香天集10月31日 岡田耕治 選
安田中彦
秋の野の果ての断崖見て帰る
夜長し脱稿のあとマドレーヌ
実石榴を裂いて悪態ついてゐる
秋思来る白樺の木々騒ぐとき
森谷一成
媾曳やされば歩ごとに虫の爆ぜ
蜿蜒と割れて引かれて秋の蝶
たまきはる肚に鬆の入る秋の風
秋天やヘリコプターを一尾とし
夏 礼子
咲きそろうまでのざわめき曼珠沙華
そのうちに捨てる団栗ポケットに
秋団扇のっぴきならぬ話聞く
ひとつ抜く回覧板の赤い羽根
辻井こうめ
ゼッケンの揺るる体育着モズ高音
蟷螂のしばらく見詰む虚空かな
富有柿走り来るたびテープ張り
背伸びせし本をふたたび青みかん
加地弘子
草の花羽在るものの満ちゆけり
天高しやっぱり母に頼みおり
鰯雲木の音をさせ訃報来る
折り紙の梟と鶴夜長し
中濱信子
秋深む紫の花地になじみ
吾亦紅最後に暮れるあたりにて
二人には二人の会話栗の飯
秋茄子や衆院選に母子候補
安部礼子
一喝をされている窓レモンの香
美しく脆き木のあり薄紅葉
沢胡桃もののふの脳再生す
行く場所のなくて落葉と汚れた土
藪内静枝
居る筈の夫を語り月今宵
朝寒や紅茶の深きルビー色
さびさびと梨をむくなり人想い
境内に箒目著し秋深し
*岬町小島にて。