2016年10月16日日曜日

長き夜の笑えば泪出でにけり 久堀博美

長き夜の笑えば泪出でにけり 久堀博美
 香天集10月9日。気温が低くなりましたので、夜の長さを実感できるようになりました。人は、笑うことによっても「泪」が出てくるのですね。対話でしょうか、映画でしょうか、小説かも知れません。心を動かす温もりのある刺激は、涙腺を緩ませてくれます。また、「の」の働きによって、「長き夜の泪」という意味合いにも取れますので、この泪はその場限りのものではなく、久堀さんの長い人生の泪であるように感じられます。いい泪と出会うことができました。
*昨日出張で出かけた富山県民会館のエントランス。

2016年10月14日金曜日

木琴に日が射しをりて敲くなり 林田紀音夫

木琴に日が射しをりて敲くなり 林田紀音夫
 ものを書くときの四つの要素、「いつ」「どこで」「何が」「どうした」のうち、「どこで」を書かない方が俳句は成功しやすいと、鈴木六林男師から教わりました。「いつ」というのは季語が担うのだということも。さらに、「いつ」さえも書かないで、「何が」「どうした」という二つの要素だけで書くのが無季俳句だと。だから難しいのだとも。その教えからすると、紀音夫さんのこの句は、無季俳句の極みにあります。登場するのは、木琴と日だけです。古びた木琴に日が射してきて、日光がまるで木琴をたたいているように、かすかな音が聞こえてきます。なんという高度な書き方でしょう。
*広島県府中市の府中学園の教室。

2016年10月11日火曜日

秋祭スイッチ押せば始まりぬ 大西龍一

秋祭スイッチ押せば始まりぬ 大西龍一
第44回膳所俳句大会・花谷清特選・岡田耕治特選句。10月9日に行われた膳所俳句大会には、50人ほどの参加があり、一人二句の出句でした。大会の選者は、花谷清さん、ふけとしこさん、それに私の三人。ご参加の皆さんとともに5句選をして、そのうちの1句を特選にしましたが、たまたま花谷さんと私とが同じ大西龍一さんのこの句をナンバーワンに指名しました。
当日は、大津祭が行われていましたので、その光景かもしれません。俳句の書き方がやさしく、それでいて、俳句のもっているものは奥深い、そんな秀句です。秋祭という古から続いてきた行事と、スイッチという硬質で、現代的なモノとを配置していて、新鮮です。このスイッチはどんなスイッチでしょうか。宵宮にさきがけて、点灯した提灯のスイッチかも知れません。地車の倉庫の電灯のスイッチかも知れません。あるいは、単に目の前のテレビのスイッチだってOKです。どんどん想像がひろがるところが、この句の面白いところです。大西さん、おめでとうございます。
*膳所(ぜぜ)俳句大会が開催された大津市生涯学習センター。

2016年10月10日月曜日

「桜の木」12句 岡田耕治

桜の木   岡田耕治

一人ずつ腰掛け秋の更衣
水上に睡る刻来る星月夜
花芒われをあらたに通り抜け
湯上がりの香りの中の林檎かな
腹減らす者が集まり吾亦紅
秋の水ズボンを濡らし上がりくる
塗箸を持ち替えている里芋煮
新聞を敷いて寝ている天の川
無花果を食べ新聞を濡らしけり
一歳のまなこがとらえ鳥兜
サフランや向きを同じくしていたる
真っ先に裸になりし桜の木
*昨日、膳所俳句大会に参加した帰り、膳所城跡に行ってきました。

2016年10月9日日曜日

香天集10月9日 久堀博美、中嶋飛鳥、中村静子ほか

香天集10月9日 岡田耕治 選

久堀博美
秋風や鼻につながる耳と喉
抉れたる山肌映し秋の水
変りゆく街の風景鬼やんま
長き夜の笑えば泪出でにけり

中嶋   飛鳥
秋の空目薬の木を一揺すり
鶏頭花ときに女の貌を見せ
拾うても拾わなくても木の実降る
秋深む祇園舎の鐘背後より

中村静子
蟷螂のまなこを雲の溢れけり
ぶつかって一声を出す夜の蝉
酔芙蓉一番星の揺らぎけり
鼻唄の近づいて行く星月夜

羽畑貫治
開け放つ形に抜けて土用東風
百日紅愛しき肌の匂いけり
狗尾草南海トラフ近づきぬ
老いてなお食欲あおる茸かな
*久しぶりの晴天が、10月7日8日と。

2016年10月8日土曜日

手をつないだりタンポポ握つてゐたり 久里順子

手をつないだりタンポポ握つてゐたり 久里順子
句集『風景』邑書林。静かに呼吸すること、静かに日常を見つめることの豊かさを伝えてくれる句集が誕生しました。びっくりしたり、ハッとしたりすることではなく、作者のまなざしを愉しみながら読んでいくことができます。手をつなぐこととタンポポを握ることをこのように置かれますと、実は手をつなぐことそのものにとっても価値があるのだということに気付きます。どうしても、手をつなぎ、次に唇を求め、体を求めとエスカレートしてしまいますが、手をつなぐことの中に全てがあるのだと、一句は静かに語っています。順子さん、いい句集の御出版、おめでとうございます。
*大阪教育大天王寺キャンパスのベンチです。手をつなぐことも可能です。

2016年10月7日金曜日

不意の日は今なお昏し著莪の花 渡辺誠一郎

不意の日は今なお昏し著莪の花 渡辺誠一郎
「小熊座」10月号・東日本大震災五年記念特集。「不意の日」とは、どんな日だろうかと思い遣ります。不意は、思いがけないことですから、だしぬけにあの震災の日が蘇ってくる日ではないでしょうか。そんな日は、今なお昏く誠一郎さんを襲います。コメントは、「震災から五年が過ぎたが、いまだに海を直視できない」と始まっています。木蔭の内にあって鮮明に小さな花を伸ばす「著莪の花」であればなお、不意の日は訪れやすいのです。
*大阪市内で見つけた露草。