2023年4月16日日曜日

香天集4月16日 柴田亨、渡邉美保、三好広一郎ほか

香天集4月16日 岡田耕治 選

柴田亨
この国の寂しさを打つ蘆の角
籠りきる私は卵春の雨
さらさらと小さい電車風光る
沈丁花おいてきぼりの恋のこと

渡邉美保
秒針の描く真円春深む
口笛を吹きつつ降りる椿山
春光を返しふくらむ瓦斯タンク
夕映えの空に古巣の高くあり

三好広一郎
入学やいきなりパンツ見られけり
飛花落花明日を掴むものがない
春暁や充電足らぬ人である
見頃期を決められて生く桜かな

久堀博美
さよならは桜並木を標とす
行く春を呼び止めている和歌の浦
春の土涸びし脳をよろこばす
連翹の黄に三人のひみつ隠す

辻井こうめ
ゆるやかに薄絹ほどく桜漬
水際よりホルンの響き花菜かな
山吹の小流れの音恋ひにけり
菱形の口の限界燕の子

木村博昭
前後みな忘れてしまい囀れり
声に出し笑う独りの日永なる
廃線の噂菜の花蝶に化す
パティシエの大きな帽子花苺

釜田きよ子
葱坊主みんな憎めぬ顔をして
消印は当日有効花吹雪
もの言わぬ臓器のしゃべる花明り
わたしには私のリズム囀りぬ

河野宗子
ふるさとの銘菓の形ひなまつり
洗濯機回してまわる春日向
春暁の爪を切る音ひびきけり
老いし腕差し伸べ合えり冷し酒

田中仁美
絆創膏ほほに貼りたり春日向
植木市店主ただ今読書中
チューリップ笑顔の顔を合わせけり
点滴を早めていたり朧月

牧内登志雄
満開もあれば残花も秋津洲
Tシヤツに乳首のありて柿若葉
霾るや空缶潰す背中にも
野に遊ぶ尻ポケツトのスキツトル

川端伸路
すももの花栄養とって満開だ
明るさに見上げてみれば春満月

川端大誠
花の雨小学校にさようなら

川端勇健
春風に乗って大きなホームラン
*岬町小島にて。

香天集4月9日 三好つや子、辻井こうめ、浅海紀代子ほか

香天集4月9日 岡田耕治 選

三好つや子
死後すこし口角あがる春の月
姉というクラスメートや花杏
永遠に試むかたち鶯餅
円を描き円を出られぬ水馬

辻井こうめ
補助輪のピンクを外す春野かな
花吹雪母もろともに磨崖仏
この木より始まる仕事山桜
シャンソンの生まるる堰や春の月

浅海紀代子
忘れゆくことの早さよ春の雪
春の暮煎じ薬の臭いけり
踏ん張りの効かぬ一日雪柳
朧夜の辿りゆきたる脳死論

宮下揺子
なだめつつ母を連れ出す寒桜
朧の夜父の枕を子が抱いて
本当の顔を知らずに卒業す
春の雨「レインツリー」を読み直す

春田真理子
アボカドは太古のかたち春の皿
土佐水木鈴を鳴らして登校す
窓磨く四月の蒼の抜けるまで
今さらの遺留分にて涅槃西風

小崎ひろ子
青ざめて咲く桜花
夕照を確かに見たと垂れ梅
梅開く書棚の奥の歳時記に
菜種梅雨目当ては本じゃありません

垣内孝雄
雛あられ一人娘もはや初老
ひと尋の光をぬうて初蝶来
先生の朝の挨拶ヒアシンス
卒業のボード給食当番表

玉置裕俊
のどけきに検査ばかりを求む医師
振り返るマスク姿のおもひびと
ひなげしや声出ぬ我を笑ひゐて
桜舞う気鬱の君の長電話

北岡昌子
古木から今年の花を咲かせけり
茎若布佃煮にして少なくなる

川村定子
開花予想去年と同じ日に決まり
院寒し心臓の音聞いており

秋吉正子
化粧する顔のあらわれ春の昼
マスク取り胸いっぱいに春を吸う

大里久代
花びらの水面を照らす月のあり
見守りし子らの背中に梅の花
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2023年4月2日日曜日

香天集4月2日 谷川すみれ、中嶋飛鳥、森谷一成ほか

香天集4月2日 岡田耕治 選

谷川すみれ
春きざすビルに波立つものの影
棘の血の溢れてきたり木の芽時
薄氷触れれば君の声がする
まざりあうあなたとわたし花菜漬

中嶋飛鳥
春の雪返事を待たず傘開く
逃水に足をとられる間柄
春昼のコーヒーの香と和綴本
大空へブランコ問いを躱しおり

森谷一成
詐りの脳天へ降る猫の恋
啓蟄の過ぎて万年されこうべ
自ずから水のかたちに原発忌
ぽっかりと夜間飛行の冴返る

浅海紀代子
冬夕焼信号の間も老いゆくか
咳ひとつ一人の闇に吸われけり
ほどけゆく紐の先より春の闇
初蝶の袖袂には触れず消え

辻井こうめ
アネモネの一重一輪小瓶かな
前略に続く二行の梅便り
本流を逸れてくるめく椿かな
水取の漆黒の時炙りけり

佐藤俊
連翹や人にさからう歳となる
魍魎の頬赤らみて春の宵
紅梅の夜の吐息はとまらない
本題に入れずに居る春あらし

神谷曜子
燦めきの流されてゆく春の川
雛しまう妣の恋文如何にせん
建国記念日旧友と会う日差
春の雪昭和生まれの顔をして

湯屋ゆうや
春場所やアイロンがけの手を上ぐる
花曇弓放つ音間遠なり
初蝶の防音壁を越えんとす
昼の野に蝶という蝶揮発する

藪内静枝
今しがた見送りし人鳥雲に
雛あられ雛人形を飾らずも
野良猫は沈丁の香に酔うたるか
残る鴨日暮はあおしただあおし
*大阪教育大学天王寺キャンパスにて。

2023年3月26日日曜日

香天集3月26日 石井冴、夏礼子、加地弘子ほか

香天集3月26日 岡田耕治 選

石井 冴
水陽炎少しばかりの餌をねだり
本物の鰓持つものと春の夢
一軒の本屋とどまり涅槃西風
山脈のここが終点春の水

夏 礼子
星の名のいつもあやふや寒明ける
春立つや見えないままのもの動く
一輌は私と春の日差しかな
足音を確かめている紙雛

加地弘子
腹筋を大切にして春を待つ
ぶらんこを漕がずに揺らす二人かな
集まれば経の流るる春障子
草叢に干されておりぬ蝌蚪の紐

河野宗子
春日影背中にあびて列車待つ
それぞれの蕾の固さ梅の里
二月尽ベビーソープの香りさせ
日輪を避けてこもれる日永かな 

嶋田 静
青空の涙風花てのひらに
天気図に予定を合わす四温かな
枇杷の花小さな声の聞こえおり
山笑うまず鉄塔に朝日受け

古澤かおる
春の雨紅茶カップを選びおり
朝方の指のこわばり牡丹の芽
春炬燵ピザのチラシで箱を折る
日永し港に近い石丁場

田中仁美
春の風多々羅大橋漕ぎ急ぐ
春光や子の自転車に追いつかぬ
花粉症自転車を漕ぐ頬染まり
行列の最後を探す春日向 

岡田ヨシ子
春彼岸ローソクゆらす独り言
山桜二人を迎えくださいと
面会が可能となりし桜かな
さくらんぼ蒔きて大きく二十年

牧内登志雄
花冷の中を嵐電がたごとと
墨染の走り抜けたる春の雨
残り香を追ふてもみたき木の芽風
春の闇狐の面の赤き耳
*和歌山市加太にて。

2023年3月19日日曜日

香天集3月19日 玉記玉、柴田亨、三好広一郎、渡邉美保ほか

香天集3月19日 岡田耕治 選

玉記玉
風車回して風の行きにけり
蝶以前合せ鏡でありしこと
菰巻いて蘇鉄は蘇鉄通しけり
声にせぬ言葉を愛し花辛夷

柴田亨
遠き日をそのままにして石蕗の花
漆黒の故郷のあり蛍烏賊
春休み猫は居場所を決めている
信号の青を連れ立ち春の雨

三好広一郎
ミルク膜情死している花筏
ふむふむと賛成多数桜餅
飛花落花名札の変わる病室に
スライダー東風に食い込む16番

渡邉美保
梅ふふみ刀剣展の刃反る
盆梅の幹の捻ぢれる時空かな
緋桃咲く電車の扉開くたび
蝶の来て座敷牢めくこの書斎

木村博昭
ランナーは前だけを見て菜の花忌
声に出し笑う独りの日永なる
パティシエの大きな帽子花苺
前後みな忘れてしまい囀れり

砂山恵子
トスあげし少女のリボン風光る
梅を見る有刺鉄線二度潜り
朧夜のわたし専用フライパン
ありがとうとかかれたる絵馬あたたかし

安部いろん
三月の雲会えぬこと知っている
先生に指されたように菖蒲の芽
染みのように残る記憶が春愁
隣り合う酒乱が解く春の闇

秋吉正子
堺にも海岸のあり桜貝
春立ちぬ修理の終わるバイオリン
学校の何処にも隅がクローバー
梅の花昨日の数を追い越しぬ

中田淳子
忘れ物取りに戻りし椿かな
微笑をたたえていたり雪椿

北岡昌子
梅の木を植えて一回水をやる
本殿から節分の豆撒きにけり

大里久代
遠くまで菜の花ゆれて遊びけり
幾年を桜咲く道君とゆく
*東京上野にて。

2023年3月12日日曜日

香天集3月12日 釜田きよ子、三好つや子、楽沙千子ほか

香天集3月12日 岡田耕治 選

釜田きよ子
最後には無色となりぬ流し雛
何処迄危険水域浮寝鳥
猫柳川は光を生むところ
のどけしや定位置に物置かぬ癖

三好つや子
紅梅をやきもきさせる男の子
春が来るチャーハンという即興詩
風光るヒエログリフの刺繍かな
三月の声のちらばる袋菓子

楽沙千子
語り継ぐことの増えたり実万両
潜り戸を開けていたりし寒見舞
外出を控えていたり枇杷の花
寒明ける万年筆の走り書

春田真理子
立山の白に青沿い初電車
若水の柄杓を託す人のあり
水仙の水を澄ませてりん鳴らす
約束の四月を前に医院閉づ

宮崎ちづ子
冬灯追憶のジャズ響きたる
日向ぼこ猫の親子が夢の中
うたた寝に添い寝の猫の重さかな
千切れ飛びまた寄り合うて波の花

上田真美
パンジーが添えられてありパンケーキ
桜餅思い出したる巣立ちし子
梅の花きらりスポットライトかな
草餅やたたかう生の気高さよ
*岬町小島にて。


2023年3月5日日曜日

香天集3月5日 久堀博美、谷川すみれ、森谷一成ほか

香天集3月5日 岡田耕治 選

久堀博美
不穏なること片隅の梅ま白
軽くなる初蝶の黄に遭いてより
芽吹山つぎはぎのまま広がれる
春愁の波止場を鳴らし紙テープ

谷川すみれ
レジ袋浮くぞわぞわと春の川
冴え返る瓶の異物の深い淵
鳥雲に嫌いな兄を紛失す
牡丹雪屋根の形をなぞりつつ

森谷一成
白息のゴジラをまねる厠かな
瓶の口吹けば裏山なだれたる
攻めずしてふぐり守れぬ二月尽
便便と三味線草の遊ばれし

佐藤俊
五音七音十七文字の奇数の春
げんげ田は記憶の箱のいくつめに
忘却は人の進化か多喜二の忌
名刺無くネクタイ締めず暮の春

宮下揺子
冬日射す診察台のぬいぐるみ
静脈を探す指先冬日影
冬空へ二列になりたがるペンギン
着ぶくれて尚着ぶくれる母の背

神谷曜子
これからは自分流なり雑煮食む
初稽古体の芯が定まらぬ
悴んで東照宮の今日を踏む
蝋梅の透明な刻通り抜け 

垣内孝雄
ちやりんこをとばしてゆけり春の風
わだつみの泪ひとつぶ桜貝
春の雨棚田つららく里に居て
啓蟄や管をきれいにする薬

藪内静枝
供華の梅開き大日如来様
侘助の粋な一輪葉の艶も
春寒のやわらかくなる日のかけら
穏やかに庭に一条日脚伸ぶ

吉丸房江
立春の二文字ふいに近くなる
しゃぼん玉子のほっぺたもしゃぼん玉
風の中ひょいと伸びたりチューリップ
野や山や芽出しの雨となりにけり
*岬町小島にて。