2022年1月30日日曜日

香天集1月30日 夏礼子、森谷一成、渡邊美保ほか

香天集1月30日 岡田耕治 選

夏 礼子

裁かれる顔の現われ初鏡

交わらぬ不思議粉雪てのひらに

鯛焼は両手やっぱり頭から

気掛かりの犇めいているシクラメン

森谷一成

蹠をみせて駆け抜く大旦

おこし火や去年のベクレルシーベルト

福笑あとは大體どうにかなる

初稽古まずは恃みのプロテイン

渡邉美保

人参を残して今が反抗期

たましひははなだ色てふ雪女

イグアナの気分二日の日を浴びて

ボールペンで描く曼荼羅山眠る

中嶋飛鳥

道なりに曲りはじめる冬の詩

虎落笛閉じし聖書をまた開く

白線にペンキ上塗る年の暮

前屈の辛くも指に触れて春

辻井こうめ(1月)

薄氷の光の解くしじまかな

浅葱色の空を寒林押し上ぐる

寒禽の混群となる一樹かな

石灰のラインを散らす大縄跳び

辻井こうめ(12月)

初明り童二人のツーリング

お地蔵の引越案内初雀

初山河ゆるくしてゆく深呼吸

人語めく竹のきしみや風疼く

嶋田 静

塩鮭や昭和の辛さよみがえり

石蕗の花待たせる時間待つ時間

夢少しあとあれこれの初便り

初御空郵便バイク近づきぬ

永田 文

花は濃く葉は艶やかに寒椿

雲梯に影のとびつく冬日向

白菊や終はほのかに紅こぼす

くゎっくゎっとなにを喚くか寒鴉

牧内登志雄

春近し毘沙門天の猫の声

「秋桜」を二度聴いている春隣

デコポンの扱ひかねる出臍かな

二尺ほど尻動かして春来る

安部礼子

初明り編み上げらるる海の波

雪催刃の波形が啼いている

冬銀河話題探しをやめており

腕時計狂わす寒の終着駅

楽沙千子

忘れ水に浸る若葉を摘みにけり

潮風の中を沖より寒波来る

水桶にひと葉かたまる氷かな

湯上りの程よく甘し寒の水

藪内静枝

山茶花の屏風のごとく刈られけり

七種薺考の囃しの聞こえ来る

漬け頃に痩せてゆくなり干大根

初鏡母のおもかげ写りたる

*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。


鉛筆が色付けてゆく冬の蝶  耕治

 
川崎 果連
 いただきます。ナイスです。
大津留 直
 今日の御句は格別です。読者の手が一緒に動いて、冬の蝶の絵を完成させるような趣きが感じられる。なんだか手がむずむずしてきました。不思議なことです。そして、絵が出来上がると、冬の蝶が春の蝶に生まれ変わっていたような・・・
桑本 栄太郎
 色鉛筆にて冬の蝶を描かれて居られるのですね。鉛筆デッサンの後、色鉛筆にて色付けを行えば画板よりふわりと舞い飛ぶようです。待春の心情が溢れていますね!
大関博美
 冬の蝶、モンシロチョウなどはあたたかいキャベツ畑に飛び始めて、子どもたちのスケッチの時間なのか、趣味のスケッチか、色をさす毎に冬の蝶へ息が吹き込まれてゆく。
十河 智
 仕事の合間に窓の外にみつけた冬の蝶、ちょっとそのへんに形だけスケッチ。後でゆっくり色鉛筆で色を付けてゆく。完成させる過程が嬉しいものです。思い出して二度楽しい。
仲 寒蝉
 冬の蝶はモノクロのイメージですね。これいい句だなあ。
野島 正則
 余命の少ない冬の蝶、死に化粧のようにも感じました。

2022年1月23日日曜日

香天集1月23日 石井冴、玉記玉、加地弘子、砂山恵子ほか

香天集1月23日 岡田耕治 選

石井 冴
隣り合うものと打ち解け草石蚕なる
小さくも対を愉しむ松飾
純愛の並んでいたり雪達磨
風花を呼び寄せている厨かな

玉記 玉
回転のレッスン残る龍の玉
海神はたった一枚開戦日
一頭の蝶が凍ててゆく脳
人が沸くところ春愁生むところ

加地弘子
紫の着物をまとい雪女
日の差して掌に受けている実万両
修理済む手毬の出臍よく弾む
寂しさに冬白菊の紅のいろ

砂山恵子
額から空を見ている寒すずめ
夢を読むことが仕事や初日記
段々と父似の顔に冬帽子
素うどんをうろんという地日脚伸ぶ

神谷曜子
白鳥や沼を童話にしてしまい
老友になるはずの人冬の蝶
冬の昼刑のごと歯を削られる
クリスマス綺麗に飾り一人なり

河野宗子
納豆を混ぜるあいだの思案かな
牛乳箱同じ高さのシクラメン
ちゃんちゃんこ朝一番の白湯含み
花八手大きく空を受けてあり

北村和美(11月)
玉砂利の鼻緒泣きつつ七五三
とびきりの言い訳残す野分かな
ヨーヨーの回転を曳く冬の空
一枚の袴着順に貸し出しぬ

北村和美(12月)
マフラーが走り出すベル五分前
古稀となる妣の襟巻き腰に巻き
冬の朝ひかり担いでジャンプする
新聞の四隅を揃え冬日向

古澤かおる
元朝やもう探し物する二人
蘭展の鉢の一つは無名にて
新しいスコップを積み初仕事
縁側に弟座る二日かな

田中仁美
またコロナ冬のバーゲン素通りす
大寒や視野の検査に星光る
渋滞を自転車で過ぎ大晦日
年詰まる研修医師の防護服

岡田ヨシ子
忘れいし携帯電話鳴る寒夜
助け人来るまで転び寒の庭
粥に入れどんどの餅の香ばしく
シルバーカーくの字に登る春の坂

*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

夜の色を宿していたる山茶花よ  耕治

 
桑本 栄太郎
 山茶花の花の色は紅が多いものの、中には白もあり或は紅に白が混じる斑入りもありますね。この寒さ厳しい時季には、夜の寒灯しとも思う作者です。

大津留 直
「夜の色」が読者に様々な想像を駆り立てます。われわれの世代だと、藤圭子の『夢は夜開く』という歌を思い出すかもしれません。確か、ノヴァーリスにも『夜の讃歌』という詩集がありました・・・

牧内 登志雄
「夜の色」とはどんな色だろうか。その色はきっと花弁を広げた山茶花の花の色を映すのだろう。白なら、紅ならば、あるいは紅と白ならば。「夜の色」五音にどのような色をつけるかを読む者に問うている。仄かに灯る山茶花の花が夜を照らす。読む者によって漆黒の闇ともなれば、月影の濃い夜、星月夜の色にもなるのだ。

野島 正則
 我が家の山茶花は白。10月頃から咲いていたように思いますが、今でも毎日少し、花を付けます。その花の枯れたものが、風に吹かれて玄関に落ちているのですが、これがなんとも茶色の汚い姿に見えます。白い花の綺麗な一面と、枯れた花の姿。こんな対比の一面を感じます。

十河 智
 山茶花は夜に見たとき、よく似合う花だと発見があったのですね。昼に同じ花を見て、思わなかった「夜の色」を、山茶花の中に見つけたのですね。この次見るとき、私は山茶花の中に夜の色を見つけるだろうか。

仲 寒蝉
 言われてみればあの赤は手放しの明るい赤とは違いますね。椿ほど艶っぽくもないですが「夜の色」と言われるとそうかも。

2022年1月16日日曜日

香天集1月16日 安田中彦、三好広一郎、木村博昭ほか

香天集1月16日 岡田耕治 選

安田中彦
ドードーのゐない真冬の動物園
練炭の火に死の匂ひありにけり
とこしへに父は留守なり野水仙
友垣ら冬のかもめとなりて逝く

三好広一郎
経済と腸がたいせつ初御空
成功より失敗の話竜の玉
初神籤一本ずつにアルコール
歳時記や利き手は脳になりたがる

木村博昭
一切を容れ冬海の昏きこと
償えぬ死者への負債十二月
白菜の積み上げられて眩しかり
焚火跡神域深くねむりけり

小島守
年の火や有給休暇使い切り
初場所の血を流しいる力士かな
虎落笛消せない声のありにけり
感染の爆発を来る雪起し
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて

2022年1月15日土曜日

共に見しことを忘れて初山河  耕治

 

桑本 栄太郎

 元旦の朝初めて見る近くの野山の景色が「初山河」ですね? 夫婦二人でいつも眺めている景色でも、元旦の朝の眺めは特別なようです。年々歳々生きて居る限り、元旦は特別な思いを持ってながめます。


仲 寒蝉

 「共に」はもちろん夫婦で、でしょう。、昔のことはよく思い出せないけれどもこの1年の初めに「初めて」見たかのように新たな気持ちで同じ景色を見よう、ということでしょうか。


大関博美

 いつも一緒に見てきた景色だけど

淑気満つ山川草木皆、洗われたように美しく、厳かにみえる。

これからも、よろしくと心で思うのである。


十河 智

 今も一緒に並んでみているのかもしれません。今までもあったことでしょう。そういうことすべてが、忘れ去られ、元旦の淑気に満ちた空気の中で、我一人の内に充実した力が湧き、全てが集中されるのです。この山河の中心にいて、歳の初めを祝うのです。


野島 正則

 老父の新たな決意にも感じられます。


2022年1月9日日曜日

香天集1月9日 三好つや子、柴田亨、渡邉美穂、久堀博美ほか

香天集1月9日 岡田耕治 選

三好つや子
車体から足の出ている冬日和
木の葉ふる鉛筆の塚虫の塚
白障子空気が起立しておりぬ
線描の野水仙から波の音

柴田亨
冬灯ステンドグラス闇深し
問題は猫の不在と雪催
クレヨンの並びはみ出す落葉かな
家を捨て椿の盛り見ておりぬ

渡邉美保
極月の極楽湯まで自転車と
冬麗の海底にある山と谷
暖炉欲しかの世の祖母の揺り椅子も
ピアニカを拭いている母年の暮

久堀博美
除夜の鐘ひと日ひと日の重なりぬ
風花のここと決めたる着地点
過ぎてゆく刻を豊かに雪だるま
客として湯の響き聞く初鏡

辻井こうめ
キルト着る犬の尾っぽや朝の雪
茹でたまご夢千代像の時雨をり
ふとん干す何でもない日茶碗蒸
皸やバンドエイドの直ぐはづる

宮下揺子
黄落の空やゴッホの澄み渡り
対岸の紅葉に焦がれ犬を曳く
皇帝ダリア背を伸ばし風に乗る
寂聴逝く九九歳は青春

牧内登志雄
初日記書くことのなき幸不幸
したたかに愛を奪ひし冬花火
爺さまのしわぶき一つ寒卵
大寒や空はぱりんと割れる青

垣内孝雄
年立つや猫のごはんにサプリ足す
寺の名と同じバス停冬帽子
色深むドライフラワー年新た
松過ぎの餌を欲る鳶の急降下
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

革ジャンパー海の匂いを連れてくる  耕治

 
西尾 征樹
 革ジャンを着てバイクに乗って走っていた季節をその染みついた海の匂いから、連想しました。

十河 智
 海辺で育ったので、朝日も夕陽も海へ見にゆきます。一番の朝日は、桂浜の元旦の日の出。四国中から車もバイクも来ていました。大阪あたりだと、日の出は和歌山か淡路島まで、バイクで一走りでしょうか。そこから帰ってきた大学生、革ジャンには、匂いがよく染み込みます。

野島 正則
 皆様の鑑賞のように、バイクに革ジャンが似合いますね。海は、関東ならば湘南海岸を想像します。

桑本 栄太郎
 革ジャンパーを着込み、海岸を散策でしょうか?小生も「平凡パンチ」世代であり、若い頃欲しくて堪らなかった革ジャンです。しかし、高価なため中々買う事が出来ませんでした。百貨店の紳士服飾販売も担当しましたので、湿気と塩気は皮革製品の大敵です。ファッションとしてであれば兎も角、海べりでは避けたいものですね!

大津留 直
 このようなファッショナブルな、元気の良い句を一度作ってみたかった、という作者の声が聞こえてきます。

柳堀 悦子
 浜っ子 長年住んでいた横浜の街思い出します。

仲 寒蝉
 海風を切ってバイクでやってきた男、という感じですか。

2022年1月2日日曜日

香天集1月2日 谷川すみれ、森谷一成、中浜信子ほか

谷川すみれ
桜蘂降るポケットに拡大鏡
春立つや柱の傷を磨きおり
野に遊ぶ天は伸びたりちぢんだり
電線はつばめの声を聞いている

森谷一成
裏腹に頷いている石蕗の花
小春日を相続したる遊び人
あの世から覗いていたり返り花
凩やコンクリートはぞっとする

中濱信子
真っ先に落ち山茶花をおちつかす
裸木のあと一枚の未練かな
破蓮校舎に夕日残りけり
ゆっくりと言葉の返り年の夜

河野宗子
遠くから強くなりゆき寒月光
行きたくて行けないところ冬銀河
冬薔薇つぼみひとひら解きけり
寒椿はっと振りむくことのあり

安部礼子
満員の列車が連れてくる師走
柚子湯の香心荒ぶらせる不覚
練炭の穴絶望を見届ける
蓮の骨時空は線を狂わせて

嶋田 静
緊張の広がってゆく鴨の陣
蜜柑摘む下から声のかかりけり
オリオンや煙となりし友のあり
冴ゆる夜の一番星の付いて来る

楽沙千子
塩鮭の今も郷より届きけり
山寺の擬宝珠を響き冬の川
年毎に定まる手筈味噌作り
大切な言葉添えられポインセチア
 
田中仁美
試乗する新車の匂い初霞
お歳暮の紅まどんなの甘さかな
幼き子ピラカンサスとにらめっこ
冬の朝眠りつづける更年期

吉丸房江
人に声かけるがごとく注連飾る
惜しみなく拍手を送り東京五輪
たくましき父親となり帰省の孫
お雑煮の匂と味に母の顔

岡田ヨシ子
炬燵出し短い旅をしておりぬ
日短しコロッケを焼くトースター
石段にすわる二人の初景色
若き日の百人一首夢始め

川端大誠
冬の空チーム現在連敗中

川端勇健
冬の空いっぱいとなる星たちよ

川端伸路
じじばばとなにをしようかふゆ休み
*朝日を受ける大阪教育大学の校舎

燈明へこの山の松飾りけり  耕治

 
桑本 栄太郎
 明けましておめでとうございます! 本年も宜しくお願い申し上げます。
 正月の松飾りは未だ生長していない松の若木を伐り出し、門松飾りとして使用していますね。おめでたい正月灯かりの松飾りは、地元の山より採取を行って来たものであります。その昔、鳥取の田舎では父親と共に山に入り、松の若木、裏白、などを採取し、その時一緒に栗の若枝を切り取り、削って正月用の「祝い箸」としたことが懐かしく想われます。

大津留 直
 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
あらたまの年の初日の大阿蘇に差しはじめたる淑気これこそ

金子 敦
 明けましておめでとうごさいます。
「この山の」という措辞に、これから始まる一年の希望と期待の気持ちが感じられます。本年もどうぞよろしくお願いいたします(^^)

仲 寒蝉
 この山は故山ですね。今年もよろしくお願いします(^^)/

野島 正則
 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
お正月らしさを演出しているのですね。