香天集1月30日 岡田耕治 選
夏 礼子
裁かれる顔の現われ初鏡
交わらぬ不思議粉雪てのひらに
鯛焼は両手やっぱり頭から
気掛かりの犇めいているシクラメン
森谷一成
蹠をみせて駆け抜く大旦
おこし火や去年のベクレルシーベルト
福笑あとは大體どうにかなる
初稽古まずは恃みのプロテイン
渡邉美保
人参を残して今が反抗期
たましひははなだ色てふ雪女
イグアナの気分二日の日を浴びて
ボールペンで描く曼荼羅山眠る
中嶋飛鳥
道なりに曲りはじめる冬の詩
虎落笛閉じし聖書をまた開く
白線にペンキ上塗る年の暮
前屈の辛くも指に触れて春
辻井こうめ(1月)
薄氷の光の解くしじまかな
浅葱色の空を寒林押し上ぐる
寒禽の混群となる一樹かな
石灰のラインを散らす大縄跳び
辻井こうめ(12月)
初明り童二人のツーリング
お地蔵の引越案内初雀
初山河ゆるくしてゆく深呼吸
人語めく竹のきしみや風疼く
嶋田 静
塩鮭や昭和の辛さよみがえり
石蕗の花待たせる時間待つ時間
夢少しあとあれこれの初便り
初御空郵便バイク近づきぬ
永田 文
花は濃く葉は艶やかに寒椿
雲梯に影のとびつく冬日向
白菊や終はほのかに紅こぼす
くゎっくゎっとなにを喚くか寒鴉
牧内登志雄
春近し毘沙門天の猫の声
「秋桜」を二度聴いている春隣
デコポンの扱ひかねる出臍かな
二尺ほど尻動かして春来る
安部礼子
初明り編み上げらるる海の波
雪催刃の波形が啼いている
冬銀河話題探しをやめており
腕時計狂わす寒の終着駅
楽沙千子
忘れ水に浸る若葉を摘みにけり
潮風の中を沖より寒波来る
水桶にひと葉かたまる氷かな
湯上りの程よく甘し寒の水
藪内静枝
山茶花の屏風のごとく刈られけり
七種薺考の囃しの聞こえ来る
漬け頃に痩せてゆくなり干大根
初鏡母のおもかげ写りたる
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。