香天集3月19日 岡田耕治 選
玉記玉
風車回して風の行きにけり
蝶以前合せ鏡でありしこと
菰巻いて蘇鉄は蘇鉄通しけり
声にせぬ言葉を愛し花辛夷
柴田亨
遠き日をそのままにして石蕗の花
漆黒の故郷のあり蛍烏賊
春休み猫は居場所を決めている
信号の青を連れ立ち春の雨
三好広一郎
ミルク膜情死している花筏
ふむふむと賛成多数桜餅
飛花落花名札の変わる病室に
スライダー東風に食い込む16番
渡邉美保
梅ふふみ刀剣展の刃反る
盆梅の幹の捻ぢれる時空かな
緋桃咲く電車の扉開くたび
蝶の来て座敷牢めくこの書斎
木村博昭
ランナーは前だけを見て菜の花忌
声に出し笑う独りの日永なる
パティシエの大きな帽子花苺
前後みな忘れてしまい囀れり
砂山恵子
トスあげし少女のリボン風光る
梅を見る有刺鉄線二度潜り
朧夜のわたし専用フライパン
ありがとうとかかれたる絵馬あたたかし
安部いろん
三月の雲会えぬこと知っている
先生に指されたように菖蒲の芽
染みのように残る記憶が春愁
隣り合う酒乱が解く春の闇
秋吉正子
堺にも海岸のあり桜貝
春立ちぬ修理の終わるバイオリン
学校の何処にも隅がクローバー
梅の花昨日の数を追い越しぬ
中田淳子
忘れ物取りに戻りし椿かな
微笑をたたえていたり雪椿
北岡昌子
梅の木を植えて一回水をやる
本殿から節分の豆撒きにけり
大里久代
遠くまで菜の花ゆれて遊びけり
幾年を桜咲く道君とゆく
*東京上野にて。
香天集3月12日 岡田耕治 選
釜田きよ子
最後には無色となりぬ流し雛
何処迄危険水域浮寝鳥
猫柳川は光を生むところ
のどけしや定位置に物置かぬ癖
三好つや子
紅梅をやきもきさせる男の子
春が来るチャーハンという即興詩
風光るヒエログリフの刺繍かな
三月の声のちらばる袋菓子
楽沙千子
語り継ぐことの増えたり実万両
潜り戸を開けていたりし寒見舞
外出を控えていたり枇杷の花
寒明ける万年筆の走り書
春田真理子
立山の白に青沿い初電車
若水の柄杓を託す人のあり
水仙の水を澄ませてりん鳴らす
約束の四月を前に医院閉づ
宮崎ちづ子
冬灯追憶のジャズ響きたる
日向ぼこ猫の親子が夢の中
うたた寝に添い寝の猫の重さかな
千切れ飛びまた寄り合うて波の花
上田真美
パンジーが添えられてありパンケーキ
桜餅思い出したる巣立ちし子
梅の花きらりスポットライトかな
草餅やたたかう生の気高さよ
香天集3月5日 岡田耕治 選
久堀博美
不穏なること片隅の梅ま白
軽くなる初蝶の黄に遭いてより
芽吹山つぎはぎのまま広がれる
春愁の波止場を鳴らし紙テープ
谷川すみれ
レジ袋浮くぞわぞわと春の川
冴え返る瓶の異物の深い淵
鳥雲に嫌いな兄を紛失す
牡丹雪屋根の形をなぞりつつ
森谷一成
白息のゴジラをまねる厠かな
瓶の口吹けば裏山なだれたる
攻めずしてふぐり守れぬ二月尽
便便と三味線草の遊ばれし
佐藤俊
五音七音十七文字の奇数の春
げんげ田は記憶の箱のいくつめに
忘却は人の進化か多喜二の忌
名刺無くネクタイ締めず暮の春
宮下揺子
冬日射す診察台のぬいぐるみ
静脈を探す指先冬日影
冬空へ二列になりたがるペンギン
着ぶくれて尚着ぶくれる母の背
神谷曜子
これからは自分流なり雑煮食む
初稽古体の芯が定まらぬ
悴んで東照宮の今日を踏む
蝋梅の透明な刻通り抜け
垣内孝雄
ちやりんこをとばしてゆけり春の風
わだつみの泪ひとつぶ桜貝
春の雨棚田つららく里に居て
啓蟄や管をきれいにする薬
藪内静枝
供華の梅開き大日如来様
侘助の粋な一輪葉の艶も
春寒のやわらかくなる日のかけら
穏やかに庭に一条日脚伸ぶ
吉丸房江
立春の二文字ふいに近くなる
しゃぼん玉子のほっぺたもしゃぼん玉
風の中ひょいと伸びたりチューリップ
野や山や芽出しの雨となりにけり
*岬町小島にて。
香天集2月26日 岡田耕治 選
中嶋飛鳥
春萌す眼差し直ぐな土人形
眼鼻散らばりきさらぎの泣く女
春の雪返事を待たず傘開く
中腰の一掬い足す春の土
玉記玉
十二月八日ピザ遠くからやってくる
難解なつらつら椿から論破
声明を断ち割る雪のしずりけり
バイエルは直線残雪は曲線
河野宗子
指先の血豆の赤に雪降り来
ゆでたての卵をにぎる寒夜かな
雪解やコンクリートをたたく音
春の山未知を登ってみたくなる
田中仁美
これは私へバレンタインのチョコレート
店長の大声一つ桜餅
春スキーリフトを降りて転がりぬ
絵の具溶き色を重ねる春景色
岡田ヨシ子
春きざす曾孫五人の男の子
本畳むきっかけとする猫の恋
一番刈り若布の芯を煮るとする
うぐいすや畑のあとの竹林に
*岬町小島にて。
香天集2月19日 岡田耕治 選
三好広一郎
3Lのセーターキミを守りたい
日脚伸ぶ動く歩道はすぐ終わる
ストーブに保証書のない心臓
虹色の錠剤を切る春炬燵
柴田亨
永き日の鬱っぽくなる靴の紐
風のなか散りながら咲く山茶花よ
水鳥のぷかりさびしき夢を見る
くずきりの黒蜜のあととっぴんしゃん
石井冴
女正月鰯せんべい割れ易く
どの木にも巣箱の架かる鼓動かな
薄氷をつつく人差指の微力
春ごたつ時時出てくるお坊さま
夏礼子
鐘の空枯れの漂いはじめけり
寒満月言いたいことは明日にする
雪しぐれ二者択一を迫られる
臘梅の光の影を遊びたる
加地弘子
雪だるま子どもの声のする家の
真っ先に無口な父の凧揚がる
寒の水音立てて飲む咽のあり
蜜柑挿し鳥語の集う朝かな
木村博昭
遠火事とおもえば列島火の匂い
入学試験ひとりひとりの息づかい
あい寄りて蕩けていたる雪だるま
崩れ落つ土蔵に眠る土雛
嶋田 静
誰の声聞いているのか花八手
十二月馴染みの店の閉店す
初みくじゆるく結んで帰りけり
恵方道大きな熊手動き出す
古澤かおる
犬小屋のネームが変わり春隣
本線を離れ支線の春立てり
残る雪駅舎を鳩のせわしなく
百の椅子半分埋まり卒業す
玉置裕俊
おいらくのはじめの一歩冬木の芽
漆黒や白い綿毛の仔猫来る
瓦礫越え出てゆく君に梅の白
剪定の済む松につく人心地
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。
香天集2月12日 岡田耕治 選
久堀博美
立春の玄関に箱置かれあり
思い切り躁に近づき半仙戯
春の闇加湿器の湯気吸うている
桃の日の門扉大きく開きおく
三好つや子
縞馬の縞の数式冬うらら
春を待つ蛹のあまた絵本室
定位置に戻らぬ鍵や二月来る
早春の光の素描のよう雀
砂山恵子
紙コップに握り癖ありつちぐもり
思ひ出をつぶやきながら花種蒔く
風の吹く海思ひ出す目刺かな
初蝶の門を出るまで見送りぬ
釜田きよ子
内情はとても苦しい浮寝鳥
昨日まで波と戯れ煮凝りぬ
白鳥と黒鳥と居て相寄らず
溜息をつく度雪の深くなる
楽沙千子
マイナンバー申請を待つ厚着かな
気配なき集落のあり歯朶を刈る
大寒の禊にふるう拳かな
好き嫌いなくて余生や粥柱
春田真理子
山のあり金柑の実を浮き立たす
龍の玉姫のたまはる耳飾り
亡き夫の箸を取り出す雪の花
日蓮と親鸞おがむ冬林檎
牧内登志雄
ペコちゃんの赤いリボンや春うらら
旅籠屋の屏風に残り多佳子の句
日脚伸ぶドールハウスのテラス席
千トンの硝子の海や鮫ゆうゆう
秋吉正子
鏡餅どこへも行かず誰も来ず
スポンジを替えて雑煮の椀洗う
大里久代
節料理笑顔集まる善きことも
節分の払いを受けし御札かな
香天集2月5日 岡田耕治 選
渡邉美保
狐火を口に含むは遠つ祖
愛日や鳩の胸元光り合ひ
雪催組立て家具の螺子余り
鳥籠によくしゃべる鳥日脚伸ぶ
浅海紀代子
老人と呼ばる安心枇杷の花
冬霞近くの墓地を遠くして
寒の月少し一緒に歩きたし
手に残る別れの握手花柊
辻井こうめ
ハーシーチョコ少年老いる十二月
二つ三つ小事のおこり晦日蕎麦
司書の選る秘密の二冊福袋
篝火の光に応ふ冬木の芽
宮下揺子
苦しみを飲み込んでいる冬青空
近道はしない質なり花柊
出来栄えを褒め合っている冬帽子
干し柿を提げて電車を乗り換える
楽沙千子
庭の菜を摘みて俎始めかな
七種を土産としたる笑窪かな
仏壇の鉦の澄みたり年新た
毛筆と決めるこだわり初景色
嶋田 静
小鳥来て私の一日始まりぬ
秋深む兄姉妹一人ずつ
法名をたまわっている小春かな
まどろみの光の中の小春日よ
河野宗子
初夢や友と長蛇の列にいる
大寒や宅配便は朝届き
ササールの古き映画よ冬菫
ワイパーに手袋を干す日向かな
田中仁美
友からのスープが届き冬深し
どこまでもひざ掛け毛布ついてくる
ぜんざいを一人で食す神の留守
寒に入る肩甲骨を寄せており
垣内孝雄
晨朝の宝号わたる冬木立
蝋梅の香でもてなす母のあり
草青む犬に曳かるる通ひ道
ねんごろに猫の頭を撫づ実朝忌
吉丸房江
かき餅を火で焼く香り幼の日
母を恋うことの一つに白菜漬
手のひらを重ねていたる火鉢かな
葉牡丹や天の光が渦を巻き
*紀州加太にて。