2018年5月28日月曜日

「最先端」15句 岡田耕治

最先端  岡田耕治

花桐と同じ高さへ上昇す
明暗の明を増やして桐の花
蓮華草こぶしを突いて立ち上がる
たっぷりと歩いてゆけり竹の秋
まくなぎを識りまくなぎの中に居る
筍を食べきっかけを掴みけり
雀の子最先端を降りてくる
ペン先の細きを選び五月の夜
藤棚を離れ思案の進みけり
夏に入る憲法二十六条と
赤い躑躅この参道を狭くして
夏の星遠くから見ることにする
ろうそくの火だけとなりて子どもの日
蝸牛子の目が濡れてとらえたる
三歳の口いっぱいの苺かな


*大阪教育大学柏原キャンパスの朝。

2018年5月27日日曜日

香天集5月27日 玉記玉、渡邉美保、辻井こうめほか

香天集5月27日 岡田耕治 選

玉記玉
仔猫六匹どこどこどこへどこどこへ
風から戻って噴水の退屈 
暗がりに鈴を育てて昼寝覚
眩しさは昏さ蝙蝠の逆さ

渡邉美保
紙魚走る南総里見八犬伝
天井の水陽炎や蛇の揺れ
見上げおり樋をま白き蛇の腹
蛇衣を脱ぐ音草を辷る音

辻井こうめ
麦秋やポンパドールのポプリ壷
セーブルの磁器展拝し薔薇排し
歌にする書けぬ漢字や浮いて来い
鎌首の中は覗かず蝮草

谷川すみれ

日本という眼鏡憲法記念日
杖をつく父の周辺麦の秋
蟬時雨辞書を重ねて朝終る
七夕や本がほしいと小さな字

橋爪隆子
鯉のぼり影に勢いありにけり
三頭の海豚のジャンプ夏来る
新茶汲むひとゆらしする急須にて
新緑を映し湯船の一人かな

西本君代
松代に大本営や首夏晴れて
どこまでも新緑私ひとしずく
青き踏む麺棒太き信濃かな
幸せを備蓄しておく鯖の缶

橋本惠美子
啓蟄のかざせば扉開きたる
抽斗の把手が錆びて雛の家
空欄を埋めるパズル春の暮
永き日の駅弁を提げ当直医

中濱信子
紙風船昔はあった薬置き
休耕田となるも菜の花盛りかな
友を訪うこれはこれはと藤の花
病院を出て一面の水田かな

木村博昭
書棚の書古び憲法記念の日
母の日やそこからぼくが見えますか
人気なき薔薇園を這う水ホース
摘みたての苺これもと手渡され

古澤かおる
薫風のパリから帰るワンピース
パセリ食む浜の言葉をしゃべりつつ
非常階の錆びを深めて緑さす
守宮鳴く画面に先祖現れて

安部礼子
むかしむかし父の背中が夕焼ける
静寂の時間の海にいる海月
原色の花が真夏の愛になる
梅雨寒し死の順番を問われたる

永田 文
背中の子のすとんと眠る花の昼
母を呼ぶ声の混じりて百千鳥
草叢の獸の匂い夏兆す
青空におぼれていたり揚雲雀


*上六句会のホテルアウィーナ大阪にて。

2018年5月25日金曜日

満目の雪が総てでありにけり 斎藤信義

満目の雪が総てでありにけり 斎藤信義
 句集『雪晴風』朔出版。斎藤さんの住む旭川から見える大雪山から十勝岳までの連山には、日本でもっとも美しい雪が降ると言われています。見渡す限りの雪、その雪が総てであると、静かに語ってくる句集です。何を嘆くことがあるでしょう、こんな美しい雪を目の前にして。『雪晴風(ゆきはらし)』の御出版、おめでとうございます。

*大阪府池田市にて。

2018年5月21日月曜日

「夏兆す」10句  岡田耕治

夏兆す  岡田耕治

就職が決まるまで在るシクラメン
透明な檻すべりゆく黄砂かな
除幕する布が巻かれて風光る
チョーク持ちし指にくっ付く蓬餅
ユーカリを微かに揺らす春の雲
前髪と眉のあわいに夏兆す
更衣その日暮らしを続けたる
行きつけの店にあらわれ初鰹
永き日の大路に向かい泣き出しぬ
ビール飲む退職組の饒舌に


*泉佐野市内にて。

2018年5月20日日曜日

香天集5月20日 中嶋飛鳥、石井冴、三好広一郎ほか

香天集5月20日 岡田耕治 選

中嶋 飛鳥
遠泳の空ゆく鯉よ弟よ
蝙蝠の健やかな闇においだす
蟾蜍その場に臨み眼をつぶる
改めて男結びを青葉騒

石井 冴
臨界を侵すハルノノゲシにて
一枚の布になりたる駱駝かな
青蔦の健やか彼の背中まで
通天閣ぬっとフラミンゴから春休

三好広一郎
図書館に畳敷きあり燕の子
古壁と同じペンキのない四月
普段着でよいと言われて西行忌
青嵐組体操でみんな亀


三好つや子
紫雲英田に蹠を忘れ深眠り
春の蝿新幹線に乗っていた
全身を目にして五月樹木医は
セルロイドメガネはにかむ昭和の日

砂山恵子
噴水は空を掴みてまた放つ
香水やその時だけの思ひ出か
薄暑光車のキーとカード持ち
ひとり立つ立夏の風の回りけり 

岡田ヨシ子
鰯釣混み合ってくる人の声
葉桜や波一つなく雲もなく
更衣行きつ戻りつしておりぬ
クーラーを洗い上げたる三十度



*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2018年5月13日日曜日

香天集5月13日 中村静子、神谷曜子、加地弘子ほか

香天集5月13日 岡田耕治選

中村静子
目薬をさす前に見て春の空
桜貝流木の肌なめらかに
花衣脚美しく送り込む
桜餅愚直なる人集まりて

神谷曜子
朧月リハビリの犬歩かせて
寝ころんで四月琴座流星群
春の山アラブの戦火知るや知らず
一回転して春の夜の裏に出る

加地弘子
ハグしたりチューしたりして母の日よ
母の日の一枝弱りはじめたる
夏燕逃げたい時は軒にきて
五月来る河馬と魚のすむ水に

村上青女
万緑や右に左に登りゆく
くもの巣のベッドのように草若し
露天湯に北斗を浮かべ遠蛙
一面の芝生を花の畳とす


*大阪教育大柏原キャンパスへ向かう山にて。

2018年5月11日金曜日

隠れ家のようで全員マスクして 石井冴

隠れ家のようで全員マスクして 石井冴
 電車にも、街にも、マスクの顔があふれています。かつては、風邪を引いたからマスクをするという習慣でしたが、今は予防のためにマスクをする人も増えてきました。場合によっては、居合わせた全員がマスクをしていることもあります。その光景は、まるで人目を避けてそれぞれが潜んでいる隠れ家のようです。何の疑いもなくマスクをする人と、それを隠れ家にいるようだと感じる人、詩は後の方の人にやってくるようです。

*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年5月9日水曜日

年惜しむジャムは静かに傾いて 玉記玉

年惜しむジャムは静かに傾いて 玉記玉
香天集51号・選後随想。大晦日の朝、何時ものようにトーストにジャムを塗って、今年一年の最後の日を始めました。ジャムは、少なくなってきたためでしょうか、テーブルに戻しても傾きを保ったまま、落ち着いてはくれません。水平になって、安らかに新しい年を迎えたいという気持ちはもちろんあるのですが、傾いたままでもよいかと思えるようになってきました。この一年を振り返っても、それほど安らかで水平ではありませんでしたから、かえってこの不安定な静かさの方が、新年を迎えるのに相応しいかも知れません。

*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年5月8日火曜日

まっすぐの煙のどこが十二月 三好広一郎


まっすぐの煙のどこが十二月 三好広一郎
「香天」51号・選後随想。十二月に入りますと、何もかもが気ぜわしくなります。でも、煙突から立つ煙でしょうか、それだけば悠々とまっすぐ空に伸びています。煙はもちろん、人工的なものですから、それを排出する人間はきっと気ぜわしい筈なのに、それとは別に煙だけは自由に広がってさえ行くようです。
*武庫川女子大学にて。

2018年5月6日日曜日

香天集5月6日 辻井こうめ、森谷一成、橋本惠美子ほか

香天集五月六日 岡田耕治 選

辻井こうめ
新樹光浴びるキリンのビルディング
横たはるラクダに名あり蝶の昼
少年の河馬のスケッチ風光る
藤垂るる象の博子の黒リボン

森谷一成
ゾウの客死その亡骸へ杉の花
コウモリのおしくらまんじゅう逆しまに
空遠く動物園の春埃
シロクマの地肌は黒くあり夏日

橋本惠美子
新聞を三角にして焼芋屋
若鷺釣る穴の形の青い空
天井をゆらりとよぎり春日陰
三歳にお当番ありチューリップ

釜田きよ子
花の昼開け放ちたる佛の間
陽炎を抜ける暖簾を押すように
新玉葱転がる自由得たりけり
病院に憩う場所無し青葉冷え

安部礼子
かげろひて羽音を立てぬ鳥になる
生くものに触るる魂かげろひぬ
キャラメルを包みし紙の目借時
人待ちて球根になる春の宵

西本君代
石鹸玉人ぎらいでも人と居て
段ボール箱を濡らして春の雨
苺摘み進む幼き尻丸し
闘病の教え子が逝く若葉かな

宮下揺子
木瓜の花胎内仏の赤い口
春の雨携帯電話捜す腰
カタカタとからくり人形春運ぶ
白蓮の下婆たちのハイタッチ

羽畑貫治
天を切り夏燕地を這い来たる
点滴や柏餅へと引き摺りて
脚浸し魚影を透かす鷺一羽

更衣息吹き返す妻のあり


*岬町小島にて。

2018年5月4日金曜日

白南風や流木をもて描く〇 杉山久子

白南風や流木をもて描く〇 杉山久子
「石榴」第19号。梅雨の晴れ間、まぶしいほどの風が吹いてきました。そうだ海に行こうと決めて、ここまで来たのです。細く、白くなった流木を手に、大きな〇を砂に描きました。この〇は、波がさらっていくでしょう。もし残ったとしても、また降り出す雨に消えてしまうでしょう。もしかすると、この私も、この〇のようにくっきりとして、やがて消えることを待っているのかも知れません。文学の香りのする、薄くていい雑誌が到着しました。

*泉佐野市内にてジンを。