2016年10月6日木曜日

天高く除染袋の肥ゆる秋 高野ムツオ

天高く除染袋の肥ゆる秋 高野ムツオ
「小熊座」10月号・東日本大震災五年記念特集。47人の作家が、特集に10句とコメントを発表しています。高野さんは、再び福島の被爆地を訪れた様子を記し、「人間は取り返しがつかないことを積み上げているだけである」と。除染土を集めた黒いフレコンバックの山を前にして、暗然としたであろう作家は、あえて「天高く馬肥ゆる秋」という、人口に膾炙したフレーズを用いました。そんな何の疑いもなく馬が肥えることはもうないのだと、あるのは、刻刻と積み上がる汚染土の山なのだと。
*今年3月、宮城県を訪れた際訪れた、津波の影響で廃校となった小学校。

2016年10月5日水曜日

香天集選後随想 「香天」45号のために

「香天」45号は、只今スピードを上げて仕上げの段階に入っています。ご購読の皆さまには、10月中旬にお届けできると思います。編集中に、「香天集」の追加がありました。また、「選後随想」を書き加えましたので、先に掲載します。岡田耕治

■香天集8月追加
澤本祐子
示談書の甲乙となり梅雨明ける
明易や寝るための糸逃しいて
満ち足りしひと日の汗を流しけり

灯を入れて淋しくなりぬ盆提灯

■香天集 選後随想 岡田耕治
これからは風のままなり破芭蕉  谷川すみれ
 夏の間青青としていた芭蕉の大きな葉が、次第に破れ始めました。風を受け、風を押し返してきたそれは、破れるほどに風のままになってゆく、そんな自在さがイメージできます。私たちの人生も、破れるほどに自在になるのかも知れません。

妻母姥粗方すませ目高飼う    加地弘子
 妻となり、子を産んで母となり、孫たちの面倒を見て姥となり、女としてなすべきことは「粗方」すんだなあという実感には、読む者の身を軽くしてくれます。そんな弘子さんが目高を飼い始めました。なんと手間のかからない、なんと清々しい。

炎昼のここに居りけり靴磨き   木村 朴
 人通りの多い地面に近い位置で、懸命に靴を磨く仕事は体力が勝負。炎昼であれば、駅前の日陰に陣取って靴が現れるまでじっとしている必要があります。ああ今日はこんなところに居たのかと、その靴職人を認める朴さんのこの視線が秀逸です。

手術後の一日にして髪洗う    羽畑貫治
 大きな手術をされた貫治さん。その後は、丁寧に経過を見ていく必要があります。しんどいなと思う日がつづくでしょうが、ましだなと思える日に、入浴だけでなく髪も洗うことにしました。時間と共に恢復に向かう作者の表現を心強く感じます。

冷奴薬味を溢れさせている    中辻武男
 よくある光景と言ってしまえばそれまでですが、武男さんのこの書き方に惹かれます。冷奴と言えば、われら庶民の食べ物。せめて、薬味を溢れさせて、「豪華な一品」に仕立てて、食べること、飲むことを愉しもうとする心意気が感じられます。

炎天を帰るカメラを熱くして   西嶋豊子

 炎天下に出かけて、やっと家にたどり着きました。荷物を降ろしますと、中でも黒いカメラが一際熱を持っていました。旅行でしょうか。カメラを持って出かけたハレのひとときが、収められた映像よりも先に、その熱さによって蘇ったのです。

秋団扇煽ぎて後は老いるのみ 大牧 広

秋団扇煽ぎて後は老いるのみ 大牧 広
「港」10月号・特集は大牧広第九句集『地平』。風呂上がりに団扇をよく使います。真夏には何時まで煽いでも引かなかった汗が、秋に入りますと、短い時間で団扇を置くことになります。そのどこか物足りないような、何か欠けているような感覚は、「老い」に通じるものだったことを一句は教えてくれます。「後は老いるのみ」、しかし「それも悪くない」と続いていくようなゆったりした「地平」が感じられる秀句です。
*泉南市内で見つけた鉢の破蓮。

2016年10月4日火曜日

「星月夜」15句 岡田耕治

星月夜   岡田耕治

眼球を温めている秋日影
一瞬を見失いたる竹の春
菊日和張本人が現れて
大門に入ると回れる秋日傘
後先を忘れていたり鶏頭花
蔦葛動物園を走りたる
風の色双方の窓開けてより
吊し柿特には話すことのなく
眠りたる人に冬瓜もたらされ
それぞれの眼を持ちて小鳥来る
思うほど思い出せない花薄
布の靴花野の中を歩みたる
街中を急ぎ始めて秋の川
台風の話をもって別れけり
真っ直ぐに星月夜から降りてくる
*京都市内の店に置かれてあった鉢植え

2016年10月3日月曜日

曼珠沙華とっても痛い形して 釜田きよ子

曼珠沙華とっても痛い形して 釜田きよ子
 香天集10月2日。曼珠沙華の形は様々に形容されてきました。形が印象深い句は、中村草田男の「曼珠沙華落暉も蘂をひろげけり」です。鮮やかで、美事な姿が浮かびますが、釜田さんはなんと「とっても痛い形して」と言ってのけました。あれだけ繊細に、あれだけ八方に開き続けるのは、さぞ痛いことだろうと。そう感じた作者の感性に拍手を贈ります。

香天集7月分〈追加〉
古澤かおる
捨てがたき靴の空箱夏の果
昼寝覚姉はたてがみ失いし
敗戦日元小学校の美術館
大移動したる一家の星月夜

「香天」45号の「香天集」を整理している時、古澤さんから
7月末に投句があったのを掲載していませんでした。
*京都の東本願寺前の曼珠沙華。

2016年10月2日日曜日

香天集10月2日 釜田きよ子、玉記玉、石井冴ほか

香天集10月2日 岡田耕治 選

釜田きよ子
台風圏煉羊羹をひと口で
鉦叩己の胸を打ちつづけ
蟷螂の三角貌の哲学者
曼珠沙華とっても痛い形して

玉記玉
年輪にぴったりはまる秋ついり
太刀魚をまっすぐ垂らし以下余白
流星の証拠まばたきする鏡
どれも硬くて人工島の柘榴

石井 冴
太陽の塔の真下の秋日濃し
観覧車コスモスの群動き出す
果てがない秋空廻す観覧車
八朔やサーカスの馬白く立つ

橋本惠美子
ベランダの端に偏り遠花火
秋の朝振れば進める腕時計
黍嵐嵩高きもの掻き集め
コオロギや絡繰りのある仕掛けとも

森谷一成
のりものの狭き軌道に夏の海
影を灼く広場を分科会場へ
昇降機待つ間のわれら飛蝗のごと
乾杯のグラスへ差して稲光

大杉 衛
メリーゴーラウンドを押し秋の風
ひぐらしの声を仕舞いて桐の箱
いわし雲ときどき鱗反射せり
夕暮となるどんぐりを分け合いて

浅野千代 
新しき秋を迎えにゆきにけり
君の食う林檎をむいているナイフ
長き夜の窓に三人顔を出す
とんぼうや子の髪を撫で飛びゆけり

北川柊斗
方舟の星座が渡り曼珠沙華
秋扇置かれしバーのカウンター
原罪を自罪としたり酔芙蓉
天牛のかるし悲しき音発す

木村 朴
中秋無月皓皓と白鷺城(はくろじょう)
ゆっくりと過ぐ台風を待つばかり
家のあるあたり木犀の匂いけり
落栗の一つ軌道へ出て来たる

今川靜香
電灯を消し月光の涼を受く
地の影をさらいては揺れ風の萩
少年に汗のボールを返しけり
明日からもことなく生きん洗い髪

中濱信子
一陣の風を厨に今朝の秋
生き合うて言葉を交わす秋彼岸
ポーチュラカ吊るして風のよく通り
案山子立つ中に黄色のヘルメット

浅海紀代子
ジンジャーを手折れば香失いぬ
幼子の声に囲まれ栗を剥く
曼珠沙華拒まれている赤さとも
野分去り鳥の声ある朝かな

越智小泉
ほどのよき隔たりのあり花芒
月光の方に向かいて膝正す
梵鐘の一打に秋の深まりぬ
流木は生木の匂い秋の朝

竹村 都
夾竹桃の向う銀翼見えてくる
墓参り酒と煙草を供え置く
児の浴衣開けるままに石の坂
何の日と問う児八月十五日

永田 文
紅色を残す切株小鳥来る
口中をしがしがさせて甘蔗
城跡を囲む山並鳥渡る
リズムよく梨剥いている二人の夜
*東大阪市で見つけた白い曼珠沙華。

2016年10月1日土曜日

人がみな鈍器となりて往く砂丘 江里昭彦

人がみな鈍器となりて往く砂丘 江里昭彦
「現代俳句」10月号。鳥取県に出張した際、鳥取砂丘に立ち寄り、砂丘事務所の堀田所長さんに案内してもらいました。立秋を過ぎたばかりでしたが、所長さん曰く「こうして眺めると海まで往って復ってきたくなると思いますが、やめた方がいいです」。実際に見えるイメージよりも、はるかに砂丘の歩行はキツいようです。まさに「鈍器」になって、果ては熱中症にかかる人が絶えない、とも。しかし、この世の「砂丘」は、そんなわけにもいきませんので、時に鈍器となっても往かなければなりますまい。
*8月に訪れた鳥取砂丘。