2021年6月14日月曜日

耕治俳句鑑賞 仲寒蝉、桑本栄太郎、野島正則

体温を測るひととき百合匂う  耕治

仲 寒蝉
 いま体温を測るというのは緊張する瞬間かもしれませんが、コロナを離れれば意外とくつろいだ時間かもしれません。この主人公も百合の香りに注意が行くくらいの余裕はあるということでしょう。

桑本 栄太郎
 大学での講義にため人前で話す事も多く、毎日体温を測って万全を期されているのですね?朝のひと時、体温を測る間も、飾られた百合の花が香しい芳香を放っています。

野島 正則
 最近では、多くの企業の受付に、顔を枠に合わせて、瞬時に体温、マスクをしているのかまで表示する、鏡のような機械が置かれています。この句では、そのような瞬時に体温を測定できるのではなく、昔ながらの脇の下に挟んでちょと時間をおき、ピピッとなるまで待つ。このちょと待つ時間がひとときの措辞なのでしょうね。百合もきつい匂いを放っているのではなく、花も目覚めたばかり、すがすがしく香り、仄かに漂う、上品な香りであったのでしょうね。



2021年6月13日日曜日

香天集6月13日 玉記玉、柴田亨、三好つや子ほか

香天集6月13日 岡田耕治 選

玉記玉
奔放な髪が疲れるみどりの夜
リフレッシュ休暇トマト三個分
枕から昼の鳴き砂夏惜しむ
時映す鏡に蛇を祀りおり

柴田亨
夏の光脱いで寄り添う百済仏
縦横に世の果てからのつばくらめ
西日満ち東天淡く染まりけり
囀りの止んで群青拡がりぬ

三好つや子
新樹光鳥のことばを訳す子よ
脳すこし浮いてる八十八夜かな
木耳に誘われている暇はざま
走り梅雨からだにふっと火打石

中嶋飛鳥
サングラス火種の一つ明らかに
虹の脚げんこつ合わせ乞う暇
たまゆらのカミングアウト緑の夜
青水無月くすり指より疲れ来る

小﨑ひろ子
紫陽花の蕾どこまでも緑
風入れてシャツのふくらむ夏の前
喜びて視る木の花の名を知らず
鴨集う豪雨のあとに中洲あり

櫻淵陽子
検温器反応しない夏夕べ
西日中相槌を打つ君のゐて
顔晒すキャンプファイヤー流れ星
山小屋の壊れたままの扇風機

岡田ヨシ子
蓮華草小学校まで歩きゆく
夏来る卒寿の日々の早さにも
浮かびくる麦藁帽の人の名前
薄ピンク西瓜を食べしマスク染め
*大阪教育大学柏原キャンパスにて。

2021年6月11日金曜日

耕治俳句鑑賞 牧内登志雄、十河智 

籐椅子や心のままに求めたる  耕治

牧内 登志雄
「心のままに」籐椅子に身体を預ける心地よさ。都の職員だった父は時に狭い部屋に、分不相応ともいうべき大きな買い物をしてきた。子供心に覚えてるのが大きな電蓄。初めて聴いたレコードはハリー・ベラフォンテの「バナナボート」だった。
 やがて、レコードを聴くために買ってきたのが、これまた大きな籐椅子。子供には大きすぎる籐椅子に座ると、ギシと軋む音とかすかな煙草の匂い。そんな籐椅子でベラフォンテの「ダニーボーイ」や「ハヴァナギラ」を聴いて、少し大人の気分になった子供の頃を思い出した。


十河 智
「心のままに」この句の焦点はここにあるようです。うちの祖父母の家にも縁側に使い古して少し破れかけた籐椅子がありました。祖父は座布団にあぐら、祖母がよく籐椅子に凭れ掛かっていました。「心のままに」座し、立ち上がるのも、「心のままに」でした。
「求めたる」心具合、気分が籐椅子を求めていると、そして安心を得たと解釈しました。



2021年6月10日木曜日

耕治俳句鑑賞 大井恒行、仲寒蝉、十河智、野島正則

改造社版歳時記の黴開く  耕治

大井恒行
改造社版は現代の歳時記の基本型になっていて、本意 解説 もすぐれ、出典明記、なれど、俳号しか記されておらず…など記憶していますが、一昨年の断捨離ですべて処分しました。

仲 寒蝉
これ、めちゃくちゃ面白いですね!俳句史的なことも分かるし、何より「黴開く」という措辞が秀逸すぎます(^^)/

十河 智
岡田先生、改造社版歳時記、古い書物と皆さんのコメントで知りました。手にしていられるのですね。今は梅雨時、ホントは干してから読み進みたいけど、心が早くと急かすのでしょう。「黴開く」、がそう言っているように思いました。

野島正則
歳時記は、俳人にとって、唯一のよりどころ。歳時記を手に取り、季語の本意を探るのは、基本ですね。今では、貴重な改造社版『俳諧歳時記』。書を曝すなど、とても大事に使っているのでしょうね。昭和八年、改造社版『俳諧歳時記』。それ以前の俳句歳時記と一線を画し、百科事典的といっていい質と量の季語とその古書校注や季題解説、当時としては異例の、近世以来の例句が多く載せられているという。植物については、牧野富太郎博士の参加、季題解説・実作注意・例句担当は、高濱虚子、青木月斗、松瀬青々、大谷句佛。古書校注も錚々たるメンバー揃い。歳時記というよりは、百科事典のような扱いに、虚子は満足していなかったようですね。



2021年6月6日日曜日

香天集5月30日 辻井こうめ、渡邉美保、森谷一成ほか

香天集5月30日 岡田耕治 選

辻井こうめ
極上のみどりそれぞれ五月来る
花桐や遺りし母の一張羅
麦笛や逢ひたい人に逢ひにゆく
燃料を売る古民家の諸葛菜

渡邉美保
手囲いのはえとりぐもをころがせり
青梅煮る火を細うして紙の蓋
ペン皿に鉛筆並べ新樹の夜
実桜に右手汚してしまひけり

森谷一成
跼蹐の眸にふれる蝶の息
蹠と尻いっぱいに競漕す
競漕の声一斉に点滅す
吹奏のぽつんぽつんと春の暮

中濱信子(5月)
小手毱や遊び相手の風きえて
柿若葉女すばやく隠れけり
手のひらに使う包丁春嵐
筍や列島強く吹かれいる

中濱信子(4月)
朧月仕切りの粗き露天風呂
頬杖をつけば桜の揺れはじむ
初蝶やピアノ塾より蝶ちょ蝶ちょ
葱坊主納得のゆく丸さです

楽沙千子
太子像夏帽を脱ぎ真向かいぬ
声変わりして入学の知らせ来る
飽食に坑していたり土筆飯
終点とする囀の雑木林

永田 文
水の里山毛欅の若葉は水しぶく
借景は葉桜として山に帰す
両の手に抱いてあふれる牡丹かな
花びらの撓みに蝶の翅やすめ

中辻武男
冬麗の富士に教わる卒路かな
冬の旅吾子の弁当味わいぬ
マスクして車外の景色身にしみる
生き尽くし敬を忘れぬ吾が命
*岬町小島にて。

耕治俳句鑑賞  野島正則、十河智、大津留直

新樹光胸を濡らして水を飲む  耕治
野島正則
 みずみずしい新樹から零れる光。この胸を濡らしているのは、今飲んでいる水ではなく、新樹から漲る生命力であり、弾けんばかりの若さでもあるように感じました。

夏草のまず抜かれたる不在かな  耕治
十河 智
 訪ねていったのに、でかけて留守。親しいお友達でしょうか。庭の手入れも良くする方のよう。梅雨時に、まず草は抜いてあると庭を見ている。少し待ってみようか、思案中なのでしょうか。

老いてゆくことの涼しき体かな  耕治
大津留 直
 この句のポイントは、「体」。自分は老いを受け入れがたく思って悩んだりしていても、体は老いに徐々に慣れてきて、けっこう涼しげに受け入れてしまっている。そんなことは、誰にでも起こっていることなのだが、いざ句に詠うとなると、長年の修練が必要。素晴らしい句です。



香天集6月6日 久堀博美、夏礼子、前塚かいち他

香天集6月6日 岡田耕治 選

久堀博美
一瞬を輝いてありあごの翅
鉄錆のにおいの中を蟹走る
ひとときは空が開けて滝飛沫
さみだるる美しく且つおそろしく

夏 礼子
芍薬や真昼のしじまわがものに
花桐や無名兵士の墓を訪う
植田風透明という色のあり
幼子を真似るくちびるサクランボ

前塚かいち
ワクチンの不安・安心薄暑光
百態の猫の寝姿梅雨に入る
短夜の猫の外出許しけり
梅雨晴間植木鉢にてねまる猫

浅海紀代子
部屋中をおもちゃに代える子猫かな
囀の大樹より今日始まリぬ
山法師散り敷く夕べ夢の跡
夫と居し歳月遠く枇杷熟るる

安部礼子
引き出しのⅠセントコイン夏来る
青竹の四隅と祝詞柿若葉
梅雨寒に眠る電池を外しいて
覆われていたのは時代蚊帳のあを

嶋田 静(4月)
春ショール纏いなおして本題に
髪切りてまぶしき街や花ミモザ
犬ふぐり見てうどん屋に入りけり
おぼろ月幼き妹かけて来る
 
河野宗子
双眼鏡小梅が位置を知らせたる
夏来る両足しかと土を踏む
雲紫陽花やステイホームは毱のなか
金平糖新茶をすする小さな手

嶋田 静(5月)
五月雨や机に並ぶ紙とペン
正座して新茶の甘み受けており
春の雨ユンボにもある休みの日
楠若葉真直ぐ一年生が来る

吉丸房江
早苗田に吹いてきれいな風となる
家四方開け放ちたる若葉かな
川音の低くなりゆく走り梅雨
五月雨の十色を超える傘の色
*岬町小島にて。