2019年2月4日月曜日

「大枯野」15句 岡田耕治


大枯野  岡田耕治

鍋焼へ眼鏡を外し幼くなる
爪先を弾ませている日向ぼこ
てっちりや鍋将軍が名乗り出て
革手袋すぐに記憶の蘇り
寒造栓を開けば気の通い
マスク取る前に笑顔を作りけり
寒紅に時のかからぬ若さにて
一時間ごとに出てゆく冬日向
課長のあと部長が急ぐ大枯野
牡丹鍋だけを目当てに集いけり
現金を使わなくなるマスクかな
冬苺大福餅が包みたる
行きつけの書店を無くす時雨かな
愛想のなくて何時もの燗の酒
ここに居るだけでいいよと日脚伸ぶ
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年2月3日日曜日

香天集2月3日 玉記玉、渡邉美保、森谷一成、柴田亨ほか

香天集2月3日 岡田耕治選

玉記玉
接点甘く掌と六花
山茶花から鶏の声行き詰まる
オキザリスまだ硬しカタカナ軽し
寒烏竹の切り口から真昼

渡邉美保
寒月光貝は素早く水を吐き
倒木の根こそぎの穴風花す
電話するときの大声日脚伸ぶ
大寒の末期の水となりにけり

森谷一成
制空の声ほこりかに凧
冬晴れを微分している観覧車
まびさしに寝ぼけ眼のマスクかな
竜宮のあぶくのごとく梅の花

柴田亨
踏まれいる邪鬼もろともに仏なり
母といた記憶はなくて寒雀
邂逅は刻まれし文字初時雨
霙降る正しきことのはざまにて

浅海紀代子
行く年の盗人萩に好かれけり
煤払い私の肺を新たにす
空という空を雲ゆく初茜
初明り六林男句集がここに待つ

宮下揺子
父の忌の冬のトマトを焼いており
冬日和川原の石に顔を描き
裸木の水吸い上げる音確と
ストーブがひとりの闇を深くする

釜田きよ子
霜柱日本昔ばなしかな
寒卵少しおどけてみたくなり
冬木の芽言葉育てておりにけり
ゆったりと毛布の海に沈みゆく

北川柊斗
ビー玉を透かす冬日の静けさよ
去年今年エンドロールの音消えて
福笹の屋台の軒をふれ行けり
寒夕焼こっぽりのゆく石畳

中濱信子
日光の直線にあり鏡餅
禿頭のあと白髪の初鏡
落椿約束のごと並びけり
寒桜花びらごとに日の差して

羽畑貫治
冬の暮ペダルを漕いで風となり
寒蜆流星群の渡りたる
鶺鴒の尾を振る走り厄払い
ピン球を弾ますラリー暖かし
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年1月30日水曜日

牡丹も我も最後は一火炎  長谷川 櫂

牡丹も我も最後は一火炎  長谷川 櫂
「俳句」二月号。「死の種子」と題された50句から、長谷川さんが自らの死と向き合われていると感じました。「PET検査」という前書きの句もありますから、がん細胞の位置を特定する必要があったのでしょう。検査結果に基づき、医師から余命を宣告されたのかも知れません。ドイツの哲学者ハイデガーは、人間は死という有限性に気づいたときはじめて、時間というものに自覚的になり、人生がかけがえのないものとして迫ってくると、「根源的時間」という考えを示しました。50句を貫いているのは、「根源的時間」に他なりません。枯れてからからになった牡丹も、この私も、最後は一本の火炎として終わるという、この静謐な眼差しに、命の終わりを自覚し、だからこそこの一日を生き切ろうとする意志を感じます。今後作者が生み出す一句一句を注視したいと、切に思います。
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2019年1月28日月曜日

「寒昴」12句 岡田耕治


寒昴  岡田耕治

口縄と名のつく坂のしぐれけり
遅れたる人を迎えて冬の梅
雑音の中を一筋霜の声
告げんとす寒夕焼の高さにて
寒梅を入れて思考を深めけり
モノクロになって寒中見舞着く
顔の皺増やし鏡の春隣
失敗を繰り返しては息白し
冬林檎手にした者が話し出す
どこにいたこんな大きな寒の鰤
霜の声生家に帰ること残り
寒昴車で暮らす人のこと
*大阪市内にて。

2019年1月27日日曜日

香天集1月27日 石井冴、谷川すみれ、橋爪隆子ほか

香天集1月27日 岡田耕治 選

石井 冴
やわらかくなるまで歩く冬林檎
裏側に回り焚火の手となりぬ
マスクしてビッグイシューを立たせたる
親鸞の言葉に迷う黒マスク

谷川すみれ
裂ける幹とぐろ巻く根と桜立つ
遠巻きにつつじが囲むステルス機
雛罌粟の思いの丈というがあり
しゃぼん玉追いかけてゆく消えてゆく

橋爪隆子
人波のひとしぶきたり初詣
水仙のうつむき海と空の青
着ぶくれて会話の中をさかのぼる
年末や隣のレジのよく進み

木村博昭
手袋と素手とつないで離さざる
天井へコルクを飛ばし女正月
寒暁のトランペットの祈りかな
隣国はいつも隣国冬怒濤

澤本祐子
初御空一羽の鴉旋回す
見慣れたる海山にして初景色
重箱洗う十三人の節客の
雪よりも冷たき雨となりにけり

辻井こうめ
かんつばきかんのんさまの閼伽の杯
負けを知る覇者晴れ晴れと寒桜
挨拶はひと言につき年酒酌む
初明り飛行機雲の太さにも

前塚かいち
アマモ揺れ冬日も揺れて里の海
読初や修司編著の童謡集
北欧の冷えを届けるムンク展
冷えている厨房に置き文庫本

岩橋由理子(12月)
柿干して二上山を捕らえけり
黍の飯アイヌの古老が届けたる
秋の夕漂流ポスト影まとう
先先や水引草に問うて行く

坂原梢
人参の山と積まれし夕日かな
冬霧につつまれてゆく桂川
年迎う八十路のガイドはつらつと
淑気満つ朝日をあびる大極挙

岩橋由理子(1月)
赤まんま駆け行く子らが踏み拉き
秋風やあっけらかんと過ぎ去りぬ
秋高し城も時間もひとり占め
旧姓に振り返りおり秋の暮

中嶋紀代子
寒椿鈍感力を磨きたる
横を向く侘助遠き日の方へ
野性味の蜜柑ごつごつ届きたり
黒を脱ぐ話はじまる初鴉

越智小泉
生きている実感寒の水通り
わが庭に一色点る冬薔薇
七種や東洋医学ここにあり
日脚伸ぶ坐してゆきたく鈍行で

北村和美
木枯やかすかに香る束ね髪
日向ぼこだるま絵本を読み聞かす
三十三才あちこちのぞく三才児
初東風のいつも通りの風の跡
*大阪市内にて、寒桜。

2019年1月25日金曜日

寒紅で記すことでもあるまいに 久保純夫

寒紅で記すことでもあるまいに 久保純夫
「儒艮」27号。松任谷由実に「ルージュの伝言」があって、バスルームに口紅で別れの言葉を残してきたという内容だった。歌は「あの人はもう気づく頃よ」と始まる。口紅で残される伝言というのは、もうそれだけでメッセージが含まれている。若い頃は、こんな歌なども聴いたり、口ずさんだりしたけれど、今になってみると、口紅で書くほどのこと、いや、書かれるほどのことは何も見当たらない。そんな気分は、淋しくもあると思われがちだが、当人はそうでもないのである。作者の回りには寒紅でメッセージを記す人がいるのだろう。それは、それでうれしいものだ。「記すほどでもあるまいに」という表現に、そんな両方の感情が含まれている。あえて、切れないで流れていく書き方もいい。
*池田市立ほそごう学園にて。

2019年1月21日月曜日

「枯野行」16句 岡田耕治


枯野行(かれのこう)  岡田耕治

ケチャップのはじめ冷たしオムライス
侘助を視て返答を待っており
自分から忙しくして耳袋
雪晴のボタンを押せば開きけり
ポケットを叩いて終わり枯野行
本を読むために授かる冬日かな
コートのままあおり高麗人参酒
寒灯や消し忘れたる中に覚め
交替の刻の近づく時雨かな
早梅やていねいな声返りたる
更けて明日阪神淡路震災忌
スノータイヤこのままにして履きつぶす
目標を定めていたる破魔矢かな
測りけり心拍数の雪女
寒雀始めを低く飛び去りぬ
寒灯のゆっくり点いて体育館
*大阪市の茶臼山にて。