2018年9月7日金曜日

水馬ときどき匂う宇宙かな 久保純夫

水馬ときどき匂う宇宙かな 久保純夫
 句集『HIDEWAY』。あめんぼうが水面に足を張って、時に水面を滑るように進んだり、跳ねたりしています。その度に空気が揺れるように、匂うように感じられるのでしょう。それは、水馬と作者をつつむ宇宙が匂ったのだと、捉え方が解放されていくようです。バタフライ・エフェクトという言葉を最近知りました。小さな蝶のような揺らぎが、全体を変革していく大きな揺らぎに繋がる、と。水馬の滑走や跳躍がこの宇宙と繋がって、人類の加速を減速に転じてはどうかと、匂い始めているようです。

*鳥取県倉吉市にて。

2018年9月6日木曜日

きのうから戀をしている豆ご飯 久保純夫

きのうから戀をしている豆ご飯 久保純夫
 句集『HIDEWAY』。句集名のハイダ・ウェイとは、隠れ場所という程の意味で、純夫さんの場合は、例えば集中して俳句を作るためのホテルのバーなど。20章から構成された本書のどの章にも純夫さんが愛したホテルの名前が使われています。この句は、「白雨とインターコンチタル」所収。誰に恋したのか、何に恋したのかは書かれていないので、それを想像する楽しみを味わう間もなく、豆ご飯が供されます。日常の暮らしの、あらゆるものに関心を向け、愉しみながら、ハイダ・ウェイにて俳句にしてしまう、そんな最近の純夫さんの姿が彷彿とする俳句です。出張で鳥取に来ていますが、その往路、薄っぺらいけれども読み応えのある本句集を味わいました。

*鳥取県倉吉駅前にて。

2018年9月5日水曜日

サーファーを載せては崩る秋の波 夢積

サーファーを載せては崩る秋の波 夢積
 俳句大学。NHKの「奇跡のレッスン」で、サーフィンの「波は答えを知っている」という番組を興味深く見ました。7日間のレッスンによって、サーファーは確実に力をつけ、波の中に自分のサーフィンを見つけていきます。そのプロセスが、「載せては崩る」という表現にぴったりでした。しかも波は秋、一年中で最もサーフィンが上達する季節ではないでしょうか。

*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年9月4日火曜日

彼岸花今もどこかにごんぎつね 中野千秋

彼岸花今もどこかにごんぎつね 中野千秋
 俳句大学。小学校四年生で読み込む「ごんぎつね」は、ひとりぼっちの「ごん」と、ひとりぼっちになった「兵十」の物語。ていねいに読み取った情景は、多くの人の心に息づいています。ごんが兵十にとどける栗や松茸は、ちょうど今の季節、きっと彼岸花も咲いていたでしょう。兵十がごんを打ってしまう火縄銃の青い煙。千秋さんの彼岸花は、そのごんから流れる血の色とその再生を象徴しているにちがいありません。

*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2018年9月3日月曜日

「秋の海」12句 岡田耕治

秋の海  岡田耕治

新胡麻を擦り豚カツを持っており
レモン一滴秘伝のたれに落としけり
馬鈴薯や一つ一つが名づけられ
この菌食べてもきっと大丈夫
立ち枯れてゆく鬼灯の赤のほか
多目的トイレの灯火親しみぬ
ルルルルと電話を鳴らす夜長かな
秋灯下何度も本を落としけり
就眠の儀式に臨む虫の声
ジーンズのポケット膨らます木の実
秋の海耳が覚えていたりけり
同じシャツ三枚買って休暇明


*首都大学東京キャンパスにて。

2018年9月2日日曜日

香天集9月2日 玉記玉、森谷一成、石井冴、渡邉美保ほか

香天集9月2日 岡田耕治選

玉記玉
敗戦忌向かいの席に口ふたつ
葛きりのはじめまぼろし終わりまぼろし
初秋の水を一周しておはよ
シャガールの小鳥加速度的に青

森谷一成
旱星賭客が片を付けに来る
地(つち)灼けて腸(はら)に経口補水液
炎毒にふらつく恋の奴かな
ヒロシマの絵のまえ石に戻りたき

石井 冴
虫取網大きく風を掬うこと
立ったまま無花果すぐに食べ終る
無花果割る末の弟近くにし
無花果のひとりの時をべたべたと

渡邉美保
水底のご飯粒へもキャンプの火
立秋の路地抜けてまた路地に入り
復刊の和紙の手触り月見草
秋風に吹かるるだけの旅の駅

西本君代
大夕焼見知らぬ人と甲板に
やわらかく茗荷の花を刻みおり
秋茜小さな鳥のホバリング
秋の日の今は静かな保育園

浅海紀代子(7月)
紛れも無き今を晒して大西日
夜の秋杖を突く音身に返り
看護師を待つ蝉の声聞きながら
見舞客ぬっと夏日を連れてくる

浅海紀代子(8月)
痛みより醒めゆく手足遠ひぐらし
ひぐらしや作業着のまま会いに来る
病窓の雲追うばかり台風裡
芙蓉咲く今は声無き父母の家

釜田きよ子
夏座敷渦潮という和菓子置き
食卓に箸をそろえる終戦日
バーゲンに急いでおりぬ蟻の列
夏草や水の匂いを濃ゆくする

坂原梢(8月)
摂氏いま三十九度に水を打つ
魚屋の茄子の浅漬完売す
少年に戻りし祖父の甲虫
脳幹をきゅんと開けりかき氷

中濱信子
空家から解かれてゆく百日紅
凌霄花人に短き導火線
まっすぐな道の恐ろし入道雲
夏終わる振り子時計の進みがち

坂原梢(7月)
ワクチンを打つ養殖の鯛の夏
蜊蛄が爪立てて行く暴風裡
氾濫の泥にまみれて夏木立
川蜻蛉のせて笹舟流れつく

浅海紀代子(6月)
白南風や旅の鞄を遠くして
ひとときを「古事記」に遊ぶ遠蛙
わたくしの位置を確かめ夏至日影
日焼せし手話に大きく応える目

古澤かおる
夕立やこんにゃくに味しみていく
栗の花遠くに見えるマリア像
昨日より色褪せている金魚かな
打ち水や弟はまた泣かされて  

越智小泉
朝礼の短き訓辞カンナ燃ゆ
盆菓子や触れねば彩のあざやかに
黙祷の静寂汗の甲子園
絵日記の最後の素材地蔵盆

*新宿区大久保小学校、小泉八雲の地にて。

2018年9月1日土曜日

台風の煽りを受けて立ち上がる 大津留 直

台風の煽りを受けて立ち上がる 大津留 直
 俳句大学。強い台風がまた近づいています。この句、何が立ち上がったのか書かれていません。そこに読み手の想像が広がります。何か倒れていたものが立ち上がったのか、強風に飛ばされたものが飛んできたのか、はたまた作者自身が立ち上がったのか。台風には、大きな被害をもたらすマイナスの側面と、このように煽られて、囃されていくプラスの側面があるようです。
*阪急「烏丸」駅地下出口にて。