2月12日 岡田耕治 選

久堀博美
立春の玄関に箱置かれあり
思い切り躁に近づき半仙戯
春の闇加湿器の湯気吸うている
桃の日の門扉大きく開きおく

三好つや子
縞馬の縞の数式冬うらら
春を待つ蛹のあまた絵本室
定位置に戻らぬ鍵や二月来る
早春の光の素描のよう雀

砂山恵子
紙コップに握り癖ありつちぐもり
思ひ出をつぶやきながら花種蒔く
風の吹く海思ひ出す目刺かな
初蝶の門を出るまで見送りぬ

釜田きよ子
内情はとても苦しい浮寝鳥
昨日まで波と戯れ煮凝りぬ
白鳥と黒鳥と居て相寄らず
溜息をつく度雪の深くなる

楽沙千子
マイナンバー申請を待つ厚着かな
気配なき集落のあり歯朶を刈る
大寒の禊にふるう拳かな
好き嫌いなくて余生や粥柱

春田真理子
山のあり金柑の実を浮き立たす
龍の玉姫のたまはる耳飾り
亡き夫の箸を取り出す雪の花
日蓮と親鸞おがむ冬林檎

牧内登志雄
ペコちゃんの赤いリボンや春うらら
旅籠屋の屏風に残り多佳子の句
日脚伸ぶドールハウスのテラス席
千トンの硝子の海や鮫ゆうゆう

秋吉正子
鏡餅どこへも行かず誰も来ず
スポンジを替えて雑煮の椀洗う

大里久代
節料理笑顔集まる善きことも
節分の払いを受けし御札かな
*書家の下阪大鬼さんが私の句を書いてくれました。

2023年2月5日日曜日

香天集2月5日 渡邉美保、浅海紀代子、辻井こうめ他

香天集2月5日 岡田耕治 選

渡邉美保
狐火を口に含むは遠つ祖
愛日や鳩の胸元光り合ひ
雪催組立て家具の螺子余り
鳥籠によくしゃべる鳥日脚伸ぶ

浅海紀代子
老人と呼ばる安心枇杷の花
冬霞近くの墓地を遠くして
寒の月少し一緒に歩きたし
手に残る別れの握手花柊

辻井こうめ
ハーシーチョコ少年老いる十二月
二つ三つ小事のおこり晦日蕎麦
司書の選る秘密の二冊福袋
篝火の光に応ふ冬木の芽

宮下揺子
苦しみを飲み込んでいる冬青空
近道はしない質なり花柊
出来栄えを褒め合っている冬帽子
干し柿を提げて電車を乗り換える

楽沙千子
庭の菜を摘みて俎始めかな
七種を土産としたる笑窪かな
仏壇の鉦の澄みたり年新た
毛筆と決めるこだわり初景色

嶋田 静
小鳥来て私の一日始まりぬ
秋深む兄姉妹一人ずつ
法名をたまわっている小春かな
まどろみの光の中の小春日よ

河野宗子
初夢や友と長蛇の列にいる
大寒や宅配便は朝届き
ササールの古き映画よ冬菫
ワイパーに手袋を干す日向かな

田中仁美
友からのスープが届き冬深し
どこまでもひざ掛け毛布ついてくる
ぜんざいを一人で食す神の留守
寒に入る肩甲骨を寄せており

垣内孝雄
晨朝の宝号わたる冬木立
蝋梅の香でもてなす母のあり
草青む犬に曳かるる通ひ道
ねんごろに猫の頭を撫づ実朝忌

吉丸房江
かき餅を火で焼く香り幼の日
母を恋うことの一つに白菜漬
手のひらを重ねていたる火鉢かな
葉牡丹や天の光が渦を巻き
*紀州加太にて。

2023年1月29日日曜日

香天集1月29日 森谷一成、谷川すみれ、佐藤俊ほか

香天集1月29日 岡田耕治 選

森谷一成
片膝立て釣り桟橋の事納め
  没後四十年のラジオ番組のあと
セロニアス・モンクひりりと晦日蕎麦
年神を見卸している警報器
初旅を裸子植物に教わりし

谷川すみれ
戦いの終わりはあるか蜃気楼
三月十一日の早や暮れにけり
菜の花に溶けだしている聖少女
蒲公英の絮唄いつつ踊りつつ

佐藤俊
左義長のほむらくすぶる男の背
無音という音の聴こえる冬の夜
閉店の店主敬白冬深し
たましいの足音を聞く冬木立

夏 礼子
たっぷりと時間はあるし冬ぬくし
初春のゆるりとまわる万華鏡
もう本音言う気ないねん海鼠噛む
足音のだんだん親し寒四郎

神谷曜子
枯木山耳をすませば帰れ帰れ
紅梅の色が口実早起きす
反抗の元気が欲しい冬青空
賀状投函終の住処と決めし景 

安部いろん (安部礼子改め)
ヤマビコの塊ひろう雪野原
冬眠す人情話に触れぬよう
雪一面未来なんて創ればいい
孤高とはこの深山に凍る滝

岡田ヨシ子
長生の初めてお目にかかる雪
雪の玉何の音かと見上げたる
断りのメールがつづく雪の中
浄土へと写真をのこす雪景色

藪内静枝
冬瓜の貰われて来てころがりぬ
初夢や亡夫の声聞き目覚めたる
去年今年腰の屈みに力出ず
蒼穹に白雲生まる淑気かな
*岬町多奈川にて。

2023年1月22日日曜日

香天集1月22日 久堀博美、石井冴、中嶋飛鳥、加地弘子ほか

香天集1月22日 岡田耕治 選

久堀博美
年の夜の赤き錠剤転びけり
優しさの真ん中にある芋頭
天泣の空にひろがり寒桜
北風の頑張らなくていいところ

石井 冴
ゴム長の後から後から雪が降り
ここからは関守石よ風花す
寒波くる思い思いのパーカッション
まだ何も飾っていない鏡餅

中嶋飛鳥
皇帝を名告る漢よ木枯しよ
隙間風出さぬ手紙に切手貼る
横の一事無きを知る年の暮
四囲の眼を遠く三年日記買う

加地弘子
生ける間を半分散って冬桜
亥の子槌ぺったんぺったん祝いましょ
正月や目白に餌付けする人と
寒林の足音吾に追いつきぬ

木村博昭
母逝きて雪つもる夜となりにけり
家事という終りなきもの掃き納む
ミサイルの発地と着地去年今年
片道は歩くと決めて初詣

釜田きよ子
真ん中に太陽を置く初暦
鏡餅赤子よく泣きよく笑う
閉まる時少し鳴くドア冬の月
冬帽子暗証番号すぐ忘れ

小島 守
バスを待つときが最も空寒し
栄養を管理されたる人参よ
善哉や味覚の戻らない人の
署名する文字を覗かる寒さかな
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。


2023年1月15日日曜日

香天集1月15日 玉記玉、三好広一郎、渡邉美保、柴田亨ほか

香天集1月15日 岡田耕治 選

玉記玉
梟の闇よ目眩く絵巻
露出度はポインセチアに聞いてみよ
我が影を裏切っている半仙戯
恋猫のだんだん液化してきたり

三好広一郎
初鏡これは去年の顔のまま
ここが空のきっと階段凧のぼる
こどものころ褒められすぎて煮凝りに
白シーツ四隅を掴み初御空

渡邉美保
鳥瞰図見てゐて鳥になる五日
花びら餅のうすももいろの禍根かな
少彦名命にもらふ龍の玉
風花やポスト帰りの手ぶらの手

柴田亨
遠き日の歪みそのまま年酒汲む
緊張は冷たきタクト一点に
梟の夢深深と風の止む
凍星の奏でるままに街灯り

春田真理子
白萩を揺らせば生家蘇る
鈴蘭の実に一つずつの鬱
黄落の大樹よ黄泉の見え始め
薄墨に柊こぼすあねいもと

河野宗子
薔薇の芽や柔らかき棘持ちはじめ
この曲を聞いているらし夏燕
人が来て時早くなる秋の暮
指先のしなやかなひと若葉風

岡田ヨシ子
幸と書くデイサービスの書初に
初笑い育つ曾孫と肉を焼き
恵方道姿なき人いかがなる
長く生き七草粥の香り受く

玉置裕俊
長湯して来し方思う冬至かな
鍋囲む人のなくなり除夜の鐘
亡き父の褞袍を羽織る胡坐かな
*岬町小島にて。