香天集10月15日 岡田耕治 選
中嶋飛鳥
秋の声手斧の跡のうすくあり
空耳に深入りしたる芒原
前へ出ることを考え力草
草の絮行過ぎもどる坂の空
柴田亨
廃屋を畳む時来る鵙高音
霊園のりんどうとして生き返り
亀の池魂魄数多涼新た
梨を噛む地下水脈はそこここに
三好広一郎
夕焼とカラス見ていて柿になる
剃刀研ぐ老理容師の余寒
文化祭弁当付きの招待券
替え芯の芯がまた無い秋の夜
久堀博美
アナログを全開にして鳥渡る
灯を消すや影の残れる虫屋敷
台風の真っただ中のチャイムかな
霜の声ひと日の終る水使う
春田真理子
わからないテープの端緒秋日影
色変えぬ松を伐るこそ哀しけれ
きらきらと歌ひていたる良夜かな
床板に坐し水仙と対峙せり
小島守
邯鄲や骨の模型を鳴らしいる
柿紅葉手をつけないでおりにけり
ポケットの鍵鳴りやまぬ薄かな
後の月時に見えなくなる対話
*岬町小島にて。
香天集10月8日 岡田耕治 選
三好つや子
蜻蛉の影が蜻蛉追いかける
さりげなく異見をはさむ秋扇
つじつまの合わぬ一日よ梨の芯
長き日のときどき訛るラジオかな
嶋田 静
パッと開きパッと消えゆく大花火
七色の花火の消えてゆきし闇
空き地への風に誘わる蜻蛉かな
秋の虹囲まれている嬉しさよ
川村定子
自販機の音にちちろが鳴くを止め
聞き慣れぬ単語を放つ芋煮かな
風の無き夜に散りゆく百日紅
千年の闇をまばらに秋日影
秋吉正子
間引菜よ朝昼晩と食べ尽くす
いつまでも拗ねているなり青レモン
秋夕焼全速力でペダル漕ぐ
電動で登る坂道秋暑し
牧内登志雄
青々と栗の毬立つ反抗期
ハロウインの南瓜が笑ふ焼鳥屋
秋霖や衣の重き僧の列
鎮守への標となりぬ曼珠沙華
中田順子
吊り橋を後ずさりする秋の川
夏長し秋を忘れているほどに
港からはじまる赤い羽根募金
秋しぐれ急ぎ駆け込む寺のあり
北岡昌子
秋の空船と飛行機交差する
秋の朝水面に白い雲浮かべ
運動会塀越しに見る親のあり
黄金虫生きてるように横たわり
大里久代
コスモスや色とりどりに背を競い
金木犀漂う香り上等に
秋祭太鼓に腹を踊らせる
畦道の一輪差しの野菊かな
西前照子
赤とんぼグランドゴルフ悠悠と
すすきの穂窓から見える屋根のあり
秋の海近づいてくる淡路島
二人にて銀杏匂う御堂筋
野間禮子
スカーフのサイクリングや秋の空
十五夜の見よう見まねで作るあん
秋を行く脳梗塞の後の一歩
はいポーズ孫とばあばの秋の水
*岬町小島にて。
香天集10月1日 岡田耕治 選
玉記 玉
蓮の実泡わずか立て沈みけり
水澄んで紅が痛くてフラミンゴ
狼の夢を覗きに秋の穴
一睡の南蛮煙管のまま果てる
森谷一成
行く夏の備中鍬に漉き込まれ
心柱顫えておりぬ秋の蝉
秋蝶の刺繡この先行き止り
代打より代走が好き草の花
谷川すみれ
あいまいな愁思拠らば飛行機雲
私のコスモスから君のコスモスへ
もみづるや橋の途中の潦
選ばれし者の碑桐一葉
浅海紀代子
立って飲むラムネよ空の下りてくる
踊見の路地の暗きに戻りけり
山鳩の声のくぐもる秋暑し
とんぼうに浮遊の心預けおり
夏 礼子
右耳の風よ左のつくつくし
秋扇黙が揺らぎとなりにけり
虫の声無人踏切わたり合う
秋風やこころ無頼でありつづけ
佐藤 俊
ましら酒戦後と言うはどのいくさ
秋の日の爪ひたすらに伸び続け
ちちろ鳴く人の世の穴深くして
地にひそむ蟋蟀時に人の顔
辻井こうめ
記名入りの代本板や夏休み
列島の茄子の浅漬け茶漬け飯
秋の空遺品何から始めけむ
獣脚類生れし処今年米
湯屋ゆうや
妹も同じ日に炊く栗の飯
戦争は終わったのかと処暑の父
日曜と名のつく日あり秋の晴
団栗は黒い机の節穴へ
柏原 玄
「おはよう」の弾む秋立つ日なりけり
六林男の碑過りて父の墓洗う
ゆったりと生きているなり花芙蓉
疲れたら「六林男の視線」秋灯
宮崎義雄
霧の音大きく山の雨あがる
秋高しパンクを修理しておれば
太刀魚の浮子ぼんやりと沈みけり
林道を占めはじめたる薄かな
松並美根子
敬老日忘れたくなきこと忘れ
真っすぐの道まっすぐに稲穂波
手を取りて笑顔のふたり水引草
手花火の少し日暮れを待ちにけり
岡田ヨシ子
この先は右か左か秋の暮
長生の初めて出会う秋暑かな
雑草に姿を消しぬ彼岸花
花薄色に迷いて筆洗う
森本知美
無花果の憤懣ジャムに煮込まれる
案山子たち着替えて明日は日曜日
木に残る栗と見ている紀伊水道
竹春の雨に撓いし飛沫かな
前藤宏子
青空の中へ蜻蛉も飛行機も
覚えたいことだけ覚えとろろ汁
一世紀生きてみたしと星月夜
友の訃を友に伝えて花芒
丸岡裕子
ふらり来る秋の黄蝶追うてみる
秋祭待つ紅白の捩り幕
震災忌百年前の熱き風
水漏れの難を横目に秋桜
金重峯子
満月や気がかりの無き一日なり
持ちきれぬ不安そのまま夏の果
祝うより祝われる日に敬老日
花は姫実は鬼角のオクラかな
垣内孝雄
風の日のウッドデッキに来る小鳥
しもつけの色の濃きもの薄きもの
気まぐれに求む仙人掌花ひらく
ひとときにはゆる黄をもて秋の蝶
吉丸房江
日々草今日も元気に日々草
つゆ草のただひと朝の青の色
育てたる秋茄子どうぞ召し上がれ
満月や銀の光の声がする
安田康子
天高し尻尾も食べる海老フライ
長き夜やベッドの上のストレッチ
進みたる分針合わす秋の夜
長き夜や歯磨時間ゆるゆると
木南明子
朝露や雨蘭の白の光り合う
蜘蛛の糸張りめぐりたる優越感
空青し競って育つ糸瓜の黄
祭笛にわかに村の沸きあがる
目 美規子
枝豆の塩加減良し自画自賛
秋袷着こなしているジャズライブ
ナンバーはぞろ目の外車敗戦日
幼子のはにかむしぐさ赤とんぼ
*鳥取県倉吉駅にて。
香天集9月24日 岡田耕治 選
加地弘子
前脚は合掌をする空蝉よ
順調に仕上がり釣瓶落しかな
手で押して傾げて通る烏瓜
二回目のジャスミンが咲く葬の夜
渡邉美保
重なりて紅昏き葉鶏頭
引き算は苦手トノサマバッタ追ふ
きりぎりす保育ルームの籠の中
もう誰も乗らぬ自転車とんぼ来る
中嶋飛鳥
登高の片寄っており塩にぎり
狗尾草傷心をもてあましたる
吾亦紅忘れることのない名前
行く夏の鍵穴にある遊び癖
楽沙千子
靴底の熱のつたわり草の花
何もかも不足のなくてふかし藷
挨拶に挨拶返る秋桜
気の置けぬ客を迎えて涼新た
安部いろん
稲妻が止む少年の憧れも
答えのない応え濃霧注意報
占いを信じておらず牽牛花
迢空忌子供は泥の匂いせず
古澤かおる
白粥に卵を落し秋浅し
塵取りに納まる猫と秋に入る
置物のカエルにかける秋の水
青栗ときんつば並びショーケース
河野宗子
無花果や生家の香り口中に
初めての人待つカード鳳仙花
思い出の靴を捨ており敬老の日
栗入りのジャム独り占めすることに
田中仁美
星涼し出会いし人と見上げたる
三人の浴衣姿の夜鳴きそば
ワンピース蚊にさされるを覚悟して
友の顔浮かび冷酒を選びけり
兵庫県にて。
香天集9月17日 岡田耕治 選
三好広一郎
ひとりより一人を誘う夜の秋
秋の詩に奪われ消える途中かな
落ち葉踏むきれいな音も病んでいる
一曲を分け合っている赤蜻蛉
柴田亨
祖父の手よごつごつとして柔らかき
星月夜街は病に沈みいる
向こうから帰ってきたとビール汲む
九月来る献杯のあと乾杯し
木村博昭
ゆく夏の漂着したる簡体字
かなかなや納屋に錆びたる肥後守
声を出しひとりで笑う鰯雲
蜻蛉の交尾のかたち平和なり
久堀博美
地底より海の高くて裸の子
ひとときは五感を休め髪洗う
秋探す太平洋の傾きに
刻々と秋に近づく機上人
釜田きよ子
目薬の苦味残れる夏の果
朝ご飯しっかり食べて昼寝する
赤とんぼ群れて一村静かなり
百日の子にある意思よ雲の峰
宮下揺子
かき氷天辺よける婆二人
針と糸持たない女震災忌
芭蕉布の張りを楽しむ鎖骨かな
子守歌自分に歌う熱帯夜
神谷曜子
玄関に光る金亀子の行き倒れ
素足にて踊れば床の呟きぬ
冷房の只今母は脳ドリル
紅茶店の女主に翳る夏
岡田ヨシ子
誕生日へ指折っている九月かな
小鳥くるスマートフォンの学び好き
フライパン重くなりゆく秋茄子
月光や破れ障子に消されたる
堺市にて。
香天集9月10日 岡田耕治 選
谷川すみれ
八月と最後の砂を持ち帰る
このところ死者の懐かし零余子飯
台風裡鯉は腹より動きけり
新しい空気を広げ花木槿
三好つや子
鉄分の足りぬ顔なりサングラス
つづれさせ英霊の声とも地霊とも
秋桜栞はいつも待つかたち
秋風をマッコウクジラの骨泳ぐ
浅海紀代子
炎昼や潜めるごとく息をする
ひまわりに漂っている疲倦かな
送り盆風の音よりたそがれる
それぞれに居場所ありけり虫の夜
砂山恵子
生きめやもと風の音聞く九月かな
村落は一塊となり夕月夜
長き夜や子犬の中の日のにほひ
たうがらし哀しみのごと尖りけり
釜田きよ子
蛇の衣脱ぎっぱなしを忘れおり
世の中が真っ白に見え昼寝覚
熟年のあとの老年沙羅の花
眼と鼻は通じる仲間秋の風
春田真理子
三界を歪めていたる極暑かな
草を取る小さき骸のありにけり
遠花火知らぬ間に河渡りおり
まるき眼に口一杯の舐瓜かな
川村定子
紫陽花や雫とともに切り取らる
梅雨明ける一座の雲も寄せつけず
朝顔や地蔵の足に巻きすがる
青竹を割りコスモスの一輪を
秋吉正子
天高し廃校を鳴るバイオリン
秋入日今度は何を捨てようか
朝顔を数え一日始まりぬ
無花果と赤飯を持ちおばあちゃん
牧内登志雄
早々に仕度ととのふ月見酒
草野球二死満塁の空高し
八千草を分けて同行二人かな
物の怪のどろろと消ゆる月の裏
北岡昌子
本殿へ向かっていたり蛇の衣
産土の夏藤小さく揺れるなり
風鈴の音色にありし睡魔かな
境内を広くつくつくぼうし鳴く
大里久代
突き刺さる太陽のなか百日紅
台風が日本列島つなぎゆく
白桃やしたたり落ちて手に受ける
垣根より伝うブーゲンビリアかな
西前照子
大きめの麦わら帽子年取らず
墓の前お辞儀している夏の菊
小学校からの親友夏越せず
足を止め夕空眺む秋隣
野間禮子
無花果や紙の袋をかぶせおく
夏野菜雨はまだかと空仰ぐ
稲の花無事収穫の笑顔待つ
朝夕にピアノ流れる夏休み
勝瀬啓衛門
鈴虫や猫の寝息と置き換わり
夕刻の虫の饗宴帰りゆく
黄金に頷き交わす稲穂かな
空を割り雨を呼び込む稲光
*岬町小島の朝焼。
香天集9月3日 岡田耕治 選
渡邊美保
炎天にはりついている戦かな
風景の隅つこにある貝風鈴
サーカスのテントを覗く白鶺鴒
ねこじゃらし此岸は崩れはじめけり
玉記玉
青虫の森にはリボン掛けてある
白象の昼を見ている原爆忌
もうひとり私がいても零余子飯
かなかなかな祈りは石に刻まれる
森谷一成
勝馬に見られてしまいサングラス
民間軍事会社てふへんてこ飯饐える
試みの醜きさまよ旱星
繰り返し手を置いてみる敗戦日
浅海紀代子
思い出の干されていたり土用の日
一人居に一日の長し月見草
明け易し消しては書くを繰り返し
たそがれは我が影細る夏の果
佐藤俊
青空に行き止まりあり夏の富士
覚えなき指の傷あり秋湿り
あめんぼの翅あるところ見せたがる
腹中に烏揚羽を養いて
砂山恵子
東京へ嫁ぐ子金魚二匹連れ
ささくれたハモニカの音夏の果
スキップができぬ弟鳳仙花
同じこと言いて笑つて踊の輪
辻井こうめ
神楠に招かれてをり青葉木菟
空蝉の風に抗ふ前肢かな
邯鄲や鉄路眺むる遣唐船
勢いのときにうとまし百日草
安部いろん
新涼を溜めて木の葉の雨雫
蝉時雨下枝だけが風を知る
どっしりと無言のピアノ大西日
幼児の髪台風を近づけぬ
垣内孝雄
片陰にこそり雀の水飲み場
緑さす路地にそひつく石地蔵
薄緋の鳥の声きくにごり酒
げんまんの細きゆびもて秋螢
吉丸房江
一両の電車を通す稲の花
はやも酔う今年の梅酒芙蓉かな
たっぷりと日に焼けている孫の足
ワシワシと追われていたり蝉しぐれ