玉記玉
水際の石は滑らか啄木忌
春月に濡れたのだろう白孔雀
今日も昔明日も昔桜東風
噴水止まり石庭は塩の白
石井 冴
避雷針に並ぶ鳳凰つちふれり
ていねいに剥いて剥いても春きゃべつ
たんぽぽの首やわらかき出自かな
先生の息の混ざりし風車
加地弘子
仏の座席とり合戦はじまれり
嫁に来た頃とは違う椿の白
啓蟄や大欠伸してふるえたる
吹っ切れた明るさになり黄水仙
砂山恵子
芽吹く山加速度つけて広がるる
うぐひすや出生届出して空
歯ブラシは渦巻き模様夏近し
蝶が飛ぶ肩甲骨を煌かせ
坂原 梢
雪柳川やわらかく曲がりゆく
一面に聞こえて来たり春の鳥
たんぽぽに和洋折衷ひらきけり
豆の花黒い眼でみつめらる
安部礼子
いつまでも湖に好かれている桜
花吹雪本能寺にて燃え上がる
カンテラの灯が消え海女の肌緊まる
児の指の眠りきれずに春の昼
中濱信子
青空とじゃんけんをして白木蓮
春灯に濡れて真鯉の浮きにけり
知ることあまたある日の木の芽雨
桃の花嬰の笑顔を抱き上ぐる
古澤かおる
ブラウスの襟の丸みや春の月
バス停は桜吹雪に近すぎる
花吹雪危険知らせる赤い布
百千鳥今を忘れてしまいけり
大杉 衛
花冷えの金銀銅の静かなる
鳥雲に写経と沈香残りけり
行く春や畳の上の波がしら
蛇がいる等高線に沿いゆける
羽畑貫治
ピン球を仏に飾り柏餅
立ち漕ぎの空ブランコの速くなり
春深し横一線に飛行雲
深夜また裏声になる猫の春
竹村 都
夕日染む辛夷に集う子らの声
暖かやお店ごっこの客になり
先生の似顔絵持ちて卒園す
春霞海までの道遠くなる
越智小泉
一年生今まだ軽いランドセル
手を放る風船ビルの階覗く
いたずらな仔猫咥える親の猫
雀の子共謀罪いま審議中
立花カズ子
春筍朝の売り声高くして
ひと時のバレエの世界朧月
経本を読み返しつつ春惜しむ
陽光や花のたよりに出て来たる
西嶋豊子
春夕焼猫にも見えるように抱き
幼子の手に集まりて散紅葉
春の風邪亡き父の背にねむりたる
恋猫やひらりととんで行きにけり
*大教大天王寺キャンパスにて。