癌といふかなしみを飼ふひとに春 衣川次郎
「港」5月号。「かなしみ」を大辞林で見ますと、かなしむことの次にいとおしむことが続きます。「飼ふ」という動詞は、いとおしむことという意味も誘ってくるように感じられます。春という時間は、あなたにもわたしにも平等に訪れます。あなたは癌というかなしみを、わたしにはこうして生きて在ることのかなしみを、この春がつれてくるようです。ご自分をいとおしむことができる衣川さんだからこそ、このように人をいとおしむことができるのでしょう。
2016年5月7日土曜日
2016年5月6日金曜日
としよりを演じてゐぬか花筵 大牧 広
としよりを演じてゐぬか花筵 大牧 広
「港」5月号。花見をするために敷いた筵に、大勢が集まってきました。中でも高齢の作者は、その人柄もあって大切にされます。「としよりを演じる」、それだけでいいのかも知れません。集まった人に愛想よく、一人ではこころもとないというように過ごす。しかし、そうなることを真っ向から否定する、自戒にも似た響きにハッとします。常に社会に目を向けて作句してきた作者は、収斂し、内に籠もろうとする働きを、俳句の表現の上でも律しておられるのです。
「港」5月号。花見をするために敷いた筵に、大勢が集まってきました。中でも高齢の作者は、その人柄もあって大切にされます。「としよりを演じる」、それだけでいいのかも知れません。集まった人に愛想よく、一人ではこころもとないというように過ごす。しかし、そうなることを真っ向から否定する、自戒にも似た響きにハッとします。常に社会に目を向けて作句してきた作者は、収斂し、内に籠もろうとする働きを、俳句の表現の上でも律しておられるのです。
2016年5月5日木曜日
はたとあふ眼のなやみある白日傘 飯田蛇笏
「俳句」5月号。飯田蛇笏についての大きな特集は、読み応えがあります。どうすれば上達するかというハウツウよりも、一人の俳人とじっくり出会うことの方が、上達するかと思える特集です。はたと出会った人の、その眼を見た瞬間に何か重い悩みを抱えていると判ったのです。その人はそれを隠すために白い日傘を選んだのでしょうが、蛇笏さんは一瞬にしてそれを見抜いてしまいました。しかし、「どうかされたのですか?」なんて声をかけることはしなかったでしょう。「その日傘、お似合いですよ」とだけ声をかけたのではないでしょうか。俳人の息遣いが感じられる一句です。
2016年5月4日水曜日
卒業や見とれてしまふほどの雨 櫂未知子
卒業や見とれてしまふほどの雨 櫂未知子
小・中学校に勤めているとき、卒業式や入学式、ことに卒業式は晴れて暖かくなって欲しいと願ってきました。だけどこの日はあいにくの雨で、気温も低いようです。ただ、雨は雨でも「見とれてしまふほどの雨」ですから、未練は残りません。こんなきびしい世の中へ巣立っていく卒業生。式の間、ザーッと音を立てて、しかも真っ直ぐに降り続く雨の中にこそ、希望は在るのかも知れません。定型を愛し、定型に挑み続ける作者ならではの秀句です。
小・中学校に勤めているとき、卒業式や入学式、ことに卒業式は晴れて暖かくなって欲しいと願ってきました。だけどこの日はあいにくの雨で、気温も低いようです。ただ、雨は雨でも「見とれてしまふほどの雨」ですから、未練は残りません。こんなきびしい世の中へ巣立っていく卒業生。式の間、ザーッと音を立てて、しかも真っ直ぐに降り続く雨の中にこそ、希望は在るのかも知れません。定型を愛し、定型に挑み続ける作者ならではの秀句です。
2016年5月3日火曜日
体からこころこぼれて花は葉に 池田澄子
体からこころこぼれて花は葉に 池田澄子
「俳句」5月号。人は頭で感じ考えるだけでなく、体でも感じ考えると言われます。それが一人の人間のうちにあるときはいいけれども、こころがこぼれてしまうことがある、と。歳を重ねていきますと、自分が感じたり考えたりしたことが何ととりとめのないものなのかと思うことがあります。こころはこぼれ出たら最後、もう戻らないというおそれもあります。しかし、澄子さんは「それもいいのよ」と肯定されているようです。「花は葉に」は、花を失った緑ではなく、花の明るさをたたえた緑なのだと気付かせてくれる、さわやかな一句です。
「俳句」5月号。人は頭で感じ考えるだけでなく、体でも感じ考えると言われます。それが一人の人間のうちにあるときはいいけれども、こころがこぼれてしまうことがある、と。歳を重ねていきますと、自分が感じたり考えたりしたことが何ととりとめのないものなのかと思うことがあります。こころはこぼれ出たら最後、もう戻らないというおそれもあります。しかし、澄子さんは「それもいいのよ」と肯定されているようです。「花は葉に」は、花を失った緑ではなく、花の明るさをたたえた緑なのだと気付かせてくれる、さわやかな一句です。
2016年5月2日月曜日
「浅蜊」 岡田耕治
「浅蜊」 岡田耕治
遠足のリュックサックを鳴らしけり
ものを食うときは並びて春の川
お玉杓子記憶の海へ放ちたる
草青む今日会う人の瞳にも
古草や背中に負いて軽くする
質問の角度が変わり松の芯
種袋振って気持を動かしぬ
蓮華草牛の咀嚼に巻き込まる
手を添えて人送り出す朧月
朧夜の骨を休めていたりけり
何時までも眠らずにいる浅蜊かな
夏兆す一枚の皿沈めおき
遠足のリュックサックを鳴らしけり
ものを食うときは並びて春の川
お玉杓子記憶の海へ放ちたる
草青む今日会う人の瞳にも
古草や背中に負いて軽くする
質問の角度が変わり松の芯
種袋振って気持を動かしぬ
蓮華草牛の咀嚼に巻き込まる
手を添えて人送り出す朧月
朧夜の骨を休めていたりけり
何時までも眠らずにいる浅蜊かな
夏兆す一枚の皿沈めおき
2016年5月1日日曜日
香天集5月1日 石井冴、安田中彦ほか
香天集5月1日 岡田耕治 選
石井 冴
クレーン車に人が小さく山壊す
プレートはつつじの花に埋もれたる
青蔦の走る校舎を毀ちけり
後ろにも日があり青鷺の直立
安田中彦
大阪や春服の犬ありきをり
牽引の骨が鳴ります春ららら
春落葉ときに家禽の捌かるる
哀しみの人へ新樹を一揃ひ
中嶋飛鳥
靴鳴らす信太の杜の春落葉
日本桜草は答えを知っており
筋肉を痛みの動く花曇り
三十回噛むことを課し春を送る
橋爪隆子
ボールペンに機嫌のありて春の昼
集合の声のかかりし土筆かな
春光と練羊羹を運び行く
行き先はこれから決める花衣
釜田きよ子
ドローンとも仲良くしたいしゃぼん玉
どうしても赤く塗りたしチューリップ
陽炎の入っておいでと声のする
掛け軸の虎の慟哭春の地震
大杉 衛
霾ぐもり返信を待ち老いゆけり
ひとはみな坐り直して端午の日
折り返し地点は渇き麦の秋
麦の秋点線に沿い切り抜いて
橋本惠美子
風光る電動自転車充電中
これからの暮らしを想い雛納め
枝垂梅折れる手前を盛りとす
補聴器のかわりを務め春隣
中濱信子
白壁の閑かさにあり日脚伸ぶ
木蓮の白早天を呼び寄せて
春埃して不動明王緩びたり
ふるさとの櫻の見える失意かな
前塚嘉一
ひとりごはんふたりごはんの浅蜊汁
父と子の二人暮らしや君子蘭
春嵐パキリと折れる傘の骨
春嵐神は沈黙しておりぬ
浅海紀代子
菜の花や記憶の径の繋がりて
衣擦れの路地を行き交う春祭
燕の巣見上げて朝の始まりぬ
たんぽぽの境界線の煙りけり
木村 朴
一樹づつ花の名を誦み通り抜け
陽炎の向かう警察機動隊
蜥蜴出て突掛草履驚きぬ
一角はソロプチミスト牡丹園
藤川美佐子
行く春の真っすぐとある道標
母の忌の声を届けて山桜
考妣とともに愛でおり夕牡丹
牡丹明り淡きは妣の名残とも
森谷一成
ほそみちを縫うて追いけり春の月
秒針の力尽く日の春愁
濡れぬ地のかけらに群れて四月尽
口下手の漢集まり花菖蒲
坂原 梢
ものの芽の上手に作る萌葱色
手帳には約束つまる聖五月
逃げ水や胃によりかかる膵臓癌
途中から無邪気になりし春嵐
浅野千代
吹かれ来て形をなくす花の塵
百千鳥東言葉の女子ら去る
花の寺までの二千歩想いけり
花冷の公園にいるリスに歌う
羽畑貫治
腹一杯麦飯食べて俟っており
ピン球に開花の便り届きけり
いかのぼり気管支炎を落ち着かす
癌探る磁気を通りし青時雨
越智小泉
追い追われつつ初蝶とゆく散歩
遠目には滝かと想う雪柳
対岸のさくら七年独り見る
風車走ることしか児は知らず
古澤かおる
春の月三匹並ぶ招き猫
手を振る父お辞儀する母おぼろ月
ホーホケキョゼロ歳からの英会話
夕桜名前で妻を呼んでいる
立花カズ子
うららかや親子の亀の賑わいて
亀鳴くや妹の唇まじまじと
癒えし身の桜あかりの中に立つ
青天や花の中なる鳥の声
岡田ヨシ子
頭上飛ぶ魚を見つめ春の海
ゆっくりと歩む曾孫を舞う桜
淡路島描きたくなる春日影
鶯や畝を作りし鍬休め
石井 冴
クレーン車に人が小さく山壊す
プレートはつつじの花に埋もれたる
青蔦の走る校舎を毀ちけり
後ろにも日があり青鷺の直立
安田中彦
大阪や春服の犬ありきをり
牽引の骨が鳴ります春ららら
春落葉ときに家禽の捌かるる
哀しみの人へ新樹を一揃ひ
中嶋飛鳥
靴鳴らす信太の杜の春落葉
日本桜草は答えを知っており
筋肉を痛みの動く花曇り
三十回噛むことを課し春を送る
橋爪隆子
ボールペンに機嫌のありて春の昼
集合の声のかかりし土筆かな
春光と練羊羹を運び行く
行き先はこれから決める花衣
釜田きよ子
ドローンとも仲良くしたいしゃぼん玉
どうしても赤く塗りたしチューリップ
陽炎の入っておいでと声のする
掛け軸の虎の慟哭春の地震
大杉 衛
霾ぐもり返信を待ち老いゆけり
ひとはみな坐り直して端午の日
折り返し地点は渇き麦の秋
麦の秋点線に沿い切り抜いて
橋本惠美子
風光る電動自転車充電中
これからの暮らしを想い雛納め
枝垂梅折れる手前を盛りとす
補聴器のかわりを務め春隣
中濱信子
白壁の閑かさにあり日脚伸ぶ
木蓮の白早天を呼び寄せて
春埃して不動明王緩びたり
ふるさとの櫻の見える失意かな
前塚嘉一
ひとりごはんふたりごはんの浅蜊汁
父と子の二人暮らしや君子蘭
春嵐パキリと折れる傘の骨
春嵐神は沈黙しておりぬ
浅海紀代子
菜の花や記憶の径の繋がりて
衣擦れの路地を行き交う春祭
燕の巣見上げて朝の始まりぬ
たんぽぽの境界線の煙りけり
木村 朴
一樹づつ花の名を誦み通り抜け
陽炎の向かう警察機動隊
蜥蜴出て突掛草履驚きぬ
一角はソロプチミスト牡丹園
藤川美佐子
行く春の真っすぐとある道標
母の忌の声を届けて山桜
考妣とともに愛でおり夕牡丹
牡丹明り淡きは妣の名残とも
森谷一成
ほそみちを縫うて追いけり春の月
秒針の力尽く日の春愁
濡れぬ地のかけらに群れて四月尽
口下手の漢集まり花菖蒲
坂原 梢
ものの芽の上手に作る萌葱色
手帳には約束つまる聖五月
逃げ水や胃によりかかる膵臓癌
途中から無邪気になりし春嵐
浅野千代
吹かれ来て形をなくす花の塵
百千鳥東言葉の女子ら去る
花の寺までの二千歩想いけり
花冷の公園にいるリスに歌う
羽畑貫治
腹一杯麦飯食べて俟っており
ピン球に開花の便り届きけり
いかのぼり気管支炎を落ち着かす
癌探る磁気を通りし青時雨
越智小泉
追い追われつつ初蝶とゆく散歩
遠目には滝かと想う雪柳
対岸のさくら七年独り見る
風車走ることしか児は知らず
古澤かおる
春の月三匹並ぶ招き猫
手を振る父お辞儀する母おぼろ月
ホーホケキョゼロ歳からの英会話
夕桜名前で妻を呼んでいる
立花カズ子
うららかや親子の亀の賑わいて
亀鳴くや妹の唇まじまじと
癒えし身の桜あかりの中に立つ
青天や花の中なる鳥の声
岡田ヨシ子
頭上飛ぶ魚を見つめ春の海
ゆっくりと歩む曾孫を舞う桜
淡路島描きたくなる春日影
鶯や畝を作りし鍬休め
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